カンジ語る
「まぁ。とりあえず俺の名前はカンジ、お前らナガミミが、" ゴブリン"と呼ぶようなやつだ。まあ最初、ミラに、ナガミミが、そう、呼んでると聞いて驚いたな俺は、何故だかわからんがそういうんだろう?」家主――カンジはあっけらかんとしたように自分がゴブリンと呼ばれていることを堂々と話してくれた。
「そっちにいる、君の名前は何というのだね?」カンジは、どうやら、僕の名前を聞きたいらしい。自分の名前を相手から、こんなに聞きたいと思われるなんて初めてだ。ゴクリ、唾を飲み込む、胸の奥が波打ってくる。
「僕は……」口から、なかなか言葉が出てこなかった。少し、体が震える。体がなんだか冷たい、自分の体じゃないみたいだ。
「大丈夫よ、カンジはね、こう見えて普通なのプッ」
「おいコラ、普通ってどういう意味だ、まぁそういうこった、気楽に言ってくれ。」
2人が気づかってくれてるようだ、こんなことは、初めてなことだ。そう、お母様や、お姉様にしか、やってもらった覚えはない。スゥ――ゆっくりと息を吐いていく。だんだんと、体の震えがなくなってくる。口が、自分の味方をした。
「僕は、アノン、この名前はお姉様のものも、貰ったものなんだ!」ようやく言えた。嬉しい。
「そうか、アノンか、いい名前だな、きっとお前の姉ちゃんはきっといい奴だったのだろうな」
お姉様を褒められるとなぜだか、自分が褒められたようで嬉しい。ちょっと胸が暖かくなる。
「そういや、ミラ、お前は父ちゃんから貰ったんだったな。」カンジはそう言って、ミラにぶっきらぼうに名前の由来を聞いた。
「そうよ……」ミラは元気がなさそうに答える。どうしたのだろうか何か辛いことがあったのだろうか?そういえば、僕と一緒で、神様じゃなくて、大切な人から貰ったのだった。
そう考えると、僕とミラは本当に一緒なのかもしれない。そう考えると嬉しい。
「大丈夫だよ、ミラ、いい名前だ。」そう言って、ミラの手を握り返してみる。
「そうだね、そうだね。」そう言って、弱々しく、握り返してくる。
なんだか、ミラの新しいところを感じた。こういう感じを見るというのかもしれない。僕もミラのことが見えるようになるのかも。
「まぁ、すまんな辛いことを覚えだしちまってな。」カンジは、ミラについて謝る。
むしろ、僕にとってはミラの新しいところが見えたから僕の方から逆にお礼を言いたい気分だった。頬が自然と緩んでくる、今までこんなに緩んだことはなかったのに。じわりじわりと手が強く握られるのを感じる……だんだんと痛くなってくる。
「ねぇ、アノン今君余計なこと考えたでしょ」
声が怖い……ほかの誰よりも怖かった。まったく、ミラには敵わない。
「まったく、お前らを見てるとこっちが恥ずかしくなってくるわ。」
「うるさいわね、さっさと続きを話すわよ。」
「まったく、お前らナガミミは、非常が手に取るように見えやすいんだよなぁ。」
そう、カンジは、愉快そうに話している。
ナガミミ?どういうことだろう?ここに来てからカンジがずっと僕たちのことナガミミと呼んでいる気がする。
「ねぇカンジさん?」意を決して聞いてみる。
「何だよ、アノン?別にカンジでいいよ。」
カンジは懐深く受け入れてくれるそんなの初めてだ。なんだか、目の縁が霞む。こんなふうに相手の名前を呼べるのはミラだけだったのだから。
「ほらほら泣くなってなぁ。まぁミラとかの話を聞いてるとお前らも大変そうだからなぁ。これで拭いときな」そうやって、ちり紙を僕の手の中まで渡してくれる。
ちり紙で顔を拭う。こんなのは、はじめてだった。顔がぐしゃぐしゃならない。そうすると、ちょっと胸が落ち着いてくる。
「ねぇ、カンジなんで君は僕たちのこと"ナガミミ"って呼ぶの?」
「お前ら、だって耳が尖って長いもの、それだけ。」たったそれだけの理由だった。
「まぁ、そういやぁお前らナガミミは意味わからんこと言いながら火とか不思議な奴なんかをぶっ放してくるからよ、本当に怖いよ。」
どうやら、僕達の同類はそんなことをやっていたのか。爺やたちは管理できてない、魔物は駆除するべきだと、行っていた。そうか、やられる立場ならそう見えてるのか。
「そういやさっきも不思議に思ったけど、アノンはなんで俺の言葉がわかるの?まぁ、俺もようナガミミが不思議なこと出来るからさぁ気になったよ……勉強したから話せるけどさぁ、今は村の言葉で話してるぞ。」
僕だって、よくわからない。言葉なんて違いがあるなんて知らなかった、そう魔物は話せないって言われてたから。でも、"あの光"に触れてから何かを教えてくれたかも。
「僕だってわからないよ、うーんでもそういえば、たぶん寝ているときだけど夢でなんだか誰かが教えてくれたのかも。」
「面白いなぁ、やっぱり魔法を使うやつは違うなぁ」カンジは得心がいったかのように平坦な声で話す。
魔法を使う?僕は、そもそも魔法なんて使った覚えなんてない。そして、僕は名前すら教会でもらってない。
「アノンは魔法が使えるの?」ミラが興味津々で、僕に聞いてくる。
「僕にも、わからないよ、だってミラがいたときは何も使わなかったし、使えてたらあんなところいないよ。」
「でも、アノンたしか、あなた何かと話してたわね、私には聴こえなかったけど。」
そういえば僕は”あの声"と話していた気がする、というかもっぱら僕の声は無視されてた気がするけど。
「へぇそれは面白いなぁ、ナガミミの本かなんかによるとたまに魔法を使うときとかに神かなんかが聞こえるらしい」カンジは、そう言って神妙そうに言っている。
なにか、含みがありそうな言い方だ。
「だとして、僕が何で魔法を使えると思うの?」
「それはなアノン、お前がナガミミが管理している森を半分壊した、いや消したからだ」何を言っているのか分からなかった。
「嘘っ」ミラも言葉を失ったようだった。
家の空気が重苦しい、そうあのどこまでも深いあの、生命の音すらない森だ。その森が半分消えたというのが信じられない……しかも僕がそれを消しただなんて。
「で、でもアノンであるかはわからないわ」
「それはな、ここまでな轟音が聞こえてきたんだよ、川の向こうのここまで、それでなジジイに俺が行けって要は体のいい厄介払いみたいなもんよ。」
「それでそれで」ミラの声が思いのほか大きい、ミラは気になっているようだ。
僕は、やっぱりそれどころではない、なぜかこれは聴きたくない。胸の奥が震えるのを感じる。これは、ミラと一緒にいるときとも違う。体が胸の奥の震えとは、また違った震えを起こしている。体が全く言うことを聞いていない。
「それでよその音がする方角に行ったら普段はよ、ナガミミの兵隊たちがいてな、その森の入り口と出口にいてな固めているわけよ。」俺も昔、肝試しで行って魔法やらなんやらナガミミの兵士が何か喚きながらよぶちまけてよ、死にかけたわさ」
「アンタの武勇伝なんてどうでもいいのよ!」ミラはとにかく、森のことが聞きたいようだ。息遣いが荒い、息遣いが自然と聞こえてくる。ミラの胸の高鳴りが聞こえてくるようだ。ミラは、何をそんなに聞きたいのだろうか、僕はそれを聞いたら、ミラとはずっと一緒に、そして静かに過ごせない気がした。
「そうだわな、それでな、お前らが倒れてたんよ?しかもなキレイにな、お前達だけだったんよ。そこにいたのが。」
なんとなく、胸の中で僕がやっぱりやったのではないかというところで落ち着いていく。
「それなら、ミラがやったかもしれないじゃないか?」僕は、そんな気持ちを振り切って、苦しまぐれにぶちまけた。
「あなたもわかってでしょ?私はねそういった力がないの……あったらよかったけど」ミラがこちらを諭すように伝えてくる。
「そうだな、ミラができるのはぶん殴るか、頑張って木を殴り倒すくらいだがな、まぁもうちょいメスとしてお淑やかになってほしいものだがな」
「うるさいわね」パチン
「いってぇな、まったく歳上を敬えよ」
「うるさいわね、ねぇアノンあなたがどんな存在であろうとも関係ないわ」
そう言って僕の手を包みこんでくれる。本当に戦った手のような感じで頼もしい。
やっぱり姉さんと手の感じは違う。でもなんとなく、僕を包みこんでくれる。でも、もうちょっと落ち着いたほうが良いかなと僕も思った。
「アノン、君もカンジと同じこと考えたでしょ」声は笑っているが、なぜだが怒られている気がする。
「そんなことないよ」
「そうなの?」ミラが詰め寄ってくる、やっぱりミラには敵わないや。
「そうだよ!」
「ふーんならいいけど」
ミラはそう言って手を離してくる、なんとか逃れられたようだ。
「まぁ、そういうことだ!アノン俺らは、お前がどこの誰だろうと受け入れるよ」
カンジは、そう言ってくれた。それでも、怖いのは僕がその森を消したことは消えない。そう、この後どうなるのかそれすら分からない。
「しかし不思議なのは、アノンお前、なんで魔法師とかにならなかったんだ?そもそも、森を半分消し飛ばせるんだぞ?」
「ねぇ、カンジ、アノンがどうやって名前を貰ったのか聞いてなかったの?」
ミラはいつになく本当に怒っている。なぜだかは、わからない。
「なんだよ、ミラいきなり、アノンは姉ちゃんからもらったんだよな、姉ちゃん?あっ、すまん、本当に済まなかった」
カンジは何かに気づいたようだ。突然、真剣な声色で僕に謝り始めた。なぜか、胸の奥が暖かく感じる。謝られる、なぜかそれだけで嬉しい。
でもなんでだろう?なんで2人はこんなに必死なんだろう?そうだ、聞いてみれば良い。カンジは詳しそうだし。
「いや全然いいよ、よくわからないけど、なんでお姉様から名前を貰うことがそんなに謝られることなの?」
「うーん、それはな……」カンジは、何か言いづらそうに唸っている。
「アノンそれはね……」何故か、ミラも言いづらそうだ。
「いや、いいここはお前は言わなくていいんだ。」
ここに来てずっと、ふざけてたカンジが本当に真剣な感じで話している。
「ありがとう……」ミラは何故だか泣きそうだ、本当に弱々しいミラの声を聞くのは初めてかもしれない……。
何故か、僕が、森を半分消したことよりも2人の中では重大なのかもしれない。部屋に流れる風が不思議と冷たく感じる。
「よし、この際だアノン辛いかもしれないがしっかり聞けよ。」
なにか大事な話が始まる……そう思うと不思議とこれまで震えていた体なぜだか熱くなっていく。何か新しいことが知れそうでわくわくする……。
「それはな……お前らナガミミの習性があるんだよ」
カンジはなぜか、嫌そうに話している。僕は、嫌そうにする話し方は、何度も聞いていた。そう、でもこの話し方は僕に向けられたものではない、話していることが嫌なのだ……でも不思議と何故か、体が高揚している。どうしてだろう?続きが聞きたい、言葉が次々と出てくる。
「習性ってなんなの?」僕が、聞きたがるから、カンジは面を食らったように。
「うーん、それはなやっぱりお前が辛いなら辞めていいんだぞ?」
カンジは、そう言って聞かなくてもいいんだそと。そんなに、辛いこととはなんだろうか?少なくとも僕にはそんなことはなかった。
「僕は全然いいよ。」
「本当にか?本当に辞めてもいいんだぞ?」それほど、話しにくいことがあるのだろうか?
「さっさとしないさいよ、話さないなら私が話すわ!」ミラが、痺れを切らしたかのように切り出した。でも、なぜだろう?声が弱い、いつもの元気さがなかった。
「いや、本当に良い、お前の口から言わなくて良いんだ。よし、それはな、ナガミミというか、俺もようミラがなここに来てから知ったことなんだが、お前らはな魔法という世の中の理を身体で表現できるだ」
それは、なんとなく知っている。早く続きが知りたい……。
「それでな、その魔法というのが厄介なものでな、魔法を使う際にお前らナガミミとか他にも魔法を使う種族がいるらしいだが……そいつらはどうやら神様と契約しているんだ」
神様と契約?初めて知ったそんなことしていたのか。僕はふと不思議に思った、なんで僕が姉さんの名前を貰ったことが悪いのかわからない…どんどんとカンジの声が重苦しくなっていく。
「続けて」カンジが黙らないように催促する。
「その時にな、お前等の年で言うと7歳の時だその時にな、お前らナガミミは”名付けの儀式"をするんだ」
「……どうして?そこでその"名付けの儀式"?が関係するの?」
名付けの儀式……微かに覚えている、お姉さまのキラキラ光る光それだけはずっと手の中に残っている気がする。
「うーん、それはなこれはお前らのナガミミが信じていることも関係しているかもしれないが、お前らナガミミはな、名前を貰うとと同時に魔法が使えるようになると信じているんだよ。実際にな、それで使えるようになっているんだ」
「どうして魔法が使えるようになるの?」
カンジは、痛々しそうにさらに声にならない唸りをあげながら続ける。
「それはな……名前をもらうときになナガミミの話によると、お前らの神様と契約しているんだよ。そしてなその神様がお前等の名前を呼べるようにってな」
そうか、あの時お姉さまが綺麗な光を出せてたのはそれが関係しているのかもしれない……カンジは嫌そうだが、僕はもっと聞いていたかった。僕は、なんだろう?不思議だこんなに難しい話なのになぜだか頭に入ってくる……こんなことは今までなかった。タノシイ。
「それなら、他の人から名前を貰っても、そう例えば他の人の名前とか貰っても同じ名前なら魔法は使えるのではないの?」
「それはな……出来ない何故ならお前らの神様はその名前を呼んでない、だから神様はそいつには力を授けてやることができないんだ。」
そうなのか……何故か今までの出来事が腑に落ちた気がした。
「それで、あんなにお姉様の"名付けの儀式"には、あれだけ人がいたのか」
……あたりが静まりかえる……なんだろう言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか?
「ねぇ、アノン?名付けの儀式はねそんなに仰々しく行わないのせいぜい村の教会とか、貴族連中でもつつましやかに行うものなの」
ミラは元気取り戻したかのように聞いてくる……
「アノン?……そいつはもしかして」カンジは何か気付いたかのようだった。
「それはな、多分9年前に亡くなったアノン姫だ……」
「アノン姫って誰?」ミラが不思議そうに、聞いている。
「それはな……俺もよぉ噂で聞いただけだか、そのお姫様はよお、"魔物"に呪い殺されたらしい……」
目の前には、すでに何もないのに真っ白になった気がする。これが白いということなのか。胸の奥が痛い。姉さんは死んでいたなんて……それも"魔物"に。
「というか、あなたなんでそんなこと知ってるのよ、あそこは貴方は入れないでしょ?」ミラは、バツが悪いのか話題を変えようとしている。
「いやぁな、まぁナガミミのところでは俺も、魔法が使えないからよぉ、"魔物"らしいだがな、あの国は意外と適当でな、"魔物"がいるスラムがあるんだよ、そこで聞いた。」
「……そうなの、あの国も結構適当なのね、それなら……なんでもない!」
ミラは何かを言いかけたが、言葉を飲み込んだように感じる。何か気づいてはいけないことを気づいてしまったかもしれない……体がブルブルと震える、底から寒くなる感じかする。
「大丈夫アノン?あなたすごい震えてるわよ、大丈夫よここにはカンジと私しかいないんだから」ミラは、寄り添ってくれる、これを言ったら僕は……それでも言葉は踊り始める。
「もしかして……その"魔物"っていうのは僕のことじゃ……」
風がだけが流れる。
「……まぁおそらくなその話になるとそうなんだろうなぁその"魔物"っていうやつはお前のことだ思う」
カンジは、聞きたくなかったことを平坦な声で聞いてくる。
「やっぱりそうなんだ……」なんとなく、気づいてた、看守の反応……あの部屋。
「なんてこと言うの?アノンはね……アノンはお姉様から名前を貰ったというのよ、信じられないわ」ミラは、全く理解ができないと言ったように叫んでいる。
「まぁ、落ち着いて聞けよ……俺も、"魔物"だぜ?大体"魔物"がそんな"呪う"なんて出来ると思うか?」カンジは、少し、笑ったような口調で言っている。
「うん、どういうこと?」ミラは不思議だといったようにカンジに聞き返す。
「大体、魔法が使えないものはあそこでは"魔物"って呼ばれてるようだ……魔法も使えないのに"呪う"なんてできるか?まぁ、アノンは森を消せるほどの力あるようだが……」
「それなら、アノンがやってないことになってないじゃない!」
ミラは叫んでいた、信じたくないみたいに。
「まぁ、落ち着けってミラ、そもそも呪い殺せる化け物がなんで生かされてるんだよ……どうせアイツラの神様のクソッタレな"お告げ"だろうよ」
"お告げ"?何のことだろう、そんなことお母様からも聞いたことはなかった。
「"お告げ"なんのことよ」ミラもわからないようだ。
「偶にな、アイツラの神様はな、ヤバいヤツとかがいると"お告げ"と称して選択させるんだよまぁされた側は選択肢はないが、まぁ、お前も経験したことがあるだろ?」カンジは諭すように僕たちに言う。
「そうだったわね……」ミラは悲しそうに呟く。
「まぁ、偶にな教会がお告げだってことにして、やっちまうという場合もあるらしいが……アノンの場合は、”お告げ”だろうなぁ」
「まぁ、要は、お前はオメェの姉ちゃんを呪い殺したわけじゃないんだ、それだけはない安心しろ」なんとなく、胸が少し軽くなった気がする。
「そうだよね、アノンが呪い殺したわけないわ」ミラも優しく、囁いてくれる。
良かった、お姉様を殺したわけでなくて。そうすると、ミラが不思議に思えた。
「そういえば、ミラはなんで僕のこと助けてくれたの?」
「ブッフォー」カンジが吹き出した、どういうことだろうか?
「カンジ何よ、何がおかしいの?」ミラが睨みをきかせる、なぜか今のミラから不穏なオーラが見える気がした。
「いやぁなにもないぞぉ」カンジは含みがあるような感じで笑いをこらえてるようだった。なんでかわからないけど、カンジとミラだけが知ってることがあるのがなぜか頭にきた。
「結局、なんでなの?」僕は、痺れを効かしてミラに聞いてみる。
「……それわね、うーんまぁいいじゃない」ミラはどうしても言わないつもりがないようだ。
「まぁ……ミラが言わないなら俺が言っちまおう。それはな……ミラはモテなかったたんだよ」モテる?よくわからない、聞いたことがない言葉だった。
「モテる?」
「アノンはこれはね違うの!聞いちゃだめ!」ミラが途端に焦り出す……あたふたしているミラは初めてだ。
「それはな、だいたい俺の村ではな16くらいでつがいを作るんだがなぁ……なんせこの性格でちょっと容姿が違うだろ?オスたちがなぁ怯えて怯えて、そうしてたらあれが15になったときかなぁ?そうだその時な、しびれを切らしてな、村を出ていったのよ、自分で見つけてくるってあの時はもう帰ってこないと思ったがなぁ」
そんな事があったのか……よくわからないけど、ミラも苦労したんだなぁ。
「どうでもいいじゃない……こんなこと、でもね、アノンねぇ私の気持ちは本当なのよ」なんだか、重大なことを言われた気がする。
「おやおや、お熱いですな2人とも」
「なななんなのよ」
「ミラも一匹の立派なメスだってことようんうん」カンジはミラを囃し立てる。
ミラがあたふたしているのがわかる。
「僕も同じ気持ちだよ」
「なななによ、カンジもアノンも揃ってもういいわ顔洗ってくる」
ガタッ。そうして、ミラは乱暴に音を立て、走り出す音が聞こえる。
「おーいミラ、あとであとで村のジジイのところに行くからな忘れんなよ」
「わかってるわよ、じゃあね」バタン。
「まぁ、すまんなあいつはお転婆なやつでな」カンジは、僕の方へと話し掛ける。
「俺が、あいつに出会ったのはな、ヘマやってお前らのところの国の兵士に駆除されるところでなあいつは、そのころ山猿みたいなやつだったんだが、助けてくれてなぁ……言葉がわからなかったんだが、居場所がなさそうでな?村に連れって行ったんだよ」そんなことがあったのか……カンジとミラには。
「というか、そのときからミラは強かったの?」
カンジは、当時を思い出すかのように唸ったあと、こう続けた。
「いやぁ、強いのなんの魔法も正面から受け止めるわ、兵士のやつをことごとく吹っ飛ばすわ、当時は荒れてたか知らないけども逆に俺が止めてたよ」
そして、カンジはちょっと昔を懐かしむみたいに息を吐いて。
「それでなぁ、俺も当時はよう、村が狭くなってたから飛び出してたもんよ、それもカミさん置いてな」
「カミさん?」
「ああ、俺の妻だよ、……まぁ2年前には亡くなっちまったけどな」
「それは……残念だったね」
「いやいや、いいってことよ。まぁ続きというとななんだかよう、俺らの間には娘がいたんだけどなぁ天真爛漫でなぁ……」
「もしかして、娘さんも?」胸がぎゅうっとなるのを感じる。
「まぁ、小さい時になぁ、そしたらよぉミラがなぁ風体は違うが、立ち振舞はよぉ俺の娘にそっくりだったんだよ。それでなミラもなぁ居場所がなかったのか分からないがついてきてよ、最初はみんなが戸惑ったが俺と女房はあいつの生まれ変わりなんじゃねぇかって泣いて喜んだのよ」カンジも意外だ……そんな事があったなんて。
「それでミラは村ではどうだったの?」
「それはよぉ……結局馴染めなかったんだ、やっぱりよぉミラもお前と一緒で追われたりしててな結局素直になれなかったんだよ。そしてなやっぱりナガミミって言うこともあってなジジイいわゆる族長だななんかはずっとよぅよそ者扱いしてたんだよ」
なるほど、それでさっきミラはツガイを自分で探しに行こうとしてたのか。
「それで、ミラは出ていったの?」
「最初の頃は、無視されてても健気によぅ村の仕事とか手伝ってな。そして少しずつ言葉も覚えてな、少ないながらも友達もいたのよ。それをよぅ村のやつはおもしろがらなくてなついには番の儀式でようアイツを仲間外れにしちまった。それでなミラは村を出て行っちまったんだ、俺らもなぁ嫌気が差しちまってなぁ、ここに住んでるというわけか」そういってカンジは僕の手を握る。
ゴツゴツしてて仕事をしている爺やの様な手だった。カンジの手があったかい、血の通った手だ。決して、冷たい手なんかじゃない。
「あいつはな、ああ見えてな弱い子なんだ今はお前という守るべき者がいる、そうだからよぉ守ってくれとは言わねぇ、一生守られてくれ」
「うん、約束するよ」
「あ、ありがとう」手に一筋の涙が落ちてきた冷たいけどあったかいそんな雫だった。バタン……。
「何してんのいい年したオスが二匹して、気持ち悪い」どうやら、ミラが帰ってきたようだ。
「いやぁな、アノンの手が綺麗でよぉ見惚れちまった」
「まったく、アンタそっちの気もあるの、アノン離れなさい!」
ミラが慌てて、駆け寄ってくる。
「まったく、アイシャに言いつけてやるんだから……」
「ねぇ、ミラ……」
「なに?」
「ああ……お前には言ってなかったなぁアイシャはなぁ亡くなったよ、病気でな」
「……ごめん」
ミラは、言ってはいけないことを言ってしまったと思ったのだろうか、押し黙っていた。
「いいんだよ、おかえりミラ……」ガシッ。音がする。
「……ただいまカンジ……ヒック」ミラがこれまで我慢していたものが溢れ出した、多分それは、僕にはないものだった。カンジはミラの声を全て受け止めていた。
「……よし、良いなお前も、ツガイがいるんだいい加減そんな鼻声してっとアノンに嫌われるぞ」
「……嫌われないよ」ミラの声は少し涙で揺れていた。でも、ミラの声に戻っていた。
「……良し良い声だ、お前が言ってたがアノンはお前の声しかお前を見られないんだ……せめて声だけでも、お前の綺麗な姿を見せてやれ」ミラは、僕の手を取って。
「いらっしゃい!アノン」そうして、僕はこの家の一員になれた気がした。
「もう、外がこんな暗いのか、つい話し込んじまった。よし!ひとまず寝るか。ミラ、アノンお前らは、今まで寝てたベット使え」
もうそんな、時間になってたのか、気づかなかった。こんなにも、時が過ぎるのが早いのは初めてだ。確かに……難しいそして胸の奥が痛い話をしたから少し疲れた。
でも、今は、カンジやミラがいる、そう思うとこの疲れも心地よく感じることが出来た。
「はい、アノン一緒に寝るわよ」そうやって、ベットまで連れてってくれた。
誰かと一緒寝るなんて、お姉様以来だ。ベットを触ってみる。硬くて冷たいおそらく急ごしらえで作ったベットだと思うけど、なんとなく心地良い。
「おーいちゃんと寝ろよ」カンジはミラと僕に確認してくる。
「わかってるわ」
「明日は、ジジイのところに行くからなちゃんと起きるんだぞ」
「げっ、ジジイのところ?」
「そうだ、あそこに行くぞお前も帰ったんだからな……」
どうやら、ジジイという奴は彼らに嫌われてるらしい。
「ジジイって誰のことなの?」ミラは手を取って。
「よく聞いてくれたわね、アノン、あいつは陰険でね……まぁいいわ明日話すわ」
そう、今日からは明日があるんだ
「ねぇカンジは一緒に寝ないの?」
「うん?一緒に寝たいのか?」
「そんなわけないわよ!寝る場所はどうするのかなぁって」
「裏で寝るよ裏で」
「おやすみ、ミラ、アノン」
「おやすみ、カンジ」
「おやすみ」
そう言ってカンジは裏に行ったようだ。
「ねぇ、実はね、私たち出会ってまだそんなに時がたってないのよねそんな気しないわよね?」
「うん、僕も」
「……良かった、今日はちょっと疲れたわ、また明日、おやすみ」
「おやすみ」そう、明日から明日がある。そう思うと、体が少し軽くなる。
「スースー」隣のベットからミラの寝息が聞こえる。
さぁ、僕も寝なきゃ。硬い、冷たいベットだったけどなんだか一番いいベットに思えた。




