第61話 戴冠式の日
アレクシス・フォン・グランツの戴冠式。
王城グランハルトの大聖堂。かつてヴィクトールが仮面舞踏会を催した場所に、今は黄金の王冠と聖典が祀られ、厳粛な空気が満ちている。
出席者は王国の全貴族。シルヴァーノ公爵家は上座に席を用意された——ヴィクトールの計らいだ。
リゼットの隣に座る。正装の彼女は——やはり美しい。胸元に紫水晶のブローチ。髪を高く結い上げた姿は、公爵の威厳と女性としての華やかさが同居していた。
「……見すぎです」
「ごめん。綺麗だから」
「……馬鹿」
聖堂の奥から、アレクシス王子が入場してきた。
初めて見る人物。ヴィクトールに似た金髪碧眼だが、兄よりも線が細く、柔和な印象だ。年齢は俺と同じくらいか、やや下。
好感度チェック——「見る」を選択。
【+15】
初対面で+15。高い。
ヴィクトールの初対面+85(計算された好意)とは質が全く違う。+15は——好奇心と好意が混ざった素直な数字。作り物ではない。
戴冠式が進む。司祭が祝辞を述べ、聖典が読み上げられ、王冠がアレクシスの頭に載せられた。
新国王、アレクシス一世。
戴冠後、アレクシスが各貴族のもとを回って挨拶に来た。
シルヴァーノ公爵家の席に来た時——アレクシスは少し緊張した様子で立ち止まった。
「リゼット・フォン・シルヴァーノ殿。初めまして。兄から——多くのことを聞いています」
「陛下。戴冠おめでとうございます」
「ありがとうございます。兄が——あなたに対して失礼をはたらいたこと、王家として改めてお詫びいたします」
好感度、【+15】→【+18】。上がった。謝罪の姿勢に嘘がない。
「兄は——変わりました。あなたとレン殿のおかげだと言っていました」
アレクシスの目が俺に向いた。柔和だが——芯がある目だ。
「レン・アシュフォード殿。お噂はかねがね。兄を『人間に戻してくれた人』だと」
「大げさですよ。ヴィクトール殿が自分で変わったんです」
「謙虚ですね。兄と正反対だ」
アレクシスが笑った。好感度、【+18】→【+20】。
この人は——信頼できそうだ。兄のような計算はない。素直な王。
「シルヴァーノ公爵家との関係は——友好的に。対等に。それが私の方針です」
「ありがとうございます、陛下」
アレクシスが去った後、リゼットが小声で言った。
「……いい王になりそうですね」
「うん。好感度は——+20。嘘がない素直な数字だ」
「あなたの目から見ても?」
「目から見ても——いい人だと思う」
リゼットが微笑んだ。
「数字と目が一致する時——それが、一番信頼できる判断なのでしょうね」
「……そうかもしれない」
かつては数字だけを見ていた。次に数字を疑うことを覚えた。その次に数字を手放すことを選んだ。
そして今——数字と自分の目を、並行して使える。
《心鏡の瞳》が完全に制御された今の俺は——前世の自分が夢見た「理想の状態」に、ようやく辿り着いた。
人の気持ちがわかる。でも、数字に頼り切らない。
これが——答えだ。




