第60話 フィーネの旅立ち
フィーネが遠征任務に出ることになった。
シルヴァーノ領の騎士見習い課程の最終試験——北方国境の巡察任務。一ヶ月間。
「行ってくるね」
訓練場で、荷物をまとめたフィーネが振り返った。軽鎧にマント。腰には正式騎士試験用の長剣。
好感度は——見ない。
見なくても、フィーネの表情が全てを語っている。不安と期待と寂しさが入り混じった、いつもの三日月の笑顔。
「気をつけろよ」
「あたしに言う? あたしはレンと違って、うっかり刺されたりしないからね」
「ひどい」
二人で笑った。
「レン」
「うん」
「あたしが帰ってきたら——ちゃんとリゼット様のこと、大事にしてよ」
「言われなくても」
「言わないとわかんないでしょ? レンはリゼット様のことになると馬鹿だから」
「君もリゼットのことになると馬鹿だね」
「……ばれてた?」
フィーネが苦笑した。
「あたしね——リゼット様のことも好きだよ。友達として。最初はレンの恋人だから苦手かもって思ったけど——全然そんなことなかった。リゼット様って、仲良くなると意外とかわいいんだよね」
「わかる」
「でしょ? 耳赤くなるし、猫好き隠しきれてないし」
「な」
フィーネの目が——少し潤んだ。
「だから——二人のこと守りたいなって。騎士になったら、正式にシルヴァーノ騎士団に入れてもらえるようにって——がんばるから」
「フィーネ——」
「泣かないよ。泣くのは帰ってきてからだから」
フィーネが背を向けて歩き始めた。
振り返らない。
その強い背中に——好感度を見る必要はない。
+72であろうと、それ以上であろうと——フィーネの強さと優しさの前では、数字は飾りでしかない。
「行ってらっしゃい!」
叫んだ。フィーネが片手を上げた。
——あいつは、大丈夫だ。
つよいから。
夕方。リゼットが執務室でフィーネの出発を聞いた。
「フィーネが——」
「うん。一ヶ月の巡察任務」
「……寂しくなりますね」
「リゼットもフィーネのこと好きだもんな」
「……認めます。友人として——大切です」
リゼットの耳が——ほんのり赤い。
「帰ってきたら——茶会をしましょう。四人で。セラフィーナも呼んで」
「いいね。フィーネ喜ぶよ」
「ええ」
窓の外に、北方に向かう馬の姿が小さく見えた。
フィーネ・ロートシルト。
好感度+72の——かけがえのない親友。




