第58話 セラフィーナの報告
セラフィーナからの手紙を開いた。リゼットの隣で。
レン。リゼット。
赤い薔薇が咲きました。
庭園の白い薔薇の中に、一輪だけ。小さくて、でも鮮やかです。
母に報告しました。「咲いたよ」と。
泣きました。でも——悲しい涙ではありませんでした。
あと、一つ報告があります。
エルディアス聖典の周読不能章の研究を進めています。
古い修道院にもう一冊の写本が残されていることがわかりました。
近いうちに調査に向かいます。
レンの《心鏡の瞳》がなくても読める箇所があるかもしれません。
もし見つかれば——呪い付きスキルで苦しんでいる人を、もっと助けられるかもしれない。
感情が戻ってから——世界が全く違って見えます。
空が青いことは知っていました。でも青い空を「綺麗だ」と感じたのは、三年ぶりです。
二人のおかげです。
——セラフィーナ
追伸:フィーネに伝えてください。
先日教えてもらった護身術、練習しています。
まだうまくできませんが、楽しいです。「楽しい」——この言葉を使えるのが嬉しいです。
リゼットが手紙を読み終えて——微笑んだ。
「赤い薔薇——咲いたのですね」
「うん。セラフィーナ——すっかり変わったな」
「変わったというより——戻ったのです。本来の彼女に」
リゼットの目が懐かしげに細められた。
「子供の頃のセラフィーナは——よく笑って、よく泣いて、花を見つけると興奮して走り出す子でした。あの頃の彼女が——帰ってきた」
「記憶は——お母さんの記憶は、残っているのか」
「手紙を読む限り、残っていますね。呪いが解けても記憶は消えなかった。——良かった」
セラフィーナの呪いは「感情と引き換えに記憶を保存する」契約だった。解呪されて感情が戻ったが——記憶も残った。契約は「解除」されたのであって「代償が返された」のではない。
つまり——セラフィーナは、全てを取り戻した。感情も記憶も。
「レン。返事を書きましょう」
「うん」
二人で返事を書いた。リゼットが書いて、俺が添え書きをする。
セラフィーナ。
赤い薔薇が咲いたこと、とても嬉しく思います。
あなたの笑顔を思い浮かべています。
聖典の研究——応援しています。
必要ならいつでも手伝います。レンの瞳が役に立つのなら。
シルヴァーノの庭にも赤い薔薇の苗を植えました。
来年の春には、こちらも咲くでしょう。
その時はぜひ——見に来てください。
——リゼット
セラフィーナへ。
護身術、フィーネに褒められたら教えて。
あいつ、滅多に人を褒めないから。
空が青くて綺麗な日に——また四人で集まろう。
——レン
手紙を封じて、使いに渡した。
リゼットが隣で小さく息を吐いた。
「……幸せですね」
「うん」
「こうやって手紙を書いて。友達の報告を喜んで。穏やかに過ごして。——これが、普通の幸せなのですね」
「普通かどうかはわからないけど——俺にとっては、最高レベルの幸せだよ」
「……馬鹿」
「何回目の馬鹿だよ」
「足りないくらいです」
リゼットの唇が——笑みを形作った。もう完璧に自然に笑えるようになっている。
好感度は見ない。
この笑顔が——全ての答えだから。




