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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第5章 好感度を、見なくなった日

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第56話 陰謀のあとの朝

あの嵐のような数ヶ月が嘘のように——シルヴァーノ領は平穏だった。


 朝。窓を開けると、湖から涼しい風が吹き込む。秋の風だ。夏の銀水祭からもう季節が一つ巡った。


 いつの間にか、この城が「帰る場所」になっていた。


 子爵家の次男として送られてきた時は、ここは「配属先」だった。好感度を稼ぐための「戦場」だった。


 今は——家だ。


 城の給仕たち。中堅のメイドが俺を見て笑った。


「おはようございます、レン様。今朝のスープは、昨日レン様が持ってきてくださった野草を使いましたよ」


「俺の料理の腕前はまだダメかな」


「相変わらずジャガイモの皮むきは下手ですけどね。でも——味付けのセンスは悪くないと、認めてあげてもいいかもしれません」


 好感度は——見ない。見なくても、彼女の小さな意地悪が親愛の情だとわかる。


 食堂にリゼットが現れた。


 プラチナブロンドの髪を緩く編み、シンプルな白のブラウスに紫のリボン。執務前の、くつろいだ姿。


「おはよう」


「おはよう、リゼット」


 名前呼び。もう自然だ。


 リゼットが俺の隣に座った。迷わず。距離ゼロ。


「今日の予定は?」


「午前中は領務会議。午後はグランツ商会との定例連絡。それと——」


「それと?」


「……セラフィーナからの手紙が来ています。読みますか?」


「後で一緒に読もう」


「ええ」


 ブレンナーが会議資料を持ってきた。若い給仕が窓を拭いている。庭師の老人が庭の花に水をやっている。


 全員の好感度を——見ない。


 第四段階になってから、日常ではほとんど好感度を見なくなった。必要な場面——外交交渉や初対面の人物との会話——では使うが、この城の中では使わない。


 見なくても、ここにいる全員が味方だとわかる。


 ヴィクトールとの政治的緊張は解消された。暗殺の危険もない。セラフィーナの呪いも解けた。


 残っているのは——日常。平和で、穏やかで、少しだけ退屈な日常。


 退屈。


 前世の自分が聞いたら笑うだろう。毎日残業して休日出勤して、退屈の正反対の生活を送っていたのに——今は退屈を嬉しく思っている。


「レン。何を考えていますか」


「退屈だなあ、って」


「……退屈ですか」


「うん。平和で退屈。最高だ」


 リゼットの唇が——わずかに上がった。


「では——退屈ついでに、一つ提案があります」


「何?」


「湖を見に行きませんか。午後——二人で」


 リゼットが誘ってくれた。以前なら考えられないことだ。


「喜んで」


 退屈な朝が——少しだけ、輝いた。

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