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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第4章 仮面舞踏会の真実

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第55話 数字の向こう側

ある晴れた朝。


 暁の庭園のベンチで、リゼットとお茶を飲んでいた。


 ミスティが膝の上で丸まり、ショコラが足元で寝ている。赤い薔薇の苗が——セラフィーナが分けてくれたものだ——庭の一角に植えられ、小さな蕾をつけていた。


 穏やかだ。


 数ヶ月前までは、好感度の数字に追われて生きていた。HPが下がらないように。死なないように。嫌われないように。


 今は——好感度を「見ない」ことを選べるようになった。見たい時だけ見る。見たくない時は見ない。


 そして——最も大切な人の好感度は、見ないでいる。


「レン」


「うん」


「聞きたいことがあります」


「何?」


「あなたの——あの能力。人の感情が数字で見えるという力。いつから持っていたのですか」


「……数ヶ月前、あの朝から。突然、周りの人間の頭上に数字が浮かんで見えるようになったんだ。最初は、自分の頭がおかしくなったのかと思ったよ」


「ずっと——一人で、抱えていたのですね」


「うん。誰にも言えなかった。言ったら変な目で見られると思って」


「……辛かったでしょう」


「辛かった。でも——この能力がなかったら、君に出会えなかった。好感度-50の君に、近づく勇気を持てなかった」


 リゼットの目が——柔らかくなった。


「-50——最初はそんなに低かったのですか」


「そうだよ。初対面で-50。城中で最低値」


「……それなのに近づいたのですか」


「HPが死にかけてたからね。好感度を上げないと生き残れなかった」


「なるほど。最初の動機は——生存だったのですね」


「うん。最初は。でも途中から——」


「途中から?」


「君のことが気になったんだ。好感度がマイナスなのに——手は震えてるし、耳は赤くなるし、猫を見ると目が光るし。数字と行動が全然合わないから——数字の裏に、何があるのか知りたくなった」


 リゼットが目をそらした。赤い耳。


「あの頃から——外から見えていたのですか」


「全部見えてた。君は隠すのが下手だよ」


「……失礼なことを言いますね」


「事実だから」


 沈黙。風が花の匂いを運んでくる。


「レン」


「うん」


「あなたは——これから先も、私の好感度を見ないのですか」


「見ない」


「なぜ——改めて聞きますが——」


「君の気持ちは、君の口から聞きたいから」


 リゼットの唇が震えた。


「……では」


 リゼットが俺の方に向き直った。紫の瞳が——まっすぐに、俺を見つめている。


「改めて——言います」


「うん」


「私は——あなたが好きです。レン・アシュフォード。最初は嫌いだった。それから怖かった。それから——わけがわからなくなって。でも、あなたが私を庇って血を流した時——やっとわかりました」


「…………」


「あなたを失いたくない。あなたの隣にいたい。……もう、数字で見える私の心なんて、どうでもいい。私はただ、私を見つめるあなたの瞳を——見ていたい」


 涙は——今日はこぼれなかった。代わりに——笑っていた。


 氷の公爵令嬢が。仮面をつけずに。陽の光の中で。


 笑っていた。


「俺も好きだよ。リゼット」


「知っています」


「知ってるのか」


「あなたは隠すのが下手ですから」


「……お互い様だな」


 二人で笑った。


 ミスティが「にゃあ」と鳴いた。


 好感度は見ない。見なくていい。


 この笑顔を見ていれば——他に何も要らない。


 かつて前世で、最期の瞬間に願った。「数字で人の気持ちがわかれば、もっと楽だったのに」。


 数字は手に入った。好感度が見えるようになった。


 だが——答えは違った。


 数字で気持ちがわかっても、楽にはならなかった。数字は態度を映すだけで、心の全てを映しはしなかった。


 本当に大切なことは——数字の外にあった。


 手の温もり。声の震え。耳の赤さ。不器用な笑顔。


 前世の俺へ。答えを教えるよ。


 人の気持ちは——数字じゃ、わからない。


 でも——数字がなくても、わかる方法がある。


 目を見ること。手を取ること。声を聞くこと。隣にいること。


 それだけで——十分だよ。

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