第54話 全員の好感度
銀鉱山の交渉がまとまった夜、俺はふと思い立って——久しぶりに、全員の好感度を確認してみた。
第四段階の力で、意識的に「見る」モードに切り替える。
ただし——リゼットだけは、見ない。
まず、フィーネ。
訓練場で素振りをしている背中に、好感度を重ねる。
【+72】
変わっていない。告白し、身を引き、それでも変わらず味方でいてくれる。この+72は——全ての好感度の中で、最も純粋な数字だ。嘘がない。飾りがない。
「フィーネ」
「ん?」
「いつもありがとう」
「何いきなり。気持ち悪いよ」
「ひどい」
「あはは。——でも、ありがと」
好感度、【+72】。微動だにしない。安定。
次に、ブレンナー。
執務室で書類を整理しているブレンナーの頭上。
【+30】
+30。出会った頃の+3から、ここまで上がった。地道な仕事の積み重ねが、10倍の信頼になった。
「ブレンナーさん、明日の会議資料ですが」
「はい。こちらに準備しております」
「いつも完璧ですね」
「……恐れ入ります」
眼鏡の奥が、少し照れくさそうだった。
城の使用人たち。
すれ違うたびに彼らの頭上に見える数字は、概ね【+10】から【+20】の間で安定している。毎朝の挨拶や、ちょっとした手伝いの積み重ねだ。
そして、ここからは見えない遠くの好感度。
王都にいる家族や、アシュフォード家に残してきたマルタさんたちの数字が今どうなっているのか、直接見ることはできない。俺自身のHPを具体的な数値で確認する機能もないままだ。
だが——体の底から湧き上がるような、この軽さと健康の「実感」が何よりの証拠だった。遠く離れた彼らからの好感度も落ちていないからこそ、俺の命はこうして強健に保たれている。
もはや、転生直後のように些細な怪我で死を覚悟するような、生存の不安はない。
セラフィーナ——【+33】。回復中。日に日に上がっている。感情が戻るたびに、信頼と感謝が数字に反映される。
ヴィクトール——最後に会った時は【+3】。今は——会っていないのでわからないが、商談の進展を考えれば少し上がっているかもしれない。
そして——リゼット。
「見ない」を選んでいる。
椅子に座って窓の外を見ているリゼットの横顔。プラチナブロンドの髪が夕日に光っている。
見ない。
見なくても、わかる。
彼女の好感度は——俺にとって数字で測る対象ではなく、日々の言葉と仕草で確かめるものだ。
「レン」と呼んでくれること。
隣の椅子をゼロ距離に寄せてくれること。
レイクミントティーを二杯分淹れてくれること。
耳を赤くしながら「好きです」と言ってくれること。
全て——数字ではない。
でも、数字よりもずっと確かだ。
「……何を見ているのですか」
リゼットが気づいた。
「君の横顔」
「っ——!」
耳が赤くなった。距離ゼロの椅子で顔をそむける。
「……見すぎです」
「見たいから見てる」
「好感度の能力で見ているのではなく?」
「能力はオフにしてる。ただの目で見てる」
「…………」
リゼットが——小さく笑った。
氷の公爵令嬢が。人前で(ブレンナーがいるが)。笑った。
好感度は見ない。
でもこの笑顔は——きっと、100を超えている。




