第52話 四人の食卓
セラフィーナが回復してから、ヴェール邸で夕食を共にした。
四人での食卓。リゼット、セラフィーナ、フィーネ、そして俺。
こんな光景が——つい三ヶ月前は想像もできなかった。好感度-50の氷の令嬢と、好感度???の感情凍結の女と、好感度+55の陽だまりの騎士見習い。
今は——リゼットの好感度は見えない(見ないことを選んだ)。セラフィーナは【+30】。フィーネは——見ていない。見なくてもわかるから。
「セラフィーナさん、これ美味しい! 何ていう料理?」
「母の故郷の料理です。フィーネ様——」
「フィーネでいいよ。様なんかつけないで」
「……フィーネ。ありがとう」
セラフィーナが照れくさそうに笑った。不器用な笑顔。まだ表情筋が慣れていないのだろう、ぎこちないが——温かい。
「セラフィーナ。あなた、これからどうするの?」
リゼットが聞いた。
「……まだ考えています。ヴェール伯爵家の務めは果たしますが——もう一つ、やりたいことが」
「何?」
「エルディアス聖典の研究を続けたいのです。周読不能章には——私の呪い以外にも、多くの呪いと解呪の方法が記されているはず。同じように苦しんでいる人がいるなら——助けたい」
「……セラフィーナがそう言うなんて」
「感情を失って初めて——感情の大切さがわかりました。母の記憶を守るために感情を捧げたことは後悔していません。でも——もっと早く助けを求めていれば。レン様やリゼットに」
セラフィーナの好感度、【+30】→【+33】。
「聖典の解読は俺にしかできない部分もあります。協力しますよ」
「ありがとうございます、レン様」
「レンでいいよ。セラフィーナも、様はなしで」
「……レン。はい」
食事が終わり、庭に出た。夜の薔薇園。
白い薔薇の中に、赤い苗が一株。まだ蕾だが、もう少しで咲きそうだ。
「この薔薇が咲いたら——」
セラフィーナが蕾に触れた。
「母に報告します。赤い薔薇が咲いたよ、って。泣いてもいいよ、って」
「……セラフィーナ」
「大丈夫です。もう——泣けますから」
セラフィーナが笑った。今度はしっかりした笑顔。
好感度は見る必要がない。
この笑顔が——数字より確かだ。
帰りの馬車の中。リゼットが俺の肩にもたれていた。
「……疲れた?」
「少しだけ。でも——いい疲れです」
「リゼット」
「はい」
「君はすごいよ。セラフィーナを救ったのは——君だ。俺じゃない」
「そんなことはありません。あなたがいなければ——」
「二人でだな」
「……ええ。二人で」
フィーネが向かいの席で寝息を立てていた。護衛任務でずっと気を張っていたのだろう。
馬車の窓から月が見えた。
「月が綺麗だ」
「……ええ」
リゼットの耳が赤い。
あの夜の言葉を、覚えているのだ。
「レン」
「ん?」
「……好きです」
小声で。フィーネに聞こえないように。
好感度は見えない。見なくていい。
この声だけで——十分すぎるほど、伝わっている。




