第51話 感情を取り戻す痛み
セラフィーナの呪いが完全に解けるまでには、時間がかかった。
涙を流した夜から三日間。セラフィーナはヴェール邸で寝込んだ。
リゼットが滞在を延長し、俺も残った。フィーネが護衛を続けてくれている。
「大丈夫ですか——」
「……大丈夫、では——ないです」
セラフィーナはベッドの上で、苦しそうに目を閉じていた。
三年分の凍結されていた感情が、一度に溶け始めている。喜び、悲しみ、怒り、恐怖、寂しさ——全てが一気に押し寄せて、彼女の心を圧倒していた。
「母が——母が亡くなったことが——」
三年前に受け止められなかった悲しみが、今襲っている。
「……苦しい」
「うん。苦しいよね」
リゼットが手を握っていた。
「でも——苦しいと感じられるのは、あなたが戻ってきた証拠よ」
「リゼット——」
「泣いていいよ。全部出していい。私がここにいるから」
セラフィーナが泣いた。声を上げて泣いた。三年分の涙が、枯れるまで。
好感度は——
【+5】→【-10】→【+15】→【-20】→【+30】→——
激しく揺れている。感情が安定していない。一瞬で笑い、一瞬で泣く。上下動が激しい。
リゼットの好感度がオーバーフローした時と似ている。だがリゼットの場合は「感情が強すぎて」壊れた。セラフィーナは「感情が復活して」制御できていない。
三日目の朝。
セラフィーナの好感度が——ようやく安定した。
【+20】
+20。安定してプラス。
セラフィーナが起き上がった。顔色はまだ悪いが——目が違った。
蒼い瞳に、光が戻っていた。
「……おはようございます」
その声に——感情があった。温かさ。感謝。そして——わずかな恥ずかしさ。
「おはよう、セラフィーナ」
「おはようございます。……三日間も、ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんかじゃない」
「……ありがとうございます。レン様。リゼット——さま。フィーネ様」
セラフィーナが——微笑んだ。
仮面の微笑みではなかった。
不器用で、少しぎこちなくて、唇が震えている——本物の笑顔。
三年ぶりの、本物の笑顔。
「あっ——笑えた。私——笑って——」
涙がまた溢れた。笑いながら泣いている。
「笑えて——嬉しい——っ」
好感度、【+20】→【+25】→【+30】。
感情の回復とともに、数字が上がっていく。
フィーネも泣いていた。リゼットも——瞳が潤んでいた。
俺も——泣いていた。
好感度は見なくてもわかる。この部屋の全員が——幸せだということが。




