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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第4章 仮面舞踏会の真実

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第50話 セラフィーナの涙

セラフィーナから手紙が届いた。


   レン様。

   

   赤い薔薇の苗を植えました。

   昨日——苗に水をやっている時、体が震えました。

   寒さではありません。

   何かが——中から来ました。名前がわかりません。

   

   ——S.V.



 「何かが中から来た」——第二の兆候。身体反応の増幅。


 すぐにリゼットに見せた。


「行きましょう」


 翌日、二人でヴェール邸を訪ねた。フィーネも同行。


 庭園に——赤い薔薇の苗が一株、植えられていた。白い薔薇の中に、ぽつんと。まだ蕾だが、確かに赤い。


 セラフィーナは庭のベンチに座っていた。いつもの微笑み——だが、今日はどこか違う。


「いらっしゃいませ」


「セラフィーナ。手紙読んだわ」


 リゼットが隣に座った。


「体が震えたって——今は大丈夫?」


「はい。震えは止まりました。でも……昨夜、また夢を見ました」


「お母さんの夢?」


「いいえ。今度は——」


 セラフィーナが俺とリゼットを見た。


「二人がいる夢でした。三人で、この庭園にいる夢」


「……それは、今の記憶が夢になったということかな」


「たぶん。でも——夢の中で、私は笑っていました。今の私は笑みを浮かべることはできますが、笑うことはできません。でも夢の中では——笑っていた」


 好感度チェック——


 【???】


 まだ???。だが——文字がわずかにちらついている。安定していた???が、不安定になっている。


「聖典によると、次は第三の兆候——感情の断片的な回復です」


「断片的——全部じゃなく?」


「全部一度には戻りません。小さな感情の欠片が、少しずつ」


 セラフィーナが蕾の赤い薔薇を見つめた。


「この薔薇が咲く頃には——何か、変わっているでしょうか」


「変わっていると信じてる」


「信じる——」


 セラフィーナが呟いた。


「信じることは——感情ですか? それとも意思ですか?」


「どっちでもいいよ。信じたいと思うなら、それで十分だ」


「…………」


 午後。


 リゼットがセラフィーナと二人きりで話す時間を作った。俺はフィーネと庭を散歩していた。


「セラフィーナさん、変わってきてるね」


「うん。少しずつだけど」


「レンが——セラフィーナさんの好感度が見えなくても信じるって言った時からだよね。あの言葉、あたし隣で聞いてて——泣きそうだった」


「フィーネ——」


「いいの。あたしは泣けるから。泣けるって——すごいことなんだね」


 フィーネの好感度、「見ない」を選んだ。数字を見なくても、彼女の優しさはわかる。


 夕方。帰る直前。


 セラフィーナが見送りに庭に出た。赤い薔薇の前で立ち止まった。


「リゼット様」


「ん?」


「昔——あなたが私の髪に赤い薔薇を飾ってくれたことがありました」


「……覚えてるの? あれはお母さんが——」


「母が摘んで、あなたが飾ってくれました。母が——『リゼットちゃんは優しいね』と言いました」


「…………」


「その記憶を——忘れたくありません。感情が戻っても、戻らなくても」


 セラフィーナの蒼い瞳から——涙がこぼれた。


 また体の反応かと思った。


 だが——セラフィーナの表情が、今までと違った。


 微笑みが崩れていた。仮面が——壊れていた。


 目が潤み、唇が震え、頬を涙が伝う。その顔は——悲しみでも喜びでもなく、ただ——「何か」を感じている顔。


「……あ」


 セラフィーナが自分の頬に触れた。涙を指で掬い、驚いたように見つめた。


「泣いて——います。私……泣いて——」


「セラフィーナ……」


「わかりません。何の感情かわかりません。でも——何かが、あります。ここに」


 胸に手を当てた。


「何かが——溶けていきます」


 好感度が——


 【???】→【+1】


 出た。


 数字が。初めての数字。


 プラス1。ゼロでもマイナスでもなく——プラス。


 たった1。だが——存在0から1への変化は、1から100への変化より遥かに大きい。


 セラフィーナは泣いていた。静かに。声もなく。


 だが——それは体の反応ではなかった。


 感情だ。名前のない、生まれたばかりの、壊れやすい——感情。


 リゼットがセラフィーナを抱きしめた。


「おかえり」


 一言。


 セラフィーナの涙が——止まらなくなった。


 好感度は——


 【+1】→【+3】→【+5】→——


 ゆっくりと、確実に、上がっていった。


 0から始まる感情が、一歩ずつ数字を刻んでいく。


 凍った湖の底から——水が、溶け始めていた。

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