第49話 グランツ商会の影
ヴィクトールとの商談は順調に進んでいた——表面上は。
グランツ商会は確かにシルヴァーノ湖の加工魚事業に出資を申し出、王都での流通網を提供すると約束した。条件は公正で、シルヴァーノ側に不利な条項はない。
だが——ブレンナーが懸念を示した。
「レン殿。グランツ商会の動きが、少し気になります」
「何かありましたか」
「商会が、シルヴァーノ領内の鉱山権も調査しているとの噂があります。加工魚だけでなく——領内の資源全般に食指を伸ばしている」
「鉱山?」
「シルヴァーノ湖の北東部に、小規模ですが銀鉱山があります。現在は休止中ですが、採掘権はシルヴァーノ公爵家のもの」
銀鉱山。採掘を再開すれば経済的な柱になるが——外部の商会に権利を握られれば、事実上の経済的支配を受けることになる。
「ヴィクトール殿は——変わったんじゃなかったのか」
「人格は変わったかもしれません。しかし、商人としての嗅覚は鋭いままです。善意と利益追求は同居し得ます」
ブレンナーの好感度、【+28】。冷静な分析者としての信頼が滲む数字。
俺は好感度の制御を使った。「見る」モードで、グランツ商会から来ている交渉担当者の好感度をチェックする。
担当者の好感度——【+5】。穏やかな数値。悪意はないが、強い好意でもない。ビジネスライクな態度。
問題は——この担当者がヴィクトール本人の意向をどこまで反映しているか。
「リゼットに報告します」
「お願いします」
執務室でリゼットに伝えた。
「銀鉱山の件——知っています」
「知ってたんですか」
「ヴィクトールが来た時から、可能性は考えていました。彼は政治家から商人になっただけです。目的が権力から利益に変わっただけで——他者の資源を自分の手中に収めたい本質は変わっていない」
「じゃあ商談は——」
「続けます。ただし、銀鉱山の権利に関しては一切の交渉に応じません」
リゼットの声は冷徹だった。公爵としての判断。
「加工魚の流通は利用させてもらい、鉱山は死守する。グランツ商会が鉱山に手を出そうとした時点で——取引を打ち切ります」
「わかりました。流通契約の条項に、資源権の不可侵を明記しましょう」
「ええ。お願いします」
敵ではなくなったが、味方でもない。利害関係における対等なパートナー。
ヴィクトールとの関係は——好感度+3の精度で、慎重に管理する必要がある。
好感度が見える能力を持っていて良かった。——いや、今は「見るか見ないか選べる」ことが重要だ。
ヴィクトールの好感度は、見る。
リゼットの好感度は、見ない。
使い分ける。それが第四段階の力。
呪いを道具として制御する。
ようやく——この能力の正しい使い方が、わかってきた。




