第48話 第四段階
ヴィクトールの訪問から三日後。
夜。自室のベッドで天井を見つめていた時——《心鏡の瞳》に、異変が起きた。
視界の端に、淡い銀色の光が瞬いた。
目を閉じても消えない。光は瞳の奥から——内側から発している。
これは——聖典に書いてあった。
*呪いの第四段階——所有者は数値を『見る』『見ない』を選択する力を得る。*
試してみる。
目を閉じて——「見ない」と念じた。
目を開ける。
部屋の中に誰もいないので確認できない。廊下に出た。夜回りの護衛兵が通りかかった。
好感度——
見えない。
頭上に何も表示されていない。
「見る」と念じた。
【+12】
見えた。
もう一度「見ない」。
消えた。
「見る」。
【+12】
——できた。
ON/OFFの切り替え。《心鏡の瞳》を自分の意志で制御できるようになった。
呪いの第四段階——達成。
自室に戻って、座り込んだ。
これで——俺は、好感度を「見るか見ないか」を選べる。
全員に対して。
フィーネの好感度を見たい時は見る。見たくない時は見ない。ブレンナーも、使用人たちも、ヴィクトールも——全て、選べる。
そして——リゼット。
リゼットの好感度は、第三段階で「手放した」ことで消えた。だが第四段階の今なら——「見る」を選べば、再び見えるかもしれない。
……見るか?
迷った。
見たい気持ちはある。リゼットが俺のことをどう思っているか——数字で確認したい。+50なのか、+80なのか、+100なのか。
でも——。
見なくても、わかる。
5センチがゼロになったこと。「様」を外してくれたこと。手を重ねてくれたこと。
数字では測れない——いや、数字で測る必要のない信頼が、すでにそこにある。
見ない。
リゼットの好感度は——見ないことを選ぶ。
これが、《心鏡の瞳》の呪いの最終的な答えだ。
能力を持ちながら、使わないことを選ぶ。それが——自由だ。
翌朝。
執務室でリゼットに報告した。
「《心鏡の瞳》を制御できるようになりました」
「制御?」
「好感度を見るか見ないかを、自分で選べるようになったんです」
リゼットが俺を見た。紫の瞳。
「……私の好感度は——見ましたか?」
「見てません」
「……なぜ?」
「見なくても、わかるから」
リゼットの耳が赤くなった。唇が——わずかに震えた。泣きそうなのか笑いそうなのか。
「……馬鹿」
「知ってます」
「大馬鹿」
「はい」
リゼット自らが——隣の椅子を引いた。いつもの5センチの予備動作を飛び越え、迷いなくゼロの距離に。
「じゃあ——見ないままでいてください。ずっと」
「はい」
「私の気持ちは——私が、自分で伝えます。数字ではなく——言葉で」
好感度は見えない。見ないことを選んだ。
でも——リゼットの言葉と表情と手の温もりが、どんな数字よりも雄弁だった。




