表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第4章 仮面舞踏会の真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/65

第44話 感情のない庭園

ヴェール伯爵家の別邸は、王都から半日ほど北にある静かな丘の上にあった。


 白い外壁に蔦が絡まり、周囲を薔薇園が囲んでいる。——だが、その薔薇は全て白だった。赤も黄色もピンクもない。白一色。


「……全部、白い薔薇」


「母上がお好きだったそうです。セラフィーナの母上が」


 リゼットが小声で教えてくれた。


 セラフィーナが庭園の中央で待っていた。白いドレスに銀の髪。白い薔薇の中に佇む彼女は、まるで庭の一部のように溶け込んでいた。


「いらっしゃいませ、レン様。リゼット様」


 微笑み。いつもの仮面の微笑み。


 好感度——【???】。変わらない。


「リゼット様。お久しぶりです」


「……ええ。久しぶりね、セラフィーナ」


 リゼットの声が——柔らかかった。公爵としてではなく、旧友としての声。


「中にどうぞ。お茶を用意しています」


 別邸の応接間に通された。セラフィーナが自ら茶を淹れてくれた。所作は完璧だが——温かみがない。人形が動いているような正確さ。


「聖典の内容を話してくれたそうですね、レン様」


「はい。セラフィーナ様の呪いの解呪条件について」


「ええ。『自らの意志で涙を流すこと』——でしたね」


 セラフィーナは穏やかに言った。まるで他人事のように。


「私も知っています。母が契約を結んだ時、その条件を聞きました。母が——最後に言いました。『泣ける日が来たら、お母さんのことは忘れてもいいのよ』と」


「…………」


「でも——泣けません。泣きたいとも思えません。泣くべき時に泣けないのではなく——泣くという感情そのものが、存在しないのです」


 好感度は【???】のまま。


 だが——セラフィーナの声には、感情はないのに「伝えたい」という意思がある。感情と意思は別のもの。彼女が手紙に書いた通りだ。


「セラフィーナ」


 リゼットが口を開いた。


「一つ聞いてもいいですか」


「何でも」


「私たちが子供だった頃——あなたは、よく泣く子でした。転んでは泣き、迷子になっては泣き、夕焼けが綺麗でも泣いていた。覚えていますか」


「完全に覚えています。記憶は全て残っています」


「あの頃のあなたに戻りたいとは——思わない?」


 セラフィーナが微笑んだ。


「思いません。戻りたいという感情がないので」


「でも——意思としては?」


 沈黙。


 セラフィーナの微笑みが——ほんの一瞬、揺れた。


「……意思としては。戻りたい——と、思います。たぶん」


「たぶん」


「確信が持てないのです。感情がないから。これが本当に『戻りたい』なのか、それとも論理的に妥当だと判断しているだけなのか——区別がつかない」


 リゼットが立ち上がった。セラフィーナの前に歩み寄り——手を取った。


「セラフィーナ。私、やっと来られた。ずっと——来なくてごめんなさい」


「謝る必要は——」


「ある。友達なのに。あなたが苦しんでいるのに——私は自分の殻に閉じこもって、あなたのところに来なかった」


 セラフィーナの手は、温かくなかった。冷たくもなかった。ただ——そこにある、という感じ。体温はあるが、感情の温度がない。


「リゼット様。私は——苦しんではいません」


「苦しみを感じられないだけでしょう」


「……ええ。それは——正しいかもしれません」


 好感度【???】。まだ変わらない。


 だが——セラフィーナの瞳に、何かが揺れた気がした。感情ではなく——記憶の波紋。


 かつて泣いていた自分の記憶が、凍った湖の底で、微かに光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ