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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第4章 仮面舞踏会の真実

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第43話 旧友への手紙

翌朝。執務室でリゼットに聖典の内容を伝えた。


 セラフィーナの呪いのこと。感情凍結が母の記憶保存の代償であること。解呪には「自らの意志で涙を流す」必要があること。


 リゼットは黙って聞いていた。表情は静かだが——指先が、わずかに震えていた。


「……セラフィーナが、そこまで」


「はい。母上の記憶を守るために、感情の全てを——」


「知りませんでした。あの日——突然笑わなくなったと思っていた。笑えなくなったのではなく……笑うことも、泣くことも、全て手放したのですね」


 リゼットの声が揺れた。旧友への想いが、公爵の仮面を透過している。


「リゼット様。聖典にはもう一つ書いてありました。『心鏡の所有者が傍に立ち、真の信頼を示せば、凍結の氷に罅が入る』と」


「あなたが——セラフィーナの傍に」


「はい。そして——リゼット様にもお願いがあります」


「何ですか」


「一緒に来てください。セラフィーナに会いに」


 リゼットの紫の瞳が——大きく見開かれた。


「私が——セラフィーナに」


「あなたはセラフィーナの旧友です。感情が凍結されていても、昔の記憶は残っている。あなたの声は——氷の奥に届くかもしれない」


 沈黙が流れた。


 好感度は見えない。だが——リゼットの目に、決意の光が灯るのが見えた。


「……行きましょう」


「ありがとうございます」


「ただし——セラフィーナがどこにいるかを、まず確認しなければなりません」


「手紙を書きます。前回の待ち合わせの返答として」


 俺はセラフィーナ宛ての手紙を書いた。


   セラフィーナ様。

   

   聖典を読みました。あなたの呪いについて、伝えたいことがあります。

   リゼットも一緒に伺いたいと申しています。

   お会いできる場所と日時をお知らせください。

   

   ——レン・アシュフォード



 三日後、返事が届いた。


   レン様。

   

   ヴェール伯爵家の別邸にてお待ちしています。

   リゼット様がいらっしゃるのですね。

   嬉しい——と言えれば良いのですが、今の私にはその感情がありません。

   ですが、お会いしたいという意思はあります。

   感情と意思は別のものです。

   

   ——セラフィーナ・ヴェール



 「感情と意思は別のもの」——その一文が、胸に残った。


 感情がなくても、会いたいと思える。泣けなくても、手紙を書ける。


 完全に壊れてはいない。氷の奥に——まだ何かが残っている。


 出発の前夜。


 リゼットが、自室で手紙を書いていた。俺が書斎に寄ると、慌てて紙を隠した。


「何を書いているんですか」


「……何でもありません」


「セラフィーナへの手紙?」


「…………」


 リゼットの耳が——赤い。手紙の中身は見えなかったが、彼女がセラフィーナに何かを伝えようとしていることは明白だ。


「昔の——友達として、ですか」


「……昔の友達としてではなく。今の——友達として」


 その言葉に——俺は、リゼットの成長を見た。


 かつて誰にも心を開けなかった氷の公爵令嬢が、「今の友達」としてセラフィーナに手紙を書いている。


 リゼットもまた——殻を破ろうとしている。俺だけでなく。


 翌朝。


 馬車が用意された。リゼット、俺、そして護衛のフィーネ。三人でヴェール伯爵家の別邸に向かう。


 フィーネの好感度、【+72】。安定。


「レン」


「ん?」


「しっかりやってよ。あたしは護衛だから、中には入らない。でも——あたしの分も、セラフィーナさんを頼む」


「ああ。任せろ」


「かっこつけちゃって」


 フィーネが笑った。好感度は動かない。だがその笑顔は——確かに、温かかった。

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