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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第3章_数字が壊れる日

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第40話 数字がなくても、わかることがある

ヴィクトールが去った夜。


 暁の庭園。あの茶会をした場所。指が触れた場所。「忘れなさい」と言われた場所。


 俺はレイクミントティーを二杯分用意して、ベンチで待っていた。


 リゼットが来た。


 正装ではなく、薄紫のワンピース。髪を下ろしている。あの茶会の時と同じ格好だ。


 ミスティが足元に寄ってきて、「にゃあ」と鳴いた。リゼットは——人前にもかかわらず——しゃがんでミスティの頭を撫でた。


「……触ってますね」


「……今日は、特別です」


 ベンチに隣同士で座った。


 レイクミントティーを手渡す。リゼットが一口含んだ。


「……少し、濃い」


「リゼット様好みの濃さです」


「…………ええ」


 沈黙。


 だが——気まずくない。あの頃とは違う。沈黙が心地よい。


「レン」


「はい」


「今日——殿下の前で。私、言ってしまいました」


「何をですか」


「……大切な人がいる、と」


「聞きました」


「……恥ずかしい」


 リゼットの耳が赤い。首元まで赤い。だが——目は正面を向いている。逃げていない。


「誰のことだか——聞かないのですか」


「……聞かなくてもわかりますから」


「あなたは——本当に……っ」


 リゼットが俺を見た。紫の瞳に、月光——いや、今夜は新月に近い。光はほとんどない。だが、彼女の瞳の奥が、暗闇の中でほのかに光っている。


「レン。あなたに、聞きたいことがあります」


「何でも」


「あなたの——あの『人の感情が数字で見える力』。私の感情は——今、見えていますか」


 心臓が跳ねた。


 彼女は——覚えていた。あの時の発言を。半端に伝えた能力のことを。


「見えていません」


「……見えない?」


「はい。リゼット様の感情だけ——見えなくなりました」


「それは——私が嫌われているということですか」


「逆です」


 リゼットが首を傾げた。


「リゼット様のことが大切すぎて——数字で測りたくなくなったんです。だから、自分で手放しました」


 沈黙。


「……手放した」


「はい。もう、リゼット様のことを数字では見ない。見なくていいと——心が、そう決めたみたいです」


 リゼットの目が——潤んだ。


「それは——」


「数字がなくても、わかることがあるんです」


「……何がわかるのですか」


「リゼット様が今——泣きそうで、嬉しくて、恥ずかしくて、怖くて——それでも隣にいてくれていること」


「…………」


「それだけわかれば——数字なんて、いりません」


 リゼットの涙がこぼれた。指で拭おうとしたが——間に合わなかった。頬を伝って、顎から落ちる。


「……泣いていません」


「泣いてます」


「泣いて——ませんっ」


 同じやり取り。病室の時と同じ。でも——今度は、笑いながら泣いていた。


「あなたは——本当に、馬鹿です」


「知ってます」


「好きです」


 ——え。


「好き——と、言いました。今」


 リゼットの顔が——信じられないくらい赤い。耳も首も全部赤い。目は潤んだまま、だが——まっすぐ俺を見ている。


「私は——あなたが、好きです。レン・アシュフォード」


 好感度は見えない。


 でも——見えなくていい。


 見えなくても——わかる。


「俺も——好きです。リゼット」


 言えた。


 前世では一度も言えなかった言葉。人の気持ちがわからなくて、自分の気持ちもわからなくて、どう伝えればいいかわからなくて——結局、誰にも言えなかった。


 だけど——今、言えた。


 リゼットの手が、俺の手を取った。今度は震えていない。しっかりと、温かい手。


「……このまま、少しだけ」


「はい」


「手を、離さないでください」


「離しません」


 湖の向こうから、風が吹いた。花の匂いがする。ミスティが足元でゴロゴロ鳴いている。


 好感度は見えない。


 HPがいくつなのかも、もう計算していない。


 ただ——隣に、大切な人がいる。


 それだけが、全世界で一番確かなことだった。

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