表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第3章_数字が壊れる日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/65

第39話 ヴィクトールの好感度0

ガルシア伯爵との取引が成立してから一週間。


 経済的圧力は目に見えて緩和された。関税所は撤去され、交易路は自由通行に戻り、加工魚の王都輸出が再開された。


 だが——ヴィクトールの動きは止まっていない。


 ガルシアが手を引いても、王太子は別のルートで動く。今度は——もっと直接的に。


 ヴィクトールからの書簡が届いた。リゼット宛。


   先日の件については遺憾に思います。

   改めて、二者間での直接会談を希望します。

   場所、日時につきましては、そちらのご都合に合わせます。

   

   ——ヴィクトール・フォン・グランツ



「直接会談——来ますか」


「来ます。シルヴァーノ城に」


 リゼットの声は冷静だった。


「もはやガルシアや他の家臣を介した間接策は使えない。殿下自身が動く——ということは、最終通告に近いでしょう」


「断れないんですか」


「断れば——次は軍事的な圧力です。シルヴァーノ領に対して王家が『保護軍』を派遣するという名目で——実質的に占領できます」


 重い。


「だからこそ、完璧な形で対応しなければなりません」


 ヴィクトール来訪当日。


 シルヴァーノ城の大会議室に、王太子が入ってきた。


 前回と同じ白金の軍服。金髪碧眼。完璧な笑顔。


 好感度——


 【+15】


 +85から+15に。70ポイントの暴落。


 もはや計算された好意は剥がれ落ち、残っているのは「まだ利用価値がある」程度の薄い評価だけだ。


「リゼット殿。お会いできて嬉しいです」


「殿下。ようこそシルヴァーノ城へ」


 二人の会話は氷のように冷たい社交辞令だった。


 俺はリゼットの隣に座っている。ヴィクトールの視線が俺に向いた。


 好感度が——


 【+15】→【0】


 ゼロ。


 初めてのゼロ。+85だった男が——0になった。


 好意的態度の仮面が、完全に剥がれた。俺はもう「利用できる駒」ではなく——「排除すべき障害」ですらなく——「どうでもいい存在」になった。


 いや——違う。


 0は「無関心」ではない。


 0は——「感情を隠した状態」だ。


 ヴィクトールは今、俺に対して何を感じているかを完全に遮断している。計算も好意も敵意も全て消して——素の状態で臨んでいる。


 それは——本気だということだ。


「率直に申し上げます」


 ヴィクトールが切り出した。笑顔は消えていた。初めて——仮面のない素顔。


「シルヴァーノ公爵家と王家の婚姻は、双方にとって最善の選択です。先日の暗殺未遂事件については——深くお詫びいたします。あれは私の意図ではありません」


「承知しています」


「しかし——あのような事件が再び起きないという保証は、私にもできません。王家の内部には様々な思惑を持つ人間がいます。リゼット殿を守るためにも——婚姻同盟は最良の選択肢です」


 ——巧い。


 暗殺未遂を「自分の責任ではない」としつつ、「再発防止には婚姻が必要」と結論づけている。脅迫ではなく——保護の提案として。


「殿下に一つ伺います」


 リゼットの声が、静かに響いた。


「殿下は——私を愛していらっしゃいますか」


 場が凍った。


 ブレンナーが目を丸くした。フィーネも。俺も。


 リゼットが——そんな直球を投げるとは。


 ヴィクトールの好感度を見る。


 【0】→【-3】→【+2】→【0】


 揺れたが——すぐに0に戻った。完璧な制御。


「……愛は、結婚生活の中で育むものだと考えています」


「つまり——今は、愛していないのですね」


「…………」


「正直にお答えください。殿下」


 ヴィクトールが——初めて、言葉に詰まった。


「……私は、あなたを尊敬しています。優れた政治家だと認めています。しかし——個人的な感情として愛しているかと問われれば」


「ないのですね」


「——ありません」


 好感度、【0】→【-5】。


 マイナスに転じた。初めて。本音を言わされた不快感が数字に出た。


 リゼットが立ち上がった。


「殿下。私も正直に申し上げます」


「…………」


「婚姻は——お断りいたします」


 静寂。


「理由は三つです。一つ——愛のない婚姻では、私もシルヴァーノ領民も幸せにはなれない。二つ——シルヴァーノ領は経済的に自立しており、保護を必要としません」


 ヴィクトールの好感度、【-5】→【-15】。さらに下がった。


「そして——三つ目」


 リゼットの紫の瞳が、まっすぐにヴィクトールを見据えた。


「私には——大切な人がいます」


 心臓が止まった。


 リゼットは俺のことを見なかった。ヴィクトールだけを見ていた。


 だが——「大切な人」が誰であるかは、この場の全員がわかっていた。


 ヴィクトールの好感度、【-15】→【-25】。


「……そうですか」


 ヴィクトールは立ち上がった。笑顔はなかった。


「残念です。しかし——あなたの決断は尊重します」


 お辞儀をして、大会議室を出ていった。


 その背中を見送りながら——好感度を確認した。


 【-25】


 完全にマイナス。もう好意の仮面はない。


 だが——殺意(-80以上)でもない。ヴィクトールは政治家だ。感情で動く男ではない。


 今後も政治的な対立は続くだろう。だが——婚姻の強要は、これで終わった。


 リゼットが席に座ったまま、深い溜め息をついた。


「……終わりました」


「はい」


「レン」


「はい?」


「……後で、お茶を入れてもらえますか。レイクミントの——濃いめで」


「はい。喜んで」


 好感度は見えない。


 でも——リゼットの声が、少しだけ震えていた。


 緊張が解けた震え。怖かった。でも、やり遂げた。


 その声の震えだけで——俺には、十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ