第37話 フィーネの答え
反撃の準備が進む中——フィーネと二人きりになるタイミングがあった。
夕方の訓練場。他の騎士見習いたちは帰り、西日だけが残っている。
「レン。ちょっと座って」
フィーネの声が——いつもと違った。明るさの中に、覚悟のようなものが混じっている。
好感度、【+70】。高い。だが——数字には映らない何かが、彼女の目にある。
ベンチに並んで座った。
「あのさ」
「うん」
「病室であたしが言いかけたこと——覚えてる?」
「……覚えてる」
「あの時、『後で言う』って言ったでしょ。今が後」
フィーネは前を向いたまま——湖の方を見ていた。
「あたしね、レンのこと好きだよ」
——心臓が跳ねた。
「友達としてじゃなくて。男の人として。好き」
好感度、【+70】→【+75】。上がった。本心を言ったことで——隠す負荷がなくなって、素の感情が数字に出た。
「いつからかは、わかんない。たぶん——レンがリゼット様のために必死になってるのを見た時。あたしじゃなくてリゼット様を見てるのに——それでも、応援したいって思って。でも応援してるうちに——なんか、好きになってた」
「フィーネ——」
「でもね」
フィーネが振り向いた。琥珀色の目には——涙はなかった。
笑っていた。少し切なくて、でも強い笑顔。
「でも——あたしは知ってるよ。レンが好きなのはリゼット様だって」
「…………」
「レンの顔見てればわかるもん。リゼット様と話してる時のレンの顔——あたしに向ける顔とは、全然違うの」
否定できなかった。
「だから——振ってくれなくていいよ」
「え?」
「振るとか振らないとかじゃなくて。あたしは自分の気持ちを言いたかっただけ。スッキリしたかったの。ずっと隠してるのが——しんどかったから」
フィーネの好感度、【+75】→【+72】。少し下がったが——安定している。
「それで——あたしはこれからもレンの味方でいるよ。リゼット様の味方で、レンの味方。三角関係とかじゃなくて——あたしはあたしの立場で、二人を守る」
「フィーネ……」
「泣くなよレン」
「泣いてない」
「嘘。目ぇ赤い」
——泣いていた。
フィーネの強さに。彼女の優しさに。
好感度は【+72】。数字だけ見れば、少し下がった。だが——この【+72】は、以前の【+75】より遥かに重い。
嘘のない、むき出しの気持ち。
以前の好感度は「好意+隠す負荷」が混ざった数字だった。今の数字は——純粋な友愛と信頼。
「……ありがとう、フィーネ。俺——ちゃんと言えないけど」
「いいよ。わかってるから」
「リゼット様のことも——フィーネのことも——どっちも大事だよ」
「知ってるって。あたしに向ける好感度くらい、顔見りゃわかるんだから」
好感度って言った。
「あ、好感度って——」
「比喩だよ比喩。レンの顔はわかりやすいんだもん」
フィーネが笑った。いつもの三日月の笑顔。
だけど——今日の笑顔には、涙の跡がなかった。
泣かずに言い切った。この子は——本当に、強い。
「じゃ、訓練しよっか。最近サボり気味でしょ」
「待って、肩まだ——」
「左肩でしょ。右腕は動くじゃん。はい木剣!」
「鬼!」
「そうだよ。あたしは鬼コーチだからね」
木剣を振りながら——笑った。二人で笑った。
好感度は【+72】のまま安定していた。
でも——数字以上のものが、ここにある。
フィーネは——俺の、一生の友人だ。
それだけは——絶対に、変わらない。




