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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第3章_数字が壊れる日

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第36話 反撃の手札

セラフィーナから受け取った証拠を、翌朝リゼットに渡した。


 リゼットは書簡の写しを一読し——表情を変えなかった。


「……予想はしていました」


「使えますか。この証拠」


「使えます。ただし——使い方を間違えれば、逆に我々が窮地に立ちます」


 リゼットが書簡を机に置き、考え込んだ。


「ガルシア伯爵の関与を公にすれば、ヴィクトール殿下の評判に傷がつく。しかし——王家を直接攻撃することは、全貴族を敵に回す危険がある」


「じゃあ、どう使うんですか」


「交渉の材料にします。ヴィクトール殿下に直接——」


「直接?」


「ええ。『この証拠を公にしない代わりに、婚約の件を白紙に戻す』。取引です」


「脅迫、ですね」


「政治です」


 リゼットの目に鋭い光が宿った。この人は——必要とあらば、手段を選ばない。公爵としての覚悟がある。


「ただし、それだけでは不十分です。ヴィクトール殿下は一度退いても、別のルートで圧力をかけてくる。根本的な解決には——」


「何が必要ですか」


「味方が必要です。単独では王家に対抗できない。他の有力貴族との連携——特に、中立派の取り込みが」


「中立派?」


「仮面舞踏会で、あなたが好感度をチェックしていた貴族たちの中に、シルヴァーノに好意的な反応を示した人物がいたはずです」


 ——いた。好感度+10前後の小領主が数名。リゼットの経済データに感銘を受けた反応だった。


「いましたね。名前は覚えています」


「リストを作ってください。こちらから働きかけます」


「了解です」


 好感度が見えない中での政治交渉だが——仮面舞踏会で確認した数値は記憶に残っている。あの時点で好意的だった貴族は、今も味方になる可能性が高い。


 数字を「過去の記録」として参照しつつ、今の判断は自分の目で行う。


 ——いいバランスだと思う。


 午後、フィーネが訓練場から駆け込んできた。


「リゼット様! 大変です!」


「何ですか」


「シルヴァーノ湖の東岸——交易路に、王家の関税所が新設されたって! 商人たちが通行料の引き上げに——」


「来ましたか」


 リゼットは冷静だった。予測していたのだ。


「経済的圧力の第一波です。交易路を塞がれれば、湖の加工魚の王都への輸出が——」


「ストップしますね」


「ええ。レン。対策を」


「すでに考えてあります」


 俺はブレンナーと作成していた代替輸送ルートの地図を広げた。


「東岸の交易路が使えなくなっても、湖の西岸を経由して隣のベルクシュタイン領を迂回するルートがあります。こちらなら王家の管轄外です」


「ベルクシュタイン男爵は敵では?」


「漁業権の加工販売事業で、彼の領地にも利益が出始めています。関税所のせいで事業が止まれば、ベルクシュタイン男爵も困る。ここは利害の一致で——」


「……敵を味方に変える」


 リゼットの唇が——わずかに上がった。


「あなたの得意技ですね」


「え?」


「敵を味方に変えること。……最初に変えたのは、私でしょう」


 好感度は見えない。だが——あの微笑みは、確実にプラスだ。


 フィーネが横で「ニヤニヤ」していた。好感度【+70】。安定して高い。


「何笑ってるの」


「べっつにー」


 この子は——すでに全部わかった上で、応援してくれているのだ。


 自分の気持ちを押し殺して。


 ……フィーネには、いつかちゃんと向き合わなければならない。でも今は——


「よし。ベルクシュタイン男爵への打診、俺が行きましょうか」


「いいえ。それは私が行きます。公爵同士——いえ、公爵と男爵の直接交渉は、格の問題があります」


「では俺は——」


「味方になりうる中立派貴族へのレター作成をお願いします。あなたの言葉は——数字を読める言葉ですから」


 数字を読める言葉。かつてリゼットがくれた評価。


 好感度は見えなくても——信頼は、見える。


 反撃の手札は揃いつつある。

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