表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイランダー
第1章 好感度サバイバル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/8

第3話 まずは使用人のおばちゃんから好かれよう

 使用人好感度改善計画、初日。


 まずはルドルフ爺さんからいこう。好感度【-5】。ほぼ無関心のラインだ。少しのきっかけでプラスに転じるはず。


 朝食を終えた俺は、庭に出た。


 ルドルフ爺さんは花壇の前にしゃがんで、黙々と雑草を抜いていた。七十は超えているだろう白髪の老人で、日に焼けた顔に深い皺が刻まれている。この体の記憶では、何年も前からこの屋敷で庭の手入れをしている人だ。


 よし、ここだ。


「ルドルフさん、おはようございます」


「……おや。レン様。珍しいですな、こんな朝早くに庭におみえとは」


 爺さんの頭上、【-5】。変わらず。まあ挨拶一発で劇的に変わるとは思っていない。


「少し、手伝ってもいいですか?」


「はあ?」


 ルドルフ爺さんの目が丸くなった。当然だ。この体の前の持ち主は、庭仕事を手伝うどころか庭に出ることすら稀だったのだから。


「体を動かしたくて。草むしりくらいなら俺にもできるかなと」


「はぁ……まあ、よろしいですが。そちらの花壇を頼めますかの」


 爺さんの好感度に変化はない。まだ様子見というところか。


 俺はしゃがんで草をむしり始めた。前世ではやったことのない作業だが、難しいことはない。雑草と花の区別さえつけばいい——つくよな?


「あ、あの、ルドルフさん。これは雑草ですか?」


「それはラベンダーですじゃ」


「す、すみません!」


 危ない。危うく花壇を壊滅させるところだった。


 爺さんが溜息交じりに「こちらの茶色い葉のものが雑草ですわ」と教えてくれる。その瞬間、頭上の数字がわずかに動いた。


 【-5】→ 【-3】。


 上がった。2ポイント。たった2だが——上がった。


 「教える」という行為が、僅かにポジティブな感情を生んだのか。人は質問されると悪い気はしない、とはまさにこのことだ。


「ルドルフさん、こっちの背の高いのは?」


「それはローズマリー。料理にも使えますでな」


 【-3】→【-1】。


 ——いける。


 俺は質問攻めにした。花の名前、育て方、水やりの頻度。ルドルフ爺さんは最初こそ困惑していたが、次第に嬉しそうに語り始めた。


「このシルヴァーベルは、先代の奥様——レン様のお祖母様がお好きでしてな。わしが若い頃に奥様と一緒に植えたものですじゃ」


「へえ……ずっと大事にしてくれてたんですね」


 ルドルフ爺さんの表情が、ふっと柔らかくなった。


 【-1】→ 【+5】。


 ——プラス! プラスだ!


 ようやく、ようやくプラスの数字を見た。たった+5だが、俺にとっては砂漠で見つけたオアシスのような数字だ。


 体が——ほんの少し、軽くなった気がした。


 HPが微増したのだろう。好感度合計が-90から-80くらいに改善した程度だが、それでもHP上限が10から20になった。生命の綱が、わずかに太くなった。


 だが、油断はできない。


 午後。本丸に挑む。


 マルタさんだ。


 好感度【-28】(昨日から微改善)。使用人の中で最もマイナスが大きく、かつ最も影響力の大きい存在。彼女は屋敷の家事全般を取り仕切っており、他の使用人たちのリーダー的存在でもある。


 マルタさんの好感度が上がれば、他の使用人たちへの波及効果も期待できる。


 問題は、マルタさんが「一番手ごわい」ということだ。


 この体の記憶から推測するに、マルタさんは長年この家に仕えてきた忠義者だ。先代——父エドムントへの忠誠心は厚い。だが、怠惰な次男坊たるレンには失望している。しかも前のレンは、マルタさんの作った料理に文句を言ったことがあるらしい。


 ……お前マジか。飯作ってくれる人に文句言うとか、前世の俺なら張り倒してるぞ。


 とにかく。


 台所の扉を叩く。


「あの、マルタさん」


「はい、レン様。何か御用でしょうか」


 マルタさんは大きな鍋をかき混ぜながら、こちらを振り返った。効率的な動きに一切の無駄がない。表情は丁寧だが、目が笑っていない。


 頭上の数字、【-28】。


「えっと……夕食の、お手伝いをしたいんですが」


 沈黙。


 マルタさんの手が止まった。


「……レン様が、台所に?」


「はい。迷惑じゃなければ——」


「迷惑ですわ」


 ばっさり。


 【-28】→【-30】。


 下がった! 2下がった! さっきのルドルフ爺さんとは逆の展開!


「あ、その、別に邪魔するつもりは——」


「レン様。失礼を承知で申し上げますが」


 マルタさんの目が、まっすぐ俺を射抜いた。


「突然お庭のお手入れをなさったり、台所に立つとおっしゃったり。なにか企んでおいでですか」


 ——鋭い。


 この人は、ぬるい好意にはなびかないタイプだ。前のレンの怠惰さを長年見てきたからこそ、急な変化に警戒する。


「企みっていうか……いえ、正直に言います」


 俺は深呼吸した。


「今まで、自分がどれだけ周りの人に失礼なことをしてきたか、やっと気づいたんです。遅すぎるのはわかってます。でも、変わりたいと思ってる。だから——最初の一歩として、マルタさんの仕事を手伝わせてください」


 ……恥ずかしい。


 前世ならこんな真っ直ぐな台詞、逆立ちしても吐けなかっただろう。だが命がかかっている。恥は後で感じろ。


 マルタさんは、しばらく俺の目を見つめていた。


 その間、好感度の数字が微かに揺れる。


 【-30】→【-29】→【-28】→【-29】→【-27】。


 行ったり来たりしている。迷っているのだ。


 やがて、マルタさんは小さく息を吐いた。


「……では、ジャガイモの皮むきからお願いします。包丁はこちら」


「は、はい!」


 そこから一時間。俺は必死でジャガイモの皮をむいた。


 不格好な出来栄えに、マルタさんは何度も苦笑していたが——それは嘲りではなく、どこか呆れ交じりの温かさを含んでいるように見えた。


 夕食が出来上がった頃、マルタさんの数字を確認する。


 【-20】。


 ……8も上がった。一日の中では最大の上昇幅だ。


「マルタさん。今日のシチュー、すごく美味しいです」


「レン様がむいたジャガイモは、半分ほど使い物になりませんでしたけれどね」


 そう言いながらも、マルタさんの口元がかすかに緩んでいるのを、俺は見逃さなかった。


 好感度はまだマイナスだ。だが、方向は正しい。


 この夜、ベッドに横になりながら、今日一日の「好感度帳簿」を頭の中で整理した。


 ルドルフ:-5 → +5(プラス転換!)

 マルタ:-28 → -20(大幅改善!)

 トーマス:-15(変動なし。明日なんとかしよう)

 洗濯係の女性:-10(変動なし。まず名前を覚えよう)


 HP上限は、体感で少しだけ改善している。呼吸が楽になった気がする。膝の傷も、うっすらとかさぶたが形成され始めた。


 遠い道のりだが——ゼロから始めるよりはマシだ。マイナスから始めてるけど。


 目を閉じる。


「……明日は、トーマスを攻略するか」


 攻略。我ながらゲーム脳な発想だが、好感度が数値で見える以上、もうゲーム感覚でいくしかない。


 ゲームと違うのは、失敗したら死ぬということ。


 それだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ