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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイランダー
第1章 好感度サバイバル

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第2話 好感度がゼロになったら死ぬらしい

 転生二日目にして、俺は死にかけた。


 正確に言えば、死にかけたことに「気づいた」。


 きっかけは、朝の散歩だった。屋敷の裏庭を歩いていた時、足元の石につまずいて転んだ。たったそれだけのことだ。子供でも怪我しないような、ちょっとした転倒。


 ——なのに、膝から血が止まらない。


「何……これ……」


 小さな擦り傷から、じわじわと血が滲み続ける。普通なら数分で止まるはずの出血が、いつまで経っても止まらない。


 慌てて屋敷に戻り、マルタさんに手当てを頼んだ。マルタさんは眉をひそめながらも(頭上の数字は【-28】。昨日より微かに改善しているのは、朝食の時に「ありがとうございます」と言ったからだろうか)、手際よく包帯を巻いてくれた。


「レン様は昔から、お体が弱くていらっしゃいますから。お気をつけくださいませ」


 体が弱い。


 その言葉が引っかかった。この体——レン・アシュフォードの記憶を辿ると、確かに幼い頃から体が弱かった。風邪を引きやすく、怪我の治りが遅い。魔力量も平均以下で、体力もない。


 だが、それは単なる「体質」なのか?


 自室に戻って、改めて《心鏡の瞳》について頭の中に流れ込んできた「知識」を整理する。


 昨日はパニックで見落としていた情報がある。好感度の表示機能以外に、もう一つ——


「……副作用」


 冷汗が背中を伝った。


 《心鏡の瞳》には副作用がある。正確には「呪い」のようなもの。


 その内容は——


 主人公のHP上限が、「基礎HP+周囲の人間の好感度の合計値」で決まる。


 HP。生命力。体力。この世界の人間が持つ、肉体の強靱さを示す数値。


 通常の人間は、生まれつきのHPを持っている。魔力や体格に応じて差はあるが、健康な成人なら250〜400程度。騎士や冒険者なら500以上もありうる。


 俺の基礎HPは——100。魔力量が平均以下のため、貴族としてはかなり低い。だが普通なら、100あれば日常生活に支障はない。


 問題は、そこに好感度の合計が加算されるということだ。プラスならHP上限が上がる。マイナスなら——下がる。


 計算してみた。


 マルタさん:-30

 トーマス:-15

 ルドルフ:-5

 洗濯係の女性(名前をまだ知らない):-10

 残りの使用人三人を仮に平均-10とすると:-30


 合計:-90


 ……合計がマイナス90。


 基礎HP100に加算すると——HP上限は10。


 10。


 たったの10。


 健康な成人なら250以上あるはずのHP上限が、わずか10。いや、そもそもHP上限が0以下になったら——死ぬ。


 今の俺は、あと使用人一人に嫌われるだけで致死ラインに到達する。


「……マジか」


 声が震えた。


 落ち着け。落ち着くんだ、俺。


 もう一度、知識を整理する。「周囲の人間」の定義は何だ。屋敷にいる全員か? それとも——


 少し考えて、わかった。


 「周囲」は物理的な距離ではなく、「主人公を認識している人間」全体を指す。つまり、俺のことを知っていて、何らかの感情(好意でも嫌悪でも無関心でも)を持っている人間全員の好感度が合算される。


 ただし、影響力は関わりの深さに比例する。毎日顔を合わせる使用人たちの好感度は大きく影響するが、一度すれ違っただけの街の人間の好感度はほとんど影響しない。


 改めて整理する。


 日常的に関わりのある使用人七人の合計が約-90。不在の兄カーツは俺に対してほぼ無関心で±0。父エドムントもほぼ±0。


 基礎HP:100

 好感度合計:-90

 HP上限:100 + (-90) = 10


 HP上限10。


「あっ」


 膝の傷を見た。じわじわと血が滲み続けている包帯。


 止まらないのは「体が弱い」からじゃない。


 HP上限がたった10しかないから だ。


 生命力が底を突いている状態。回復力がない。抵抗力がない。この状態で風邪でも引いたら——本当に死ぬ。


 椅子から立ち上がった。膝が震えていた。


 恐怖ではない。いや、恐怖もある。だが、それ以上に頭の中で警報が鳴り響いていた。


 ——好かれないと死ぬ。


 これはゲームじゃない。ファンタジー的な設定がついてはいるが、結局のところ突きつけられているのは極めてシンプルな現実だ。


 人に好かれなければ生きていけない。


 前世の俺が逃げ続けていたものが、今度は「死」という形で追いかけてくる。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れた。


 転生して人生やり直しだと思ったら、難易度がハードモードどころかナイトメアモードだった。


 だが、泣き言を言っている暇はない。


 今この瞬間にも、俺のHPはギリギリの状態なのだ。擦り傷一つで血が止まらないレベルの。重い風邪を引けば、そのまま衰弱死しかねない。


 方針を修正しよう。


 当初は「ゆっくり信頼を取り戻そう」と思っていたが、そんな悠長なことを言っている場合じゃなかった。


 最優先ミッション——今すぐ、誰かの好感度をプラスに持っていく。


 一人でもいい。この屋敷の誰かから好かれれば、HP上限がプラスに転じて、とりあえず「生存ライン」に乗れる。


 ターゲットは誰にする?


 最も好感度が高い——いや、最もマイナスが小さいのはルドルフ爺さんの【-5】。ほぼ無関心。ここを狙えば、ちょっとした親切で+に持っていけるかもしれない。


 だが、影響力を考えるなら一番大きいのはマルタさんだ。屋敷の家事全般を仕切る彼女からの好感度が【-30】なのは致命的。逆に言えば、マルタさんの好感度をプラスに持っていければ、一気にHPが改善する。


 ——よし。


 作戦名、命名。


 「使用人好感度改善計画」。


 我ながらダサいネーミングだが、命がかかっている以上、格好をつけている余裕はない。


 具体的にどうするか。


 前世の経験から言えば、人に好かれるのに近道はない。地道に、誠実に、相手のことを考えた行動を積み重ねるしかない。


 だが今の俺には最強のフィードバック装置がある。《心鏡の瞳》だ。何をすれば好感度が上がり、何をすれば下がるのか。リアルタイムで数値が見える。前世の俺が泣いて欲しがった機能だ。


 まずはルドルフ爺さんから攻めよう。-5からプラスへ。ハードルは低いはずだ。


 それから、マルタさん。ここは長期戦になるかもしれないが——


「レン様、お昼のお支度ですが——」


 ドアをノックして入ってきたトーマスの頭上。


 【-15】


 ……とにかく。


 生き残るために。


 俺は今日から、全力で「いい人」になる。


 命がけで。

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