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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイランダー
第1章 好感度サバイバル

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第1話 死因、過労。転生先、地獄。

 死んだ理由が過労だなんて、笑えない冗談だと思った。


 いや、もう笑うしかないのかもしれない。なにしろ俺——朝霧蓮、享年二十八歳——は今、見知らぬ天井を仰ぎ見ながら、自分が「赤ん坊」であったことの記憶を薄ぼんやりと思い出しているのだから。


 転生。


 前世の最期は覚えている。終電を逃した深夜のオフィス、青白いモニターの光、肩に張りつく疲労。上司の顔色、同僚の本音、恋人の「最近冷たいよね」。何もかもがわからなくて、わかろうとして、結局——わからないまま倒れた。


 最後に思ったことは、ひどく情けないものだった。


 ——数字で、人の気持ちがわかればいいのに。


 あの願いが聞き届けられたのか、それとも神様のブラックジョークなのかは知らない。ただ一つ確かなのは——


「……見える」


 俺は今、十七歳の少年の体で、ベッドの上に起き上がっていた。


 名前はレン・アシュフォード。アシュフォード子爵家の次男。剣も魔法も平凡。この世界——エルディアスとかいう剣と魔法のファンタジー世界——において、取り立てて何の取り柄もない、地味な貴族の次男坊。


 前世の記憶が戻ったのは、ついさっきのことだ。


 朝、目覚めた瞬間に、二十八年分の「朝霧蓮」の記憶がどっと流れ込んできた。頭が割れるように痛くて、しばらくベッドの上でうずくまっていた。


 そして——見えるようになった。


 部屋のドアが開く。


「レン様、お目覚めですか。朝食のお支度ができております」


 入ってきたのは、恰幅のいい中年の女性だ。使用人のマルタさん。この体の記憶によれば、物心ついた頃から屋敷で働いているベテランの侍女で、子爵家の家事全般を取り仕切っている人。


 その彼女の頭上に——数字が、浮かんでいた。


 半透明の、淡い光を放つ数字。他の誰にも見えていないようだが、俺の目には、はっきりと映っている。


 【-30】


 ……マイナス?


「レン様? どうなさいました。顔色が優れないようですが」


「い、いえ……大丈夫です。大丈夫ですよ、マルタさん」


 大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。


 マイナス三十。この数字が何を意味しているのか。俺の中に流れ込んできた不思議な「知識」が、囁くように教えてくれる。


 ——固有魔法《心鏡のミラー・アイ》。


 相手が「自分」に対して抱いている感情を、数値として可視化する能力。-100から+100の範囲で表示される。


 つまり、マルタさんの頭上に浮かぶ【-30】は。


 マルタさんが俺に対して抱いている感情は——マイナス三十。


 嫌われている。


 結構、しっかり、嫌われている。


「朝食は食堂にご用意しておりますので」


 マルタさんはそう言って、淡々と部屋を出ていった。必要最低限の業務連絡。そこに温かみはない。


 ……まあ、この体の記憶を辿れば、納得はする。レン・アシュフォードという少年は、子爵家の次男という中途半端な立場に甘えて、勉強もせず、剣術も魔法もさぼり、使用人に横柄な態度を取ることもあった——らしい。


 前世の俺が聞いたら「お前ふざけんな」と言いたくなるような怠惰な日々。


 好感度マイナスも当然だ。


「……はぁ」


 ベッドから降りて、窓を開ける。


 朝の光が差し込んで、穏やかな風が頬を撫でた。窓の外には緑の丘陵が広がり、遠くに小さな街並みが見える。平和だ。空気が美味い。前世のビル街とは大違いだ。


 ここが、アシュフォード子爵領。


 俺の新しい「人生」の舞台。


 だが——


 食堂に行ってみると、状況はさらに深刻だった。


 給仕の青年トーマスが朝食を並べてくれているが、彼の頭上にも数字が浮かんでいる。


 【-15】


 マイナス十五。穏やかな顔で「おはようございます、レン様」と言ってくれているが、内心ではあまり好かれていない。まあ、マルタさんよりはマシか。


 食堂のドアの前を通りかかった庭師のおじいさん、ルドルフ。


 【-5】


 微妙にマイナス。ほぼ無関心に近いが、わずかにネガティブ。


 食事を終えて廊下を歩いていると、すれ違った洗濯係の若い女性。名前は——えっと、この体の記憶にもない。名前すら覚えてなかったのか、前のレン。


 【-10】


 ……マイナス十。


 足を止めて、天井を仰いだ。


 今のところ、俺の好感度がプラスの人間が一人もいない。


 この屋敷にいる使用人は、俺が把握しているだけで七人。マルタさんが-30、トーマスが-15、ルドルフが-5、洗濯係の女性が-10……残りの三人もおそらく似たようなものだろう。


 いや待て。使用人だけじゃない。


 兄のカーツは現在、王都の騎士団に出仕中で不在。

 父のエドムント子爵は領地経営で忙しく、俺にほとんど関心がない。


 つまり今、この屋敷で俺に関わりのある人間は使用人たちだけで——その全員からマイナス評価を受けている。


「……詰んでない?」


 誰もいない廊下に、俺のつぶやきだけが響いた。


 いや、落ち着け。


 前世でも人間関係は地獄だったが、少なくとも「好感度が数字で見える」分、対処のしようがある。見えなかった前世よりはマシだ。……マシなはず。


 そう自分に言い聞かせて、俺は自室に戻った。


 窓辺の椅子に座り、頭を整理する。


 転生した。前世の記憶がある。好感度が数字で見える能力を持っている。現状、周囲の人間全員からマイナス評価。


 だが、これは逆に言えば「チャンス」だ。数字が見えるなら、何をすれば好感度が上がるのか、リアルタイムでフィードバックが得られる。前世の俺が喉から手が出るほど欲しかったものが、今はある。


 ——よし。


 方針は決まった。


 まずは身近な人間から好感度を改善する。使用人たちから信頼を勝ち取る。そこから少しずつ、人間関係を再構築していく。


 前世では「わからない」ことに疲れ果てて死んだ。


 今度は「わかる」力を使って、ちゃんと生きてみせる。


 ……そんなふうに、この時の俺は前向きに考えていた。


 この力の「本当の恐ろしさ」に、まだ気づいていなかった。

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