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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第3章_数字が壊れる日

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第28話 仮面の下の準備

 仮面舞踏会まで、二週間。


 シルヴァーノ城は準備に追われていた。リゼットの衣装の手配、護衛の編成、政治的根回し——ブレンナーが駆けずり回っている。


 俺も動いていた。だが、衣装の準備ではない。


「フィーネ。頼みがある」


「何?」


 訓練場の隅で、フィーネに声をかけた。


「仮面舞踏会での護衛体制だけど——リゼット様の私的護衛に、俺も入れてほしい」


「……レンが? 剣術は下手くそなのに?」


「下手くそなりにできることがある。フィーネが表の護衛で、俺は——情報担当」


「情報?」


「俺の目は、人の顔色が読める。嘘をついてる人間、悪意のある人間、打算で近づいてくる人間——それが、わかる」


 嘘ではない。好感度の数字が見えることは伏せつつ、本質だけを伝えた。


 フィーネは少し考えて——頷いた。


「……わかった。レンの目は信用してる。でも一つ条件」


「何?」


「危なくなったら、すぐにあたしの後ろに下がること。戦うのはあたしの仕事」


「約束する」


 フィーネの好感度、【+65】→【+67】。頼りにされて嬉しいのだろう。


 もう一つ、やるべきことがある。


 リゼットの書斎を訪ねた。


「リゼット様。仮面舞踏会について、一つ確認したいことがあります」


「何ですか」


「ヴィクトール殿下が舞踏会で何を仕掛けてくるか——心当たりはありますか」


 リゼットのペンが一瞬止まった。


「……婚約の公式発表でしょう。私が保留にしている件を、貴族全員の前で既成事実化する」


「それは——断れない状況に持ち込むということですか」


「ええ。王太子が公の場で婚約を宣言すれば、それを否定することは王家への反逆と取られかねません」


 好感度、【-18】→【-15】。政治の話になると信頼が表に出やすい。


「対策は?」


「いくつか考えていますが、どれも決め手に欠けます」


「聞かせてもらえますか」


 リゼットが——わずかに躊躇した。これまでなら「あなたに関係ない」と跳ね返していた場面だ。


 だが。


「……一つ目。婚約発表の前に、私から別の婚約者を立てる」


「別の——」


「形式上の婚約です。王太子の既成事実に対抗するための。ただし、婚約者として立てられる人物のあてがありません。政治的に信頼でき、かつ王家に対抗できる家格を持つ人間は——」


「いないんですか」


「……一人を除いて」


 リゼットの紫の瞳が、一瞬だけ俺に向けられた。


 ——え。


「冗談です。子爵家の次男では家格が足りません」


 好感度、【-15】→【-18】→【-13】。急に下がって急に戻った。


 今の「冗談です」——あれ、本当に冗談だったのか?


 数字の振れ方が不自然だ。本気のことを冗談だと言った時に出る動きだ。


「二つ目は——」


「あ、はい。二つ目」


「舞踏会の場で、シルヴァーノ領が王家の保護なしでも自立できる証拠を示す。経済データを提示し、婚姻なしでも領地経営が成立することを衆目の前で証明する」


「それはいいですね。データなら俺も——」


「ええ。あなたにはデータの準備を頼みます」


 好感度、【-13】→【-10】。


 また少し回復した。仕事の信頼は着実に好感度に反映される。リゼットにとって「能力を認める」ことが信頼の第一歩なのだ。


「三つ目——切り札があります。ただし、これは最後の手段です。リスクが高い」


「何ですか」


「……舞踏会の当日にお話しします」


 リゼットの目に、決意の光が宿っていた。


 何を考えているのかは——数字では読めない。


 仮面舞踏会まで、あと十日。


 俺は領務データの整理に没頭した。シルヴァーノ領の農業生産高、貿易収支、人口動態——全てのデータを整理し、王家の保護なしでも自立可能であることを証明する資料を作り上げた。


 前世の企画書作りが、こんなところで役に立つなんて。


 準備の合間、フィーネと護衛計画を詰め、ブレンナーと動線を確認した。


 全員が——リゼットのために動いている。


 好感度の数字とは関係なく。


 そして——舞踏会の夜が来る。

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