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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第2章 氷の令嬢と命がけの茶会

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24/65

第24話 王太子の求婚

 ヴィクトールの滞在二日目。


 午前中の領務会議に、ヴィクトールがオブザーバーとして参加した。


 リゼットの隣——副官の席に、ヴィクトールが当然のように座った。俺のいつもの席だ。


 俺は末席に回された。ブレンナーが申し訳なさそうな顔をしていたが、仕方がない。相手は王太子だ。


 会議中、ヴィクトールは的確な発言をした。財務、治安、農政——どの分野にも深い見識を持っている。


 ——やりにくい。


 この男が「ただの政略家」なら対処しやすかった。だが実際に有能で、知性がある。リゼットの領地経営に関しても、具体的かつ建設的な意見を述べている。


 リゼットの好感度を見る。今日初めて近くで確認できた。


 【+5】


 変わっていない。ヴィクトールが来ても、俺への好感度は動かない。それは——ヴィクトールの存在が、彼女の「俺への意識」に影響していないということ。良い意味でも悪い意味でも。


 ……しかし、ヴィクトールがリゼットに何を感じているかは見えない。


 会議後。


 ヴィクトールがリゼットに面会を求めた。二人きりの。


 俺は執務室から退室を命じられた。


 廊下で待つ。五分。十分。三十分。


 四十分後、扉が開いた。ヴィクトールが先に出てきた。


 俺を見て、爽やかに微笑んだ。


「レン殿。少し顔色が悪いですよ。夜は早くお休みになってくださいね」


 好感度、【+80】。82から2下がった。昨夜の会話以降、じわじわと下がっている。


 ヴィクトールが去った後、俺は執務室に入った。


 リゼットは窓際に立っていた。夕日を背に、シルエットだけが見える。


「リゼット様——」


「レン」


 振り返った。


 氷の表情。だが——目が、赤い。泣いていた? いや、泣いてはいない。だが、泣きそうになった痕跡がある。


「何を——話されたんですか」


「……ヴィクトール殿下から、正式な求婚を受けました」


 心臓が、一拍跳ねた。


「求婚——」


「シルヴァーノ家とグランツ王家の婚姻。私が王太子妃となれば、領地は王家の保護下に入り、政治的な安定を得られます」


 リゼットの声は事務的だった。まるで報告書を読み上げるように。


「条件は悪くありません。むしろ——合理的です」


「……リゼット様は、どうされるんですか」


「考えます」


 好感度チェック。


 【+5】→【+2】


 下がった。3ポイント。


 俺の質問が——踏み込みすぎたのか。それとも——


「レン。一つ聞きます」


「はい」


「あなたは——なぜ、この城にいるのですか」


 静かな問い。だが——その声には、いつもの冷徹さとは違う何かが滲んでいた。


「最初は社交の勉強だと言いましたね。次に書類の手伝い。領務の参加。……全部、建前でしょう?」


「…………」


「本当の理由を、聞いてもいいですか」


 リゼットの紫の瞳が、俺を見つめている。窓からの夕日が、その瞳を琥珀色に染めている。


 本当の理由。


 好感度のため。HPのため。生き延びるため。


 ——あの日はそうだった。最初は。


 でも今は?


「……リゼット様」


「はい」


「最初に来た理由は——正直に言えば、自分のためでした。この城に来れば、いろいろと都合がよかったから」


 嘘は言わない。今ここで嘘をついたら——たぶん、彼女に二度と近づけない。


「でも——今ここにいる理由は、違います」


「……何ですか」


「あなたが一人で全部背負っているのが——放っておけないからです」


 沈黙。


 リゼットの表情は微動だにしない。


 だが——好感度が動いた。


 【+2】→【+5】→【+8】→【+5】


 激しく揺れて、元に戻った。


 ——揺れた。


 彼女の心が、何かに反応した。でも、表に出すことを許さなかった。


「……そうですか」


 リゼットは窓に向き直った。


「お気持ちは——嬉しく思います。ですが、この問題はあなたに関係のないことです」


「関係あります」


「……なぜ」


「リゼット様が——」


 次の言葉を飲み込んだ。


 「好きだから」とは——言えなかった。


 言えるはずがない。子爵家の次男が公爵令嬢に。しかも王太子からの求婚を受けた直後に。


「——大事な人だから」


 精一杯の言葉だった。


 リゼットの背中が、わずかに震えた。


 好感度——


 【+5】→【+10】


 上がった。5ポイント。小さな上昇だが——「大事な人」という言葉に、彼女の心が応えた。


 だが——次の瞬間。


「レン。今日はお戻りください」


 氷の声。


「明日の朝までに、考えをまとめます」


「リゼット様——」


「お願いします」


 その「お願い」の声が——少しだけ、湿っていた。


 俺は執務室を出た。


 扉を閉める直前、振り返った。


 リゼットは窓際で、一人で——ハンカチを握りしめていた。


 あの日の茶会で、俺が渡したハンカチ。まだ返していなかったのではなく——持っていたのだ。


 ……「忘れなさい」って、言ったじゃないか。


 忘れてないのは——あなたの方だ。

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