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異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第2章 氷の令嬢と命がけの茶会

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第22話 凍った感情の名前

 セラフィーナの滞在最終日。


 彼女はリゼットとの会談を終え、城を去る準備をしていた。


 俺は——迷っていた。


 セラフィーナと話すべきだろうか。好感度が見えない相手に、何を言えばいい。


 だが——リゼットの顔が浮かんだ。友人のことを心配する、あの微かな痛みの表情。


 正門前。


 銀髪の令嬢は馬車の前に立ち、リゼットと別れの挨拶を交わしていた。


「お世話になりました、リゼット様。次は——」


「王都の秋の舞踏会で」


「ええ。お待ちしています」


 二人の会話は淡々としている。だが——リゼットの手が、わずかに前に出かけて、止まった。友人の手を取ろうとして——やめたように見えた。


 セラフィーナが馬車に乗り込もうとした時、俺は声をかけた。


「セラフィーナ様」


 銀髪が揺れて、蒼い瞳がこちらを向いた。


「あら、レン様。お見送りありがとうございます」


「あの——少しだけ」


 リゼットが遠目にこちらを見ていたが、何も言わなかった。


 俺はセラフィーナの前に立った。頭上の表示、相変わらず【???】。


「セラフィーナ様。一つだけ聞きたいことがあるんですが」


「何でしょう」


「初めてお会いしたとき——『何か見えますか』とおっしゃいましたよね。あれは、どういう意味だったんですか」


 セラフィーナの微笑みが、一瞬——ほんの一瞬だけ、揺れた。


「……あなたの瞳が、少し変わっているように見えたからです。銀色の光が滲んでいた。それだけのことですよ」


 嘘だ。


 嘘だとわかる。好感度の数字が見えないから表情で判断するしかないが——彼女の瞳の奥に、一瞬だけ「本音」のようなものが見えた。


「セラフィーナ様。俺は——人の気持ちを理解するのがすごく苦手な人間です」


「……はい?」


「前世——子供の頃から。人の言葉の裏が読めなくて、いつも的外れなことをして、嫌われてばかりでした」


 セラフィーナは微笑んだまま——だが、首を傾げた。


「だから——人の気持ちが見えたらいいのに、って思ったことがあるんです。数字で。はっきりと。そうすれば間違えなくて済むのにって」


 セラフィーナの微笑みが、少しだけ——固くなった。


「でも最近わかったんです。仮に見えたとしても——数字だけじゃ、人の心はわからない。数字が嘘をつくこともあるし、数字に出ないものもある」


 沈黙。


 セラフィーナの蒼い瞳が、微かに揺れた。微笑みはまだ貼りついている。だが、その下にある何かが——ほんの一瞬だけ、表面に近づいた。


「……面白い方ですね」


「そうですか?」


「ええ。——ただの子爵家の次男ではないみたいです。リゼット様が傍に置く理由が、わかりました」


 セラフィーナが馬車のステップに足をかけた。


「レン様。一つだけ、お教えしましょう」


「はい」


「リゼット様を大切になさってください。あの方には——味方が必要です。今後、特に」


「今後、特に——?」


「嵐が来ます。王都から」


 それだけ言って、セラフィーナは馬車に乗り込んだ。扉が閉まる寸前——


 彼女が、初めて微笑み以外の表情を見せた。


 ——寂しそうな、目。


 一瞬で消えた。扉が閉まり、馬車が走り出す。


 俺は正門の前に立ったまま、遠ざかる馬車を見送った。好感度の【???】は最後まで変わらなかった。


 だが——あの最後の一瞬の表情。あれは「仮面」ではなかった。


 セラフィーナ・ヴェール。


 感情を凍結された女。常に微笑みを浮かべる女。好感度がシステムに読み取れない女。


 ——でも、寂しいと思う心は、まだ残っている。


 「嵐が来る。王都から」。


 その言葉の意味は、数日後に判明する。


 リゼットが隣に来た。いつの間にか。


「……何を話したのですか」


「リゼット様を大切にしろと言われました」


「…………」


 リゼットの好感度が揺れた。【+5】→【+3】→【+7】→【+5】。激しく行って戻る。


 嬉しいのか恥ずかしいのか怒っているのかわからない。たぶん全部だ。


「余計なことを言う人です、あの人は」


「でも——リゼット様のことを心配してるんだと思います」


「……知っています」


 リゼットはそれだけ言って、城に戻った。


 その背中は——少しだけ、柔らかかった。

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