第21話 銀の薔薇は何も映さない
セラフィーナの滞在が三日目に入った。
彼女はリゼットと一日一回、午後の茶の時間に会談している。内容は明かされないが、ブレンナーの表情が日に日に暗くなっているのを見ると、政治的に難しい話題のようだ。
俺はセラフィーナと直接接する機会がほとんどなかった。彼女はリゼットとの会談以外の時間、城の庭園を散歩したり、自室にこもっていたりする。
だが——偶然、廊下で何度かすれ違った。
そのたびに確認する。頭上の表示、【???】。変わらない。
四日目の朝。
東の庭園で猫に餌をやっていると、セラフィーナが現れた。
「おはようございます、レン様」
「あ、おはようございます」
銀髪が朝日に輝いている。薄い微笑みを浮かべて——完璧に美しく、完璧に怖い。
「猫がお好きなのですね」
「えっと、はい。ミスティとショコラっていうんです」
「かわいい名前。……その名前を付けたのは、リゼット様ですか?」
「——なんでわかるんですか」
「リゼット様は猫がお好きですから。でも人前では触りたがらない。だから——誰かが代わりに猫を飼って、名前を付ける役はリゼット様に譲った。そうでしょう?」
鳥肌が立った。
彼女は——俺と会って数日しか経っていないのに、猫作戦の核心を正確に見抜いている。
「大変ですね」
「え?」
「リゼット様に近づくのは、大変でしょう。あの方は——愛されることを拒む人ですから」
セラフィーナの蒼い瞳が、俺の目をまっすぐに見つめた。
頭上の【???】が、微かに——いや、変わっていない。ずっと疑問符のままだ。
「セラフィーナ様は……リゼット様のことを、よくご存知なんですね」
「子供の頃から多少は。私の家とシルヴァーノ家は古い付き合いですから。……以前のリゼット様は、もう少し笑う方でしたよ」
——笑う。あのリゼットが。
「お父上が亡くなってから、変わりました。笑わなくなった。壁を作るようになった。……仕方のないことではありますが」
セラフィーナは言葉を切り、ミスティを見下ろした。ミスティがセラフィーナの足元に近づき——
ふいに、立ち止まった。
ミスティの毛が逆立った。
猫がセラフィーナを見上げ——「シャーッ」と威嚇した。
猫が、威嚇した。人懐っこいミスティが。
セラフィーナは微笑みを崩さなかった。
「……猫には、わかるようですね」
「え?」
「私のような人間は、動物に好かれません」
そう言って、セラフィーナは庭園から去っていった。
——何だ、今のは。
ミスティが俺の膝に逃げてきて、まだ震えている。
猫が威嚇するほどの何かが——あの人の中にある。感情が凍結されている、というだけでは説明がつかない。
もっと根深い何かが。
その日の午後。
リゼットの執務室で仕事をしていると、リゼットが珍しく俺に質問してきた。
「セラフィーナと話しましたか」
「今朝、庭園で少しだけ」
「……何か感じましたか」
リゼットの声が、いつもより慎重だ。好感度は【+5】で安定しているが、質問の裏に何かある。
「正直に言うと——怖いです」
「……怖い」
「はい。理由はうまく説明できないんですが。笑顔なのに——何かが足りない気がして」
リゼットは長い間、黙っていた。
そして——
「セラフィーナは、私の数少ない『友人』でした。子供の頃の」
友人——リゼットが、その言葉を使うのを初めて聞いた。
「ですが——三年前、彼女の母親が亡くなった後、変わりました。笑うようになりました」
「笑うようになった——? 普通は逆では」
「ええ。それまでは泣いたり怒ったり、感情豊かな子でした。母の死後——常に笑顔を浮かべるようになった。どんな時も。どんな場面でも。……あの笑顔は、泣くことを忘れた人間の顔です」
リゼットの声に、かすかな痛みが混じっていた。
好感度が微かに動いた。【+5】→【+7】。
——俺に弱みを見せようとしている? いや、違う。リゼットはセラフィーナのことを心配しているのだ。友人として。そしてその心配を——初めて、俺に打ち明けた。
「リゼット様。セラフィーナ様のことが、心配なんですね」
「……友人として当然のことです」
友人。
リゼットは「友人」という言葉を二度使った。
この人は——壁を作ると言いながら、昔の友人のことはまだ気にかけている。完全な氷ではない。
「もし俺にできることがあれば——」
「ありません。これは私とセラフィーナの問題です」
壁が戻った。好感度、【+7】→【+5】。元に戻った。
でも——「友人」の話を俺にしてくれたこと。それ自体が、小さな信頼の証だと思う。
セラフィーナの滞在は——あと三日。
彼女が何を目的にこの城に来たのか。好感度「???」の正体は何なのか。
まだ何もわからない。
だが一つだけ確かなことがある。
セラフィーナは——助けが必要な人だ。
笑顔の仮面のさらに奥で、叫んでいる人だ。
リゼットはそれを知っている。だから心配している。
俺も——もしかしたら、何かできるかもしれない。
好感度が見えない相手に、何ができるかはわからないが。




