表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら、頭の上に「好感度ゲージ」が見える体質だった~ヒロインの好感度が下がるたびに俺の体力が減るので、命がけでデートしている~  作者: ハイさん
第2章 氷の令嬢と命がけの茶会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/65

第19話 銀水祭の前夜

 シルヴァーノ領の年に一度の祭り——「銀水祭ぎんすいさい」が近づいていた。


 シルヴァーノ湖に灯篭を流し、豊穣と平和を祈る伝統行事。城下町には屋台が並び、領民たちが集う、この地域最大のイベントだ。


 準備は一ヶ月前から始まっていたが、俺が関わることになったのは、リゼットがポツリとこぼした一言がきっかけだった。


「今年の銀水祭の灯篭の発注量について、ブレンナーに確認しておいてください」


「わかりました。去年は何基くらいだったんですか?」


「三百基です。例年通りで構いません」


「三百……領民の人口からすると、かなり少なくないですか?」


 リゼットの手が止まった。


「銀水祭は縮小傾向にあります。先代が亡くなってからは……領民の士気も以前ほどではなく」


 声に、かすかな影が落ちた。


 好感度は特に動いていない。【-8】。仕事の話題だからだ。だが——あの声のトーンは、数字には現れない寂しさだった。


 少し考えて、俺は提案した。


「灯篭の数を増やすのはどうですか。五百基。そして——リゼット様が灯篭を流す開会式に立たれるのは」


「私が?」


「はい。先代公爵は毎年、自ら灯篭を浮かべていたと聞きました。リゼット様がそれをされれば——領民への恩義と意思表示になりますし……」


「——公爵が祭りに直接参加するのは、政治的なリスクがあります。暗殺の可能性も——」


「フィーネの部隊が護衛すれば問題ないのでは」


 リゼットは沈黙した。長い沈黙の後——


「……検討します」


 好感度、【-8】→【-5】。


 「検討します」はリゼット語で「やりたいけど、まだ決断できない」だ。最近、彼女の翻訳ができるようになってきた。


 その日の夜。


 フィーネが訓練場の帰りに俺をつかまえた。


「ねぇレン、聞いた!? リゼット様が銀水祭の開会式に出るかもしれないんだって!」


「うん。俺が提案した」


「マジで!? すっごいじゃん! あの人が領民の前に出るの、お父上のお葬式以来だよ!?」


 フィーネは興奮して俺の肩をバシバシ叩いた。痛い。騎士見習いの力を考慮してほしい。


「護衛はあたしが全力でやるから! 任せて!」


「頼りにしてるよ」


「えへへ」


 フィーネの好感度、【+65】→【+67】。嬉しそうだ。リゼットのためになることを俺がしたことが、純粋に嬉しいのだ。


 ——この子は、本当に強い。


 好きな人が、自分ではなく別の相手に向かっていることを知っていて——それでも応援できる強さ。


 俺にはとても真似できない。


 銀水祭当日。


 城下町は活気に溢れていた。色とりどりの提灯が通りを飾り、屋台の煙が空に立ち上っている。金麦パンの焼ける甘い匂い、湖の魚を焼く香ばしい匂い。


 俺は祭りの運営を手伝いながら、リゼットの到着を待っていた。


 日が暮れた頃。


 湖畔の特設舞台に、リゼットが姿を現した。


 白と紺の正装。いつもの氷の表情。だが——微かに、緊張しているのがわかった。指先がかすかに握りしめられている。


 好感度チェック——


 おや。見えない。リゼットとの距離が離れすぎているため、頭上の数字が判読できない。


 まあ、いい。


 リゼットが灯篭に火を灯し、湖面にそっと浮かべた。


 橙色の光がゆらゆらと揺れながら、湖の闇に溶けていく。


 周囲の領民たちが、次々と灯篭を流し始めた。五百基の灯篭が湖面を埋め尽くし——夜の湖が、星空のように輝いた。


 歓声が上がった。


「きれい……」


「公爵様が直接……」


「先代様を思い出すわ……」


 領民の声が、リゼットにも届いていた。


 彼女は——わずかに、唇を噛んだ。泣くのを堪えているように。


 だが、泣かなかった。公爵として、凛と立ち続けた。


 俺は遠くから、その横顔を見つめていた。


 灯篭の光に照らされたプラチナブロンドの髪。夜の湖を背景にした、静かな横顔。


 ——綺麗だ。


 それだけが頭に浮かんだ。好感度の数字でもなく、HP上限の計算でもなく。


 ただ——綺麗だと、思った。


 祭りが終わった後。


 城への帰り道で、リゼットが俺の横を歩いていた。フィーネと護衛兵が少し後ろを固めている。


 沈黙。


 数分歩いた後——リゼットが小さく言った。


「……灯篭、五百基は多すぎたかもしれません。準備の負担を考えれば」


「そうですか? でも、みんな喜んでましたよ」


「ええ。私も——とても美しいと思いました。だから、来年は——七百にしましょう」


 俺は笑った。リゼットの顔は無表情のまま——だが、横目で見ると、唇の端がほんの少しだけ上がっていた。


 近づいた今、頭上の好感度が見えた。


 【+5】


 -5から+5に。10ポイント回復して、茶会前の水準に戻った。


「……レン」


「はい」


「提案してくれて——」


 そこで言葉を飲み込んだ。


 いつもなら「忘れなさい」が来る場面だ。


 だが今夜は——


「——ありがとう」


 ありがとう。


 二度目の。


 今度は——ちゃんと聞こえた。


 好感度は変わらなかった。でも——あの声は、+5なんかじゃ測れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ