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第八話「最強とは」


 最悪の状況だが…………一体、これは何の時間なのだろう。


 ライオットは懐から財布を取り出せば、また戻したり、何をすればいいのかわからないようだった。


「ッ、はは。いやすみませんっす。子供からありがとうなんて言われなかったもんで、」


 この人も『普通』みたいに照れ隠しで頭を掻く。気が付けば、こんなことを聞いていた僕だ。


「あ、ああああありがとうって…………その、誰でもいうでしょう?」

「いや、あははは、そうでもないんす」

「え。なんで?」

「それは。そっすね。言われたことのない質問っす。というか思ったより冷静っすね」


 しかし聞かれた経験がないと自分でいっておきながら、答えは秒を開けることなく出てきた。いっておくがまったく冷静ではない。

 生死の境地に立たされた枯れ木の精神というやつだ。勘違いしないで頂きたい。


「この世には二つの種類の人間がいるっす。普通に戻れる奴と普通に戻れない奴。

  俺は、前者になりたかったっすけど。まあ正直、君のことも追ってきたのも、君の為じゃないっす。わくわくしてたのもあるし」


「…………」


「俺の為なんすよ。俺が、せめてこうあればいいなと。まだ普通だった頃につけた、自分との約束ごとっす…………俺だけのポリシーっす」


 透明な殺意から生まれたような男。

 

 それが変な理由で上の空になっている。


 なぜなのだろう。


 わからない。さきほどの冒険者という種類の層が複雑だったように、きっとライオットにも僕の知らない要素で生きてきているからか。


 ……………………うむ、今更ながら当たり前のことだった。


 決して頭を苛む霧が晴れることはない。


 だが心の壁が金高く飛び散るような感じ。


 意識を渦巻いて裂くような矛盾に汗が顔中に出てくるも、大きく口を開けてしまう。

 

「じゃあ少しだけお話しましょう」


 正直、もうどうにでもなれーなんて気持ちがない訳でもない。

 だが熱病じみた興奮は抑えられない。もうこのまま行ってしまえ。いや、取りこぼさないように記憶に残せ。冷静になれば何が起きてるんだか。この胸の高鳴りは一体どこまで響きわたるのか。

 正直、ただ僕は最強になれればよかった。

 それで世界を探求できればいいと。

 危険があふれるこの街に残らないという選択肢は、正しいもののはずだ。一刻もはやく、ライオットからは離れるべきである。

 相手さんは、僕のことをまだ敵だと認識していないようだし。

 

「…………わお、それだけっすか? お金とかは? 頼れる人を紹介してほしいなら、するっすけど」


 でも。


 眉を上げて目を丸くしているこの人を、見なかったことにするのか。

 ありえないことだと蓋をするのか。

 ふと後ろに下がっていた足が止まる。

 こんな、こんなに気になると叫ぶこの胸の鼓動を放っておけば、後悔するに決まっているではないか。だがなんてひどい選択肢だ。前世だったらコントローラーをぶん投げていたところだ。

 

「僕は、貴方と話したい」

 

 それはここまで逃げてきた自分が聞けば、意味不明だと匙を投げる発言である。


 だが胸のワクワクが打ち勝ってしまった。


 知りたいと思ってしまった。


 ライオットというこの男が、どんな人間なのだろうか。原作を通しても理解できなかった部分がどれくらい、彼という人間を形成しているのだろうか。


 だって。


 僕はこの世界で生きている。これを逃せば、『二度と知り得ないこと』が増えるだろう。そんな理屈も立てない言い訳で、重たい足を前に動かすのだ。


))))))))))))))))))


 ライオットの懐にしまった懐中電灯で、5分。

 

 それを制限時間として、僕とライオットは同じ肩を並べて歩いていた。僕の路線に合わせて、ライオットの方が近づいてくるのだ。

 良い言い方なら弟について歩くお兄さん。

 悪い言い方では……………………こういう人を距離感がつかめない人というのだろうか。

 

「まず、びっくりさせて申し訳ないっす。俺の名前はライオットと言うっす」


「僕の方こそすみません。鎖で攻撃しちゃって…………」


「ははッ、いやあビックリしたっすよ。すごいんすね、君。久々に負傷したっす」


 久々だと…………?

 

 こんな危険な世界で久々なんて、いやもうツッコムのはやめよう。


 ライオットの当たり前と僕の当たり前を比べれば、そんな差など富士山みたいに降り積もるに決まっている。

 

 で、お互いに挨拶を済ませながら噴水広場で腰を下ろした。

 

 相変わらず街の人目はライオットの相貌に夢中だ。やや集中力がそがれてしまう。

 

「僕に名前はないのですけど、冒険者の人達からは魔鬼と呼ばれています」


「魔鬼。なるほど。いい具合に安直っすね」


 それで、とライオットは王子様のような横顔を向けてくる。


「失礼っすけど君は一体なんなんすか?」


「…………哲学ですか?」


「それは別にいいっす。そんな身なりなのに、正しい言葉を扱えること。なにより、君の体は(まさ)に人間の限界を超えているっす」


「ははは、そんな大したものじゃないです。単なる捨て子ですよ。物心ついた頃から一人でしたし」


 ………………………………名もない悪役。


 その正体は知らないことはない。

 

 ただ、正式な名前がないだけだ。


 改めてそう気づかされて、自分の目標との違和感に出すべき言葉がなかった。


 正しく言えばわからないようだった。


「…………いや、言いたくないならいいっす」


 だがやはり、この世界で下手な嘘は通用しないようである。

  

 それでも僕は嘘をついてしまうんだろうという予感と、それが嘘だと判っていても気にしていないライオットだ。

 要は、僕と彼が見ている観点は違うところにあるのだ。


「ただその体は特別っす。魔力もなしに素の力は凄まじい。あの鎖ももっとうまく扱えば、Aランク相当の魔物とも互角にやりあえるっす。これはすごいことなんすよ?」


「はあ………………」


 あのライオットが自分のことを褒めているのだ。

 

 そんなことで浮足立たないが、頬がこそばゆいのは事実だった。もにゅもにゅと口を動かしてしまう。


「でも、今のままならきっと過ごしにくいんじゃないっすか?」


 だが、その一言でつい瞬きをしてしまう。


 現在においてそれは問題ではあるが、自分の力でやっていけると心のどこかで安堵していたのだ。


「そこは、毎日頑張れば…………だって僕は一人でもやっていけますし」


「…………それはかなりきついっすよ?」


「………………」

 

 ……………………そんな声についライオットと目線があう。


 僕からしてみれば他人に頼り切りなんてナンセンスだ。

 

 こんな体の詳細を教えればきっと良くないことが起きるし、もし信頼できる人がいても返せるものなんてない。

 

 けれども、ライオットからしてみればその方法ではかなり難易度が高いらしい。


「でもきっと…………だいじょうぶです」

「…………」


 このまま体の制御法を知らず、生活も疎かにすれば最強になんてなれるのだろうか。


 否である。


 きっと、これはライオットという未知が示した現実だろう。それか彼が僕の体に興味をもっていて、ただ近くで研究したいだけか。

 

「…………」

「…………」


 後ろにかかる日光がやや冷える。


 噴水が大きく勢いづいたのだろうか、自分の背後に違和感が生まれて疑問が広がってしまった。


 …………議題はこのまま王都に向かうのは最善なのか。


 お金・剣と魔法の師匠とそれらを最速で効率よく回収し、最終的な目標であるストーリーのハッピーエンドを成し遂げる事。

 最強になるには、必要不可欠な要素が多すぎる。

 またなろうとしてなれるのならば、きっと僕以外の誰かがなっている。この世界には多くの武芸者がおり、持っている知識と経験なんて僕の比ではないのだ。


 …………ただ。


 これまでのことを思い返すに、僕はそんなに頭が良くない。


 あの青髪の男。ノールという男。受付嬢のお姉さん。偶然出会えたライオット。

 

 みんな、僕なんかじゃ到底全容を見ることはできなかった。


 知らないことばかりだ。なにより僕は今は幼児なのだ。


 どこの世界も人間は複雑で、人間によって紡がれる世界は、それ以上に複雑なのだ。


 このまま一人で頑張って、原作知識だけで最強になれるのだろうか?


 たしかに僕は隠しダンジョンや誰も知らない秘密を知っている。この体だって、規格外の主人公たちを越えられるスペックを秘めている。


 だが。


 それだけだ。僕には、徹底的に足りないものがある。


「…………」

「…………」


 冒険者ギルドに行けてよかったと思う。


 そう思うも、やはり自分は軽い人間だとも思う。

 

 一人でやれば、確実につまずく箇所が数えきれないほどあっても、うまくいくこともあっただろうし。


 だが簡単にいうと、僕は徹底的にこの世界を舐めていた。


 ならば誰かがそれを指導してくれるのなら、願ってもないことである。


 全ては最強になるため。力だけではそこに辿り着けない。


 ただ忘れてはならないのはライオットは敵とみなした人物は、絶対に殺すこと。


 僕と彼の実力差は明白だ。


 もし原作で明かされていなかった地雷があるのなら、ライオットと関わるのはこれっきりにするべきだ。

 …………懐中時計からは”チクタク‘‘と針の音がする。

 もうこれ以上は、やめておけと誰かに囁かれている気がした。勢いよく上がっていた噴水が、元の勢いに戻っていく。


「もしっすけど。もし、君がよかったら」


「…………」


「体の力を制御する術を、俺と一緒に考えさせてほしいっす。やっぱり話すだけじゃ恩を返したことになんないっすよ」


「…………僕がいいって言ったなら終わりなんじゃないですか?」


「いいや。だって、君が困ってるっす」


 決してぶれない言葉に返す言葉を忘れてしまった。

 

 こんなこと予想もしなかった。


 あのライオットが、真剣かどうかはさておき僕に協力してくれる? 原作で話すことはできても、挨拶をするくらいの仲にしか踏み込めなかった彼が?


 いいのだろうか。いや、ここで決めるのは何を大切にするかだろう。


 この街に残るのはリスクが高い。あの盗賊団だっている。これに踏み出せば後戻りはできないだろう。だが、何が起こっても退くわけにはいかなくないのも事実だ。

 

「なら僕の、力の制御について一緒に考えてくれませんか」


 今ここでするべき行動は逃走ではない。


 …………手の平をぎゅっと握り締めて、汗の入り込んだ瞳で彼を強く凝視するのだ。


「それと、貴方からも少しだけ学ばせて頂きたい。初対面でいう言葉ではないかもしれませんが」


 前世でも身体能力が全てでなかったように。


 世界は力だけで回るのではない。


 力とは生きる上での前提条件、その先にある最強に至るには『人』についても知らなければならない。


「…………了解っす。でもなんというか、君は変わってるっすね」


 ライオットはふと上を向いて、後ろに体重を任せる。


「俺が今まで恩を返してきた人間は、大体お金を要求してきたっす。それに、君はそんななりじゃないっすか」

「お…………怒ってますか?」


 もう地雷を踏んでしまっただろうか。だがこんな日常会話にもおくしていては、学べることなんてたかが知れている気が…………。


「え、えと」

「あはははははは、ないないっす。あとこの懐中時計はあげるっす。俺との関わりを絶ちたいと思ったら、捨ててればいっすよ」


 するとカチッと懐中時計を取り出せば、手で渡してくるのだ。


 怪力の感触としては発泡スチロール同然の軽さだが、無下に扱う気には到底なれない。


「人の言動っていうのは、案外心にも影響してくるもんす。例えば嫌なことを忘れたいと思ったら、それを紙にかいてビリビリに破くとか。美味いスイーツを食べるとか」


 ………………、ついには大真面目でそんなことを言うライオットである。


 なんというか、ライオットが僕に気を使う未来があったとは。


 だがまるで自分に自信がない人みたいだ。

 

 本当は魔女の使徒に属する自分と、僕が関係をもつことを危惧しているのか。はたまた、僕の予想もつかないヘンテコな理由なのか。

 どちらにせよ、気に入らないといった感情は今世で始めてかもしれない。


「それでは。よろしくお願いします」


 といっても、それは言葉でなんて証明できない。

 

 僕よりすごい部分が今数えても三つもあるのだ、ライオットという人間は。


 きっとこれから関わりを持てば、まだまだ彼について知ることができるだろう。


 ならば彼には自信をもって貰わねばならない。


 でないと、物事を取りこぼさないように進んでいる僕が馬鹿みたいではないか。


「それじゃ。まずは服を整えるっす」

「服?」

「無料で服を貰える場所を知ってるんすよ、話を合わせれば訓練もしてくれるっすよ? 今からでも、君の力を制御するうえでピッタリなとこっす」


 …………………協力をしてくれ、と頼んだ以上は断る選択肢はない。

 

 僕は立ち上がると、浅く深呼吸をした。


「行きましょう!!」

「了解っす!!」


 ただ、やはりというかなんというか。ライオットは魔女の使徒である。常識を期待する方が間違っていたとしか言いようがなかった。


 街の中央にある支部の広い中庭、そこで大人の騎士四人に剣を向けられた時点で察したのだ。


 ……………あ、これ駄目なパターンだ。


 というか相手さんも『え?いいの?子供なんだけど、うっかり殺さない?』なんてライオットと鎧を着たお爺ちゃんに視線を向けている。

 だが姿勢だけは崩さず、僕が奇襲をかけても対応してきそうな気迫だ。


 こちらとて、何の説明もなしに訓練兵用の制服を着させられたのである。


 純白を基準としていても、ところどころ金の装飾がついた制服だ。着心地は抜群にいいし、体に圧がかかっているような感じもない。

 そもそもこれは王家直属の騎士部隊に配給される制服である。


 これを持っているということは、目の前にいるのはベテランなのではないだろうか。


 それに僕の持っている剣は木製なのに対して、向こうは鉄の刃だ。さっそく僕を殺しにかかってきてないだろうか。

 後悔はしてないのだが、説明くらいはしてほしいものである。


「あ、あのーー!! 死んじゃうと思うんですけどーーーー!!!」


 僕は中庭の端で体操座りをするライオットに叫んだ後、一言一句聞き漏らさないように耳を澄ました。


「大丈夫っすよー! がんばっスー!」

「それだけですかー!?」

「はいっす!!」


 ……………もしかして、この訓練兵用の服を二枚ほど破った罰だろうか。


 着替える際の力加減が判らなかったのだ。

 

 思ったよりも、ライオットといる、という状況に肩が力んでいたらしい。


 だがもっとこう、ないのだろうか。


 僕の人生において二番目にピンチな状況だ。この世界では修行で命を落とす場合だってあるし、なにしろ相手は僕より対人経験を積みに積んでいる。

 

 するとライオットの隣で紅茶をすする騎士が、野太い声で説明してくれるのだ。


「儂がそやつらに命令したのは、お主の命を狙え、ぐらいですぞ! 安心してください! 殺せと断言したわけではないのですから!」

「いや同じ意味でしょう!!? 語彙の引き出しスッカスカかジジイ!!」

「ぶははははははは!! いやあ元気のいい小僧ですな! ライオット殿がいらっしゃった時は何事かと思いましたが、こりゃいけますな!!」


 あーもう滅茶苦茶だ。


「それでは、始め!!!」

「え」

「「「「ッ…………」」」」


 嘘でしょ? 本当に事前説明ないの? いやでも剣士たちは陣形で僕を囲んできてるし、これって数秒後には死角を取られる奴では!?

 とにかく鎖を地面から出そうとして「鎖は一本出すのも禁止っすよー!! これは君の力を制御する訓練っす!!」なんてことを遅れて申してくるのだ、あのオールバックは。


「ああ、でも君から攻撃するのはありっすよー、でも殺しちゃうっすね。多分」

「ッな…………!!!」

「彼らも君を殺す気満々っすから。気にしなくていいんじゃないっすか? でも攻撃をかわし続けるのは無理っすねぇ」

 

 ああ、悪魔的だ。そういうことか。つまりライオットはこう言っているわけである。


 ”彼らの攻撃をかいくぐりながら、力の制御を学べ”。


 だが会話に集中しすぎたのか、僕の周囲では四人の剣士が構えを取っている。それに僕らの会話は筒抜け、下手に攻撃してくることは期待できないのだ。


 ……………………落ち着け。


 こうなった以上は乗り切らないとマジで死ぬ。

 

 相手はちゃんと僕を殺すつもりで来ているんだ。

 まずは初動を見ろ。

 剣を振るうには踏み込みが先にやってくる。


 だがここは魔法の世界。


 一番近い兵士でも約4メートル、この距離を一息で詰めることだってできるのだ。


 土が足さばきで削れる音、草木の揺れ、動作によって鎧が鳴らす重たい音で予測しろ。


 使えるものはなんでも使わなくては死ぬ。


 その一瞬。


 自分を中心に火花が爆ぜた。


 手順は簡単だ。左から迫る鉄の剣を木剣で弾き返したまま、体を宙に翻して背後と正面の一撃をかち合わせる。

 まるで逃げ道のない狭い通路で天井に張り付いているよう。


 無論、僕が次手につなげるには足場がいる。


 だが人なんか足場にできない。最悪、選手生命を奪ってしまうかもしれないからだ。そんなことに悩む暇などなく、遅れて突き出された右側面からの剣である。


 思わず凝視する。

 

 一瞬のことなのに数秒間ほど時間が伸びているよう。

 僕は右脇から残った左手を伸ばすと、そのまま鉄の剣をデコピンで弾き返した。ともあれ一手ほどしびれを与える程度。

 なにより、こんな反則的な状況下において意識は冴え渡る。


「…………!!!」

 

 それが慣れない。思わず息が詰まる。

 数秒間の全力疾走。

 だが、恐らくこれだ。この感覚を僕は常時保たなければならない。しかし、剣の檻から着地と共に抜け出すも矢継ぎ早に剣士が突っ込んでくる。


 あと今気づいたのだが、僕の持っていた木の剣は消し飛んでいた。


 勝ち目なんて見えるはずもない。先ほどだって必死で抜け出せたのだ。今僕にできることは、せめて囲まれないように走り続けることだけ。

 だが、いずれ見切られる。

 そこで今、一番僕から注意が逸れているであろう剣士に飛び掛かるのだ。


「ドワッ…………!!?」


 それでも、不意に視界の上下が入れ替わるのだ。

 脚払いされたのだ。

 すかさず鎖の『かちゃり』という音にびくっと肩が跳ねる。


 見えないがもう剣は振るわれている。

 

 いや、そもそも体制を整えなくては話にならない。僕は地面に手をついた後、思いっきり地面に力を込めて中庭の端に避難した。

 

「はあ、はあ、はあ!! ッ、はあ…………」


 甘えた選択肢をすれば、行動を読まれて詰む。


 それに二度目の手は通じないだろう。


 先ほどの騎士はぎゅむぎゅむと剣を握りなおしており、残り三人の騎士は足を止めることなく全力疾走してきている。

 肺が燃えるように熱い。息が止まっているのか、ちゃんと吸えていないのか。


 思考が淀む。


 だがわかっている。生半可な努力では最強になぞ、成れないのだ。


「いきなりですがお願いします!!!」


 唾が口から爆ぜた後、僕は折れた木の剣を指先に挟む。

 …………しまった。

 気張りすぎて唾が飛んでしまった。恥ずかしがるも、片手で口を拭うことしかできない僕である。


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