第四話「冒険は明日のパンツと小銭があればなんとかなる」
『冒険者』とは旅プくを始める上で欠かせない要素である。
テーマが旅である本作にとって、冒険という単語は何かしら関わることが多い。
しかし世界とはかくも残酷である。
転生してからヒロインの一人にも出会ったことのない僕が言えることはそれだけだ。
「…………改めて見ると、大きいな」
冒険者ギルドは大陸において王族に匹敵する財を保有していた。
目の前には豪華に遜色された大きな屋敷だ。
何かしらの争いごとがあったのか、扉は勝手にキイキイと開いたりしまったりしている。
冒険者として必要なのは単純明快。
依頼をこなせる能力だ。それ以外はとくに要らない。
乱暴者だろうが、貴族だろうが、魔女の使徒だろうが、ギルド側は身分なんて興味もないし調べない。
その裏付けとして様々な国の実力者、いわゆるプロから始まり剣術駆け出しの戦士までいる。
…………つい足に力を入れたら床を粉砕してしまいそうだ。
肉やブドウ酒の匂いが鼻をくすぶる中、一歩一歩と灯りに照らされたギルド内に入っていく。
「「「……………………」」」
だがギルド内に入った瞬間、空気が一瞬にして変わった。
喫茶店のようなガヤガヤから、つい目が泳いでしまうほどの静寂である。
…………まあ、何が言いたいのかというと求められるのはギブアンドテイクだ。
どのような街でも冒険者ギルドの設備は規模が大きく、他国のエリートや路銀稼ぎの少年まで冒険者になる。
ギルドは信頼性のある情報と賞金を提供し、冒険者は依頼をこなしていく。
何度もいうが必要なのは力だ。
故にこんな身なりをした無力そうな幼児はお呼びではないのだ。
「………………おいおい餓鬼じゃねえか」
「すげえボロ布だな、ありゃ奴隷か?」
「足つきだっておぼついてねえぞ」
「教会なんてここないもんな…………おい。誰か追い出せよ。ファルシュがくんぞ」
「やだね。面倒ごとは避けるに限る」
幼児サイズだからだろうか、周りの人たちは巨人のように迫力がある。
故に歩く力もだんだん強くなってきた。
………………たしかに、魔力で身体強度を底上げする冒険者もいるのだ。
つい体が強く当たろうとも平気な気がしてきた。少々、僕の身体スペックと比べて冒険者たちを舐めていたのだ。
なんて浅はか。
彼らは僕より死線を潜り抜け、また今日まで生きてきた猛者なのだ。昨日今日で身体能力を底上げしようと、彼らをどうこうする術はない。
「…………………………………………」
ただ僕は危害を加えてこなければ何を向けられてもいいのだ。
冒険者たちの値踏んだ視線を無視して歩いていく。
だからよかったけれど、壁に貼られた依頼書には足を止められてしまった。
『依頼・マリンダージュ盗賊団の殲滅(難易度A)』
………………久しぶりに見た盗賊団の名前に瞳孔が大きくなる。
静かに鼻から息を吐いて、軽く頭を振った。
『魔女の使徒』の幹部たちは副業としてこんなことをしていたりもする。
苦い思い出だ。
ストーリーの序盤でもマリンダージュ盗賊団は世界各国で暴れており、討伐への挑戦はできたもののまったくの罠なのだ。
序盤で24時間ほどレベリングしても、敵の下っ端だけでも倒すのに一苦労。
おまけに盗賊団のリーダーは魔女の使徒だ。
それだけでも最悪なのに幹部なのだ。
制作人は世界の厳しさを教えたかったのだろうが、まともにイージーモードも選ばせてくれない。
今作を死にゲーと勘違いしてしまうほどである。
「あれはAランクなんかじゃ釣り合わないのに…………人間の命は一つしかないんだぞ」
そんな些細な呟きは、誰かが酒をごくりと飲み干す音で消える。
…………無意識な呟き、というやつだ。
ライオットさんもこの街にいることだし、この街は魔女の使徒の縄張りなのだろう。
この街からは早々に、飛び出した方がよさそうである。
いや受付嬢に助言くらいはしておこうか。
………………だが胸の中がなんだかハラハラとしてくる。
見れば冒険者たちは世話しなく貧乏ゆすりしており、不意に大きな声がギルド内をどよめかせた。
「なーなーー!! こんなとこにかわいらしい子供がいんじゃねえのー!!」
つい、足元からは床の板が粉砕された音がした。
「ッ!!」
予想外の事態が起こればビックリしてしまうものだ。
僕は一歩後ろに退きながら、脇腹を覆う服を破いてすかさず穴を隠す。子供の足跡にそって、くっきりと型が抜かれていたのだ。
故に穴は小さい。きっとこれで誰にもバレない筈…………!!
「なにしにきたんだよ、餓鬼」
「…………」
「なに? なに後ろに下がってんの? もしかして後ろめたいことでもあんの? だよなあ、その身なりからして奴隷だろ。助けてくれると思ってここに来たとか? 何か盗んだとか?」
扉から歩いてきて人影はいやらしそうに笑みを深めている。
…………ニコニコしているのが、逆に怖い。
だってこんな質問責めするなら、怒っていたりするものである。それなのに頬のしわを一つも寄せないのだ。
何がしたいのか青髪を肩まで伸ばした男は大きく腕を広げる。
「なあ皆ーー!! Cランク冒険者様が帰ってきてやったぞーー!!」
「………………」
その濁りきった本性が笑みの裏に隠されているようだからか。
全身の毛が逆立つようだ。
しかしこんな時は心臓がうるさいものだが、かつてないほど僕の体は言う事を聞いてくれる。
………………無論、得体のしれない恐怖はある。
それでもなんだかつい、体の全身まで意識が行きわたるというか。
視界が広いというか。
さっきまでマリオネットのようにぎこちない動きではない。
前世の肉体のように伸び伸びと動ける。
…………やけにさっぱりとした気分だ。
ついには、ふと首を手で撫でてながら目を閉じてしまった。うむ。なんだか、まあ止まるような理由もなくなってくる。
「あれ、どこにいくんだよ?」
「…………」
「だーかーら、どこに行くってんだよ。餓鬼」
「え? ああ、僕ですか。すみません。名前がないもので。えー、何か用があるなら、5分ほど待っていただけますか? 届けものがあるんです…………すみません」
「…………」
ギルド内でごくりと唾を飲む音がした。
…………しん、と更に静まり返る。
だがこれはもう転生直後に経験済みだ。きっと僕はこんな男よりも狼が怖かった。死ぬかと思ったから。
しかし、今はやるべきことを為す。
それだけを心に留めるも、青髪の男は流れるように僕の手を掴んでいた。
「届け物かー偉いねー。んで、何を届けにきたのかな?」
「申し上げにくいですね」
「なんで?」
「必要があるませんから。なので、手を放してください」
この男は未知数であり、言うまでもなくカードの存在を知られたら不味い。
「カードは冒険者にとって命そのものだ。カードごとき守れない奴に渡す金はないし、再発行も効かない」
だがなぜか満足気に男はそんなことを口にした。
…………迂闊だったと言わざるを得ない。
「!」
瞬時に振り返る。
すると、青髪の男は冒険者のカードを片手にちらしていた。
「じゃーん、これが俺の魔法。すごいでしょ、誰かの物でも盗み放題。何その目? 憧れ?」




