第二話「こういう橋渡しみたいな話には伏線ないから安心しろ」
目的が決まった後は、予定を組んでやることをやる。
前世はそれだけでよかったものだが、今の僕は幼児であり頼れる大人もいない。
お腹が空いて体に力が入らなくても、自給自足を強要されていた。
「あー……………………」
前途多難というか前途もないというか、背水の陣というか水底の陣である。
さて、くだらないことを思っていると冷静になってきた。
体に力が入らないのは本当だ。しかし鎖だけは動かせる。鎖にも意識というものがあるのか、食料を取ってきてと命じれば持ってくるのだ。
…………ここは山の中であり、魔物以外に食えるものはない。
キノコや山草はあるのだがいかんせん、この体では消化できないだろう。
しかし魔物は違う。あれらは空気中の魔力から構成された存在だ。
そのことを知っているのか、八本の鎖は次々と狼の体を持ってくるのである。
「…………」
近くに置かれ続けた狼の山が異臭を放っていた。
正直、肺が重い。
息をする体力すらなくなってくればこうなるのか、しかし、どうにも魔物を喰う気持ちにはなれなかった。
単純に言えば毒だ。
雨水が綺麗でないように魔物は人体の細胞を侵食する毒である。
また魔物たちは抵抗する力もないほど体の節々が貫通していた。
故に、数分ほど僕が死体ごっこをしていても、横からは生暖かい息遣いが当たってくる。
「………………」
木々から風が吹き抜けてきて、異臭により魔物も寄ってくる。
それすらも調達してきた八本の鎖だ。
瞼も重くなってきて、このままでは魔物の肉に埋もれてしまうのではなかろうか。
「……………」
最強になると決めた以上、これは必要なことである。
僕は最後の力で思いっきり息を吸った後、鎖が口に運んできた魔物に食らいついた。
「ぐっ、ごぼッ、」
乳歯でも貫通できるほど叩かれた肉をごくりと飲み込む。
…………なんというか美味い。
噛んだ瞬間に魔物から溢れ出てくる血も、何十回と噛んでしまうほど肉の旨味が凝縮しているのだ。
あまり腹にもたまらないから、鎖が次々と持ってくる肉にも間髪入れずに食らいつく。
もう何体、何十体食べたかわからない。
原作では魔物を喰って死亡したキャラがいたのだが、そんなことすらどうでもいい気がする。
いや、よくない気がするがどうでもいいのだ。
なぜなら今は、食べて生きることに専心しなければならない。
「ガッ…………っつぐ」
魔物は死ねば空気中に魔力として消えていく。
だから人体の中で消えれば過剰な魔力が注入され、肉体は耐えきれず内部から張り裂ける。
故に、魔物を喰らった者は例外なく死に至るのだ。
「あ、あ?」
しかし逆に、気分がいい。
………………鉛だった体は羽毛のように軽く、跳ねるように起き上がれる。
軽快なステップを刻んだり、ストレッチで体をほぐした。
すると………………………………………周囲には草木の代わりに狼の死体が転がっているではないか。
「………………」
僕はお腹をさすると、舌で口周りを舐める。
…………狼たちは、僕を喰おうとした。
だから仕方ない。
悪役みたいな台詞を吐くつもりはないが、狼たちの喉が吹く音が聖歌のように聞こえてくるのである。
それはきっと、喰えば喰うほど、お腹が空いてくるから。
これらが僕の命を救ってくれる生贄であるという捉えが、ひしひしと伝わってくるのだ。
))))))))))))))))))))
「ぷうはーーーーーー!! んーーーーーぁ!!」
ずっとお腹を満たすことに専心していたからか、つい背筋を伸ばしてしまう。
それらを喰い終わる頃には、朝焼けが地上を照らしていた。
「あー、あー、うん」
ここまでくれば心底わかってくる。
僕にとって魔物は栄養価の高い食料のようだ。
首や腕に巻き付いてくる八本の鎖を撫でると、昨日よりも引き締まった喉で叫んだ。
「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」
…………肩が震える。
「あああああああ、あははっはっはっはははははは!!!」
近くにいたらしい大型の鳥が飛んでいく。
その風に髪が揺らされて、ボロ服が肌から離れた。
「はははははははははははははあははははっは!!!」
すごい。ろくに息を吸ってないのに数分間も叫べそうだ。
それに力も底なしに湧いてくる。
なんだこれは? 流石に予想外だ。原作の彼は町からパンやら肉を奪っていたといっていたが、なぜ魔物を喰らわなかったのだろうか。
「んーーーー! まあ、いいか!! いますごい気分がいいし! …………というか鳥型の魔物いたのか。じゃあ、」
上空めがけて鎖よりも遅く飛んでいく魔物ならば、手の平を標準とすれば殺せそうだ。
数秒ほど鼻から息を吐いて、かざした照準を外す。
「ずっと喰ってても時間の無駄だな」
皮膚に張り付いた魔物の血が、黒い灰として消えていく。
恐らくは魔物が僕の腹の中で死んだのだ。
まだまだ腹の中から熱が帯びていき、体中の筋肉は目に見えて成長していく。
「これなら街に降りても大丈夫そうだ。服はこのままでもいいとして、どこかで水浴びでもしなくちゃ」
すると、まだ残っていた血だまりから自分の姿を見る。
より目つきはキリっとしており、獣みたいな鋭い瞳孔。
今までにない肉体の強化方法を思いついて………………呼吸するたびに口端が上がってしまう。
だが、最強を目指すにはまだまだ足りない要素がある。
この世で発展を続けてきた剣術や魔法は、単純な力量の差があろうとも覆せるポテンシャルがある。
それに剣を持つとイメージしただけでテンションが上がるもの。
また自分の手から水の槍とか炎の球とか出せるのだ。
なるべく早めに習得したいに決まってる。
けどやはり順序というものはあり、それらを会得する為の資料もなければ師匠もない。
………………忘れないうちにやることをメモしておこう。
全身を抱きしめてくる鎖が地面に絵を描いていく。
「何をするのにも金はいる。金は全てじゃないっていうけど、なくちゃ何もできないよな」
だがこんななりをした少年が金をため込めば、それに応じて野賊も襲ってくるだろう。
僕は手を口元につけた後、人差し指で頬を叩く。
………………しばらくはこの山を拠点にしたいけど。
下手に目立つのは勘弁こうむるが、最強になるためには致し方ないだろう。
「…………逆に盗賊を捕まえて、金にもなるし…………あとはなんかあったっけ」
原作での金策は隠しダンジョンや週ダンジョン。
もしくは冒険者ギルドで依頼をこなすこと。
…………なのだが、ここがどの国のどの場所なのかすらわからない。だから、もし町があれば冒険者ギルドに行けばいいみたいなイメージで。
「話それちゃった。まあ、剣術や魔法の師匠はあとで探そう」
きっとこの体ならば、魔法に関する本だけでも初級くらいは使えるハズだ。
僕は山の中で水浴びをして、雑巾を編んだような布服を絞る。
だが魔物を喰らった影響だろうか。
どれだけ服を絞っても、まったく固いとは感じない。
つい破きそうになる。
………………これは、人を不意に傷つけないように気を付けなければ。
滝の上から落ちてきた岩石は僕の頭と激突した末に破裂した。
また川幅を飛び越えようと地面を蹴れば、想定していた着地点を4メートルほど越している。
うまく着地できないのだ。
僕は体の節々を地面にぶつけながら転がっていく。
だから人を傷つけないようにしないと、なんて注意は山を下りるごとに強くなっていた。
「………………うう、ま、魔物を食べるだけでこんなになるなんて………………」
またゆっくり立ち上がると、服についた土を手で払った。
「あー、服がまだ乾いてないから土の跡が…………まあいいか」
制限の効かない体を馴染ませながら、山を下りるとしよう。
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