モブの私はパーティーの仲間と四股(よんまた)します!・後編
「綺麗な花ですね。いつも、ありがとうございます」
僧侶が部屋を訪れてきた私に、礼を言う。勇者もそうだが、僧侶は私が、他の仲間とも付き合っているということをまったく知らない。いわば私は四股をしていて(どうでもいいが四股は、相撲の四股と漢字が同じで、ちょっと面白い)、戦士は勘づいているけど、なにも言わない。バレたら刃傷沙汰が起きかねなくて、そうなったら世界を救うどころではないので。
なんで複数の人と一度に付き合うんですか?、と。そう尋ねられたら、私はなんと答えれば良いのやら。それはまあ、楽しいからとしか言いようがない。快楽殺人者だって、楽しいから作業を続けるのだろう、たぶん。窮地に立たされるほど燃える性分なのが私であって、平穏無事に生きたければ、決して真似をしないようにとは言っておきたい。
「いつも言ってるけど、他の仲間に花は見せないようにね。私たちの関係は秘密にしないと」
「ええ、わかっています。浮ついた色恋を持ち込んでは、私たちパーティーの士気に関わりますし。私が信じる宗教の戒律では、僧侶の結婚が禁じられていますから。……この戦いが終わったら、私は僧侶を辞めて還俗いたします。それで、私と、結婚してくださいますね?」
「ええ、もちろん。約束するわ」
大嘘も大嘘である。僧侶の恋愛ゲーム的攻略法は結婚を約束することなのだ。彼女は恐ろしい竜の王を倒すため、僧侶となって魔法を習得し、私たち五人パーティーの一員となった。年齢は二十歳を少し過ぎた程度で、勇者や魔法使いよりは年上だけど、私よりは若い。
要するに世間知らずのお嬢さまであって、結婚というものに憧れる年頃なのだ。私も僧侶をだますようなことはしたくないけど、ゲームのシナリオ的に、結婚を約束しなければ彼女の好感度をマックスまで上げることはできないのである。この世界では同性婚も普通に可能だ。
「私、必ず、いい奥さんになります。今夜も私に、結婚後の作法を教えてくださいませ」
純真そのものの瞳で、彼女が私に求めてくる。真っ白な紙を私の色に染められるようで、ぞくぞくとした喜びが私のなかを駆け巡った。いやー、辛いなー。純真な子をだまして好き勝手にするって、なんて楽しい、いや辛いんだろうなー。
これは私が悪いんじゃなくて、前世の恋愛ゲームが、そういう仕様なのである。ときメモという名作だって、複数のキャラクターを同時攻略するのは常識なのだ。そうやってデータをセーブしていかないと、各キャラクターとのエンディングをすべて見るのに時間が掛かりすぎるので。
それに今いるゲーム世界では、私が最終的にどの仲間と結ばれても、他の仲間が怒ったり傷ついたりすることはないのであった。この辺りはゲームシナリオのネタバレになるので、まだ秘密にしておくとしよう。さて僧侶への、夜の作法の教授も終わって、ベッドで横たわりながら私は窓から外の景色を眺める。月明かりに照らされた夜の街は、静かに眠りについていた。
「竜が復活するという預言の日が近づいて、街の方々も大勢が避難しましたけど。それでも、この街に留まる方はいるのですね。だからこそ宿屋は営業していて、私たちが休息をとれるのですけど」
「それはそうね。家族がいて、街での生活や仕事があれば、そう簡単に離れられないわ」
前世でもそうだった。富士山の噴火や、地震が起こる危険性があるとしても、多くの人々は都会を離れられなかったものだ。そんな先のことまで考えられなかったし、私はその前に交通事故で死んでしまったくらいだしねぇ。
「絶対に、街の人たちを守らないとね。もう休みなさい」
早くしないと夜が明けてしまう。僧侶にキスをして、部屋を出てから私は魔法使いの元へと向かった。
花を渡して、もう時間がないので手早く私は事を済ませた。四股ともなると、夜の情事もゆっくりとはしていられないのである。普段の睡眠時間も短くなっていて、こんなことだから私は五人パーティーの中で最弱なのだ。
「なんか、手つきが雑ー……。他の人に時間を取られてるからでしょ」
「なんのことかしらねー。明日──というか、もう深夜過ぎだけど──、竜がいる洞窟に向かうんだから。あんまり疲れるわけには、いかないでしょ」
空とぼけて私は言った。実際のシナリオ展開は、そうならないのだが。私が転生者で、ゲーム世界の展開を知っているのは秘密にしているので、話すわけにもいかない。話題を変えたくて、私は魔法使いへ更に話しかけた。
「まだ、冒険は怖い? 仲間の誰かが死ぬかもしれない。そのことが、とても怖いのよね?」
「……怖いよ。私が死ぬのは構わないの、それは未熟だったってだけだから。でも、もし仲間が目の前で死んで、私だけが生き残ったら。私は仲間を救えなかったっていう、後悔を抱え続けて生きていくことになるわ。そのことが、私は怖い。とっても怖い……」
震えながら、華奢な身体を摺り寄せてくる。私たちはベッドで抱きしめ合った。
魔法使いの恋愛ゲーム的攻略は、クールな態度の裏にある、彼女の優しさに触れることである。魔法使いが仲間と深く関わりたがらないのは、失ったときの悲しみが大きくなるからだ。その実、優しすぎて、常に仲間の安全を第一に考えている。
私は彼女に、人や仲間を愛することは、間違いではないのだと。そう教えてあげたのだった。
「ちょっと真面目な話をするわね。貴女はパーティーのなかで最年少よ。若いから、その分、これから経験する別れの数も多くなるでしょう。長生きすれば、するほどね。多感な時期に別れを経験したら、深く傷つくこともあるかもしれない。それでも、強く生きなさい。約束して」
「どうして、そんなこと言うの……? 遺言じゃあるまいし」
魔法使いは身体が小さくて、ついつい私も母性が出てしまう。前世でも独身だったんだけどねぇ、私は。ともあれ今晩、私は四人の仲間と、楽しく睦み合えた。攻略対象の好感度を全員、マックスにできた。前世のゲームプレイでも、全員分の好感度を同時にマックスまで上げたことはない。ここまで、やり込むことができたのだから、もう私に思い残すことはなかった。
「……時間がないわ。起き上がって、服を着なさい。装備品も身に着けて」
「なんのこと? いったい、なにが──」
魔法使いの言葉を遮るように、鐘の音が外から響いた。教会の鐘が、警鐘として鳴らされているのだ。危機を知らせる角笛の音も聞こえる。
「竜が来た! 竜の王が来たぞぉ!」
街の憲兵が、そこかしこの家に叫び、危機の到来を伝えていた。預言の成就である。竜の王が百年の眠りから、ついに目覚めたのだった。




