モブの私はパーティーの仲間と四股(よんまた)します!・前編
「素敵なお花ね。いつも、ありがとう」
勇者が部屋のなかで、花の匂いをかぎながら私へ礼を述べる。私たちは皆が別々の部屋に分けられているのだが、私が勇者の部屋を訪問したのであった。
「リラックスできたのなら良かったわ。まだ、重圧は感じてる? 竜の王から世界を救うって言われてる、勇者の血筋に生まれたプレッシャーって凄いんでしょうね」
竜の王は千年以上を生きているといわれる生物だ。その昔、聖女を喰った竜の王は、それから長い眠りにつくようになった。数百年に一度、目覚めては数日だけ暴れて、また眠りにつく。一説には亡き聖女が、竜の体内から祈りの力で抑えつけているのだとか。
その祈りの力にも限界が来たのか。預言者は竜の王が近く、本格的に目覚めると、この国の王さまに告げた。それで私たち、五人パーティーが結成された次第である。
ベッドに二人きりで腰掛ける。繰り返すが、私がいるのは成年向けゲームの世界であってRPG、つまりロールプレイングゲームの要素もある。それとは別に恋愛ゲーム要素もあって。好感度アイテムを渡すことで、最終的に私、つまり女主人公と仲間の誰かが結ばれる展開となるのだ。
「まあ、ね。死ぬことは怖くないのよ。でも私が使命を果たせないことで、世界が滅びることになるかもしれない。それが怖くて、たまらないわ」
RPGには蘇生呪文が付きものなのだが、このゲーム世界には存在しない。少なくとも人間が扱える呪文ではなくて、死ねば私たちは生き返れない。妙にリアルな設定だった。前世では私も含め、仲間が途中で一人でも死ねばゲームオーバーとなる仕様で、何度も苦労をさせられたものだ。
「マジメね、相変わらず。私にとって、勇者の家系は憧れの象徴だったけど。当事者には当事者ならではの悩みがある。当たり前のことかぁ」
何度、勇者と話をしても、やっぱり彼女に対する憧れは消えない。前世でも、このゲーム世界で一番の人気キャラは勇者なのだった。彼女は聡明で責任感があって、私たち五人パーティーを率いているリーダーだ。常に完璧であることを目指していて、そうなれない自分自身を責め続けている。苦悩する美少女というのは、一言で『絵になる』のであった。
「大したことないわよ、私なんて。勇者って言われてても、力は戦士に敵わないし。回復魔法は僧侶、攻撃は魔法使いの専門分野でしょ。敏捷性や身のこなしは貴女が上だしね」
私にだけ打ち明けられる、勇者の弱音だった。勇者あるある、とでもいうのか、ゲーム的にいえば中途半端な能力であるのが彼女なのだ。このゲーム世界においては補助魔法が使えて、あとは専用の武器や防具が使えるのが勇者で、パーティーのなかで欠かせない戦闘力の持ち主ではある。
「総合力は貴女のほうが上じゃない。能力でいえば最下位だからね、私は。野伏なんて、そんなものよ」
一応、ゲームの主人公は私なのだけど、立ち位置は最弱キャラに過ぎない。このゲーム世界は、システムとしてはADV、つまりアドベンチャーゲームに最も近かった。戦闘を楽しむというよりは、パーティーの仲間と交流し、仲を深めて深夜に睦み合う。
それが醍醐味で、無個性な女主人公(つまり私)が、魅力的な仲間キャラクターと絡めるのが楽しいのだ。前世の私のような、陰キャ向けの成年ゲームなのであった。ちなみに主人公の性別は選択可能だけど、私は女性キャラ一択である。男性キャラが女性四人に囲まれてたら、どうしたって生々しい展開になるとしか思えないので。
「能力なんて、どうでもいいわ……。集団を率いる身としては、能力を無視するわけにもいかないけれど。でも、私がすべてを曝け出せるのは、貴女だけなの……」
細身の勇者が、私の肩に頭をもたせかけてくる。恋愛ゲームとして見れば、勇者の攻略法は、ひたすらに彼女の弱音を聞いてあげることに尽きるのだった。私よりも年下で、私よりも強い勇者が、今は私の思うがままである。こういう状況を楽しめるのだから、悪い大人になったものだなぁと私は思った。
「他の仲間のところにも、行ってるんだろ。悪い女だよな、お前」
圧倒的なボリュームの裸身を見せつけながら、ベッドで戦士が微笑む。勇者の部屋から出たあと、すぐに私はこの部屋を訪れていた。指先には私が送った花が摘まれていて、私と戦士は同じベッドで、じゃれあっている。
「まあまあ。やっぱり、貴女の身体は魅力的だわぁ。こんなのを見せつけられたら離れられないわよ」
牛のような身体、というと悪口にしか聞こえないだろうけど。肉欲というものが人の姿をしていたら、きっと目の前にいる戦士のような身体をしているのだろう。豊満な女性の触り心地は、なにものにも代えがたいくらい素敵だった。
「ま、いいけどな。最後には、あたしを選ぶんだろ? 裏切ったら、その首を刎ね飛ばすぜ」
私は笑って、返答を保留する。困ったことに、私は四人の仲間全員を愛しているのであった。
『みんな違って、みんな良い』というのが私のモットーである。性格も身体もすべてが違っていて、全員が魅力的であり、一人だけを選ぶことなどできない。そうはいっても前世のゲームプレイ時に、ハーレムエンドなんかは無かったはずなので。だからデータをセーブしながら、勇者・戦士・僧侶・魔法使いの誰か一人と結ばれるエンディングを一つ一つ、私は見ていったものだ。
他にも、このゲーム世界に、隠し要素はあったのだろうか。その辺りの記憶は曖昧で、なにしろゲームのタイトルすら覚えてないくらいだ。やり込み要素を見つける前に、私は交通事故で死んでしまって、この世界へと転生してきて今に至っている。
「とりあえず、今は竜の王を討伐するのが先でしょ。疲れを残さないうちに早く寝ましょ」
「よく言うよな。疲れるようなことを仕掛けてきたのは、そっちだろうよ。程々にしておけよ。明日、山に入って、竜がいる洞窟までの進路を確立するにはお前の力が要るんだ」
戦士が言ってるのは、私の特殊能力についてである。野伏の私は山や森の地形、その他の特殊な状況で戦闘力がアップする。地形効果というもので、シミュレーションゲームでは良くある要素だった。この能力があるから、女主人公の私はゲーム終盤で活躍ができるのだ。
「わかってるって。疲れを残さない内に休みを取るから。ああ、それとね」
名ごり惜しくて、戦士の身体を撫でまわしながら私は話している。恋愛ゲーム的に言うと、戦士の攻略法は甘えて、押しまくることだ。五人パーティーのなかでは戦士が最年長で、彼女は色事の経験もそれなりに多い。懐に飛び込んで肉欲を刺激してあげれば、すんなりと受け入れてくれるのであった。そんなことを考えながら、私は言葉を続ける。
「今夜、なにかあったら、すぐに鎧を装備できるようにしてて。裸で寝てたら不覚を取るわよ」
「……野伏の、勘って奴か? なにかが起きると?」
「ここは竜がいる山に、最も近い街でしょ。警戒を怠らないでね」
するりとお尻を撫でてから、私は戦士の部屋を後にした。




