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奴隷商人とエルフさま  作者: 遊命月
第3章 誰かの愛と、旅立ちと
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第37話 作戦名は砂漠羊

 朝、部屋に光が差し込み出した頃、クニーガは目を覚ます。

 飲食店ムートの生活ですっかり染み付いたサイクルは、仮に昨日ずっと部屋に閉じこもっていたってそう簡単に変化するものではないだろう。

 まだ眠いみたいでベッドの中でモゾモゾと寝返りを打つ。

 血の色をした赤い左目がゆっくりと開き、小さな欠伸をする。


「ふぁ」

「お、おはようクニーガ。……いい、朝だね」

「…………あ?」


 そのベッドの中に、僕がいた。

 クニーガの瞳がどんどん大きく開かれていく。


「うぎゃああああああああああああああああああああああああっっっっ!!??」


 叫び声を上げてベッドから転げ落ちるクニーガ。

 僕はそんなクニーガに優しく手を差し伸べる。


「大丈夫、かい? こ、子猫ちゃん……」

「な、ななな何でオマエがいんだよ!? え? ここ、オレの部屋! つーか何だその喋り方! ぞわぞわする!!」


 至極真っ当な事を聞いてくるクニーガ。

 それは僕だってそう思う。

 作戦名、砂漠羊。

 そんなふざけた提案をしたのはもちろん、三女のスィーネさんだった。


『このままお互いモヤモヤしているのは嫌だろう? クーちゃんは正直者だ。押しに弱い。今すぐやれ。そう、作戦名は砂漠羊』


 クニーガのお姉さんから、ありがたい……と思いたい言葉をいただいた。


『まず朝、とりあえずクーちゃんのベッドに忍び込んで添い寝をするんだ。静かに砂に沈みこむ砂漠羊のように』


 まずの難易度が高すぎる。


『そして寝ぼけているクーちゃんに優しく甘い言葉をかけろ。果実のような匂いを出して獲物を誘き寄せる砂漠羊のように』

『任せて! バッチリな台詞はもう用意してあるから!』


 あまり内容を知りたくない、甘い言葉が書き連なれた本をケルネさんからいただいた。

 手書きのタイトルは見ないようにしておく。

 なんか、すごい分厚かった。


『最後に押して押して押しまくれ。考える暇を与えるな。砂ごと獲物を飲み込む砂漠羊のように』

『大丈夫ライラ君! 応援してるよ!』

『ピー姉さんは自分の心配をした方がいい』

『え?』


 僕を励ましてくれるピーネさんの横顔を見上げならスィーネさんが呟いた。

 僕の中でどんどん砂漠羊の存在がわからなくなっていく。

 危険な生物だという事だけは理解した。


「クニーガ」

「な、なんだよ……!」


 警戒した様子で僕を睨みつけるクニーガ。


「遊びに行こう」

「お、おぉ?」

「じゃあ、待ってるから」

 

 言うだけ言って僕はクニーガの部屋の窓を開け身を乗り出した。

 そう、先日のクニーガのように。

 二階、高い、怖い。

 だけど今クニーガに捕まっては台無しになってしまうので、意を決して飛び降りた。


「お、おい!?」


 背中からクニーガの声が聞こえる。

 大丈夫、この後すぐにピーネさん達が昨日閉じこもっていた事を心配する振りをして、クニーガの部屋に突撃してくれる事になっている。

 そして落ちていく僕は。


「おう坊ちゃん! やるじゃねぇか! 男らしいぞ!!」

「で、できれば二度とやりたくないです……」


 下のテラスで待ち構えていた、冒険者のクロウウェルさんに受け止めてもらった。

 鍛えられたその肉体は堅くて痛かったけど、今だけはとても頼もしかった。


「よくやったライラ。砂漠羊、成功だな。吉報を待て」


 うんうんと満足そうに頷くスィーネさん。

 せめてもの抵抗で、こんな無茶苦茶な作戦を計画したスィーネさんに僕は冷たい視線を送った。





 ひとまず作戦の成功した僕は一度、どうぐ屋ライオックに戻った。

 お休みの為、誰もいない店頭でクニーガを待っている。

 来てくれるのだろうか? 一人になったからそんな事ばかり考えてしまう。

 不安に駆られていたその時、来客を知らせるベルが小さく音を鳴らした。


「よ、よぉ……」


 真っ赤な顔で耳を伏せているクニーガが入ってきた。

 純白のワンピース姿。

 いつも着ている制服と色は同じで露出もこちらの方が少ないけど、細身のクニーガにはこっちの方が断然似合っていた。

 白い毛色に白い肌、同じ白でも違う印象を与えてくれる。

 僕から奪ったどうぐ屋ライオック指定の紅いバンダナを左手首に巻いている。

 右手には変わらずクニーガの奴隷の証が二つ巻かれている。

 照れているクニーガ、とても新鮮だ。


「あ、赤ネーチャンにこれ着てけって言われたんだけど、へ、変じゃねーか!?」

「ううん、その、凄く似合ってる……」

「そ、そうか……?」


 多分、僕の顔も赤い。

 クニーガの尻尾が大きく揺れている。

 この服、ひょっとしてピーネさんの手作りだろうか。


「と、とりあえず外に行こうか」

「お、おう」


 二人共ぎこちない会話で外に出た。

 緊張のせいか、いつも聞いているファンリネーラの喧騒が、今日は何故か違って聞こえる。

 それにまるで誰かに見られているようで落ち着かない。


「………………」

「………………」

「………………」


 物陰から覗くピーネさん、ケルネさん、スィーネさんを発見してしまった。

 そうだよね、気になるよね、うん……。

 こうやって手伝ってくれて嬉しいし、クニーガと話せているのは皆のおかげだ。

 だけど。


「クニーガ」

「な、なんだよ?」

「逃げよっか」

「は? お、おい!?」


 このままずっと尾行されるのは嫌なので、全力で逃げる事にした。

 クニーガの手を離さないようにしっかりと握って、僕たちは人魔行き交うファンリネーラの街並みを走りだした。

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