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奴隷商人とエルフさま  作者: 遊命月
第3章 誰かの愛と、旅立ちと
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第36話 一夜明けて

「おはようございます……」

「うわっ! ライラ君どうしたの!?」


 あれから一睡も出来ずに朝を迎えた。

 様子のおかしい僕にピーネさんは驚いているみたいだ。


「すみません、昨日、ちょっと、寝れなくて」

「クーちゃんと何かあった?」


 歯切れの悪い僕の悩み事を一発で当てられてしまった。


「クーちゃん昨日の夜ずっと自分の部屋で、よえーくせに! よえーくせに! よえーくせに! って叫んでたんだよね」


 心当たりしかなかった。


「うるさーいって怒りにいこうとしたんだけど、先にケルネが突撃して静かになっちゃったの」

「……け、ケルネさんは何か言ってました?」

「とりあえずうるさかったから寝かしつけたって言ってたよ」


 まだ知られていないと安堵するべきか、暴れるクニーガをどう寝かしつけたのか恐怖するべきか。


「喧嘩したなら早く仲直りしてね」

「は、はい」


 喧嘩、ではないけれど、姉のピーネさんだからこそ言いにくく、笑って誤魔化す事しかできなかった。





 とても眠いまま、何事も無く今日の仕事を終らせる事ができた。

 昨日冒険者が一度に大勢来店した事と、ゲルジッドさんの乱闘騒ぎで今日はお客さまが少なかった。

 今の僕の状態からしたらそれはありがたく、助かったと言えるだろう。


「うちの大事な妹に悪さしたのどこのどいつだぁっ!!」

「神妙に御縄につけい」


 助かってなど、いなかった。

 お鍋と調理道具で武装したケルネさんとスィーネさんが、どうぐ屋ライオックに突撃してきた。


「おうおうおうおう! お前かうちのクーちゃんに何かしたってあんちゃんは!」

「確保だ確保だ」


 店内にいる僕の姿を見るやいなや、とんでもない形相で距離をつめてくるケルネさんによって壁際に追い詰められてしまった。

 その後ろでスィーネさんが手に持った鍋を鳴らしながら小躍りしている。


「ケルネにスィーネ、二人ともどうしたの!? 調理道具で遊んだらお父さんに怒られるよ!」


 妹達の襲来にピーネさんも驚いている。

 心配するところそこなんだ。


「ピー姉、心配ご無用。父さんの許可は得ている。我々は、大義名分を得た!」

「あ、そうなの? じゃあ大丈夫だね」


 ピーネさん、何も大丈夫じゃないです。

 ケルネさん、包丁は人の顔に突きつけるものではありません。

 スィーネさん、何か楽しんでません?

 

「さあ吐けコラ! クーちゃんに何をしたこの紅坊主!!」

「ひ、ひぃ……」


 目をこれでもかと開いたとんでもなく怖い上目遣いで迫るケルネさん。

 じわじわと近寄ってくる包丁の先端が僕を追い詰めていく。


「ケルネ! それじゃあライラ君怖がって何も喋れないよ! まず何があったか説明して!」


 そんな僕に救いの手を差し伸べてくれるピーネさん。

 今の彼女が女神に見える。


「クーちゃんが今日は外に出たくないってずっと朝から閉じこもってるの」

「ライラ君?」


 女神のような笑顔の悪魔になった。

 僕、終わった。

 もう黙っているのは不可能だ。

 ピーネさんは僕がクニーガと何かあったと知っているし、ケルネさんも昨日暴れているクニーガを寝かしつけているから薄々感づいているだろう。

 スィーネさんは楽しんでいるだけに見えるけど、多分もう無理だ。


「は、話しますのでまずは、その……包丁を、下ろして、ください」

「…………」


 僕をガンつけながら手先で器用に包丁を回転させ腰のホルダーに納めるピーネさん。

 無言の圧が凄く怖い。


「そ、そのですね……僕、ヴァルコさんに頼まれて皆さんを調査していたんです……」


 心の中でヴァルコさんに謝りながら、この状況から脱出する為に真相を一から全部説明する事に決めた。


「私たちを? 何で?」

「ヴァルコさん、その、皆さんの交友関係とか、恋愛観をとても心配されていて、それで僕に……」

「バレバレだったけどな」

「スィーネ、知ってたの?」

「私の時はな。姉さん達の時は知らん。父さんも余計なお世話だ」


 スィーネさんが知っていた事は驚きだけど、ピーネさんとケルネさんは気づかなかったみたいだ。

 

「その時に、クニーガも一緒だったんですけど……」

「クーちゃんに何をした」

「ひぃ!?」

「ケルネ、刺すのはまだ早いよ」


 クニーガの話題に戻った瞬間、また包丁を突きつけられた。

 それを見て冷静にピーネさんがケルネさんを落ち着かせるけど、まだってどういう事ですか?


「クニーガ、僕が皆さんに夢中だと思ったらしくて……」

「クーちゃんが?」

「可愛いなぁ」

「後でよしよししてやろう」


 クニーガの事を想い穏やかな雰囲気に変わっていく。

 大丈夫、落ち着いていこう。


「昨日の夜、その事について僕の部屋で話していたんです」

「クーちゃんいつの間にライラ君の部屋に行ってたの?」

「流石自慢の妹だね」

「その行動力をピー姉さんにもわけてあげてほしいものだ」


 大丈夫、大丈夫。


「その時、皆さんがヴァルコさんに心配されていて羨ましいってクニーガが言ってたんです」

「クーちゃん!」

「今すぐ抱きしめに行こう!」

「まず父さんを殴るのが先だ」


 興味の対象が完全に僕ではなくなった。


「僕もすぐにそんな事ないよって言ったんです。ヴァルコさんの気持ちも知っていますから」

「お父さん、引くほど親馬鹿だもんね」

「ライラ君、私は君を信じてたよ」

「どの口が言うんだ」


 これなら、いける!


「それでもまだ不安そうだったので、その……」

「とりあえず帰ってお父さん問い詰める?」

「原因作ったのお父さんだもんね」

「緊急家族会議だ」


 今なら誰も聞いてない!


「クニーガには僕がいるでしょって言ったら、顔を真っ赤にして飛び出しちゃって……」

「………………」

「………………」

「………………」


 ムート三姉妹の視線が一斉に僕に向いた。


「そ、それで……今日に、至ります……」

「………………」

「………………」

「………………」


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

 ごめんクニーガ僕も怖いの苦手だ!

 無言の三人がすごく怖いよ!


「えっと……」

「ライラ君」

「は、はい!」


 ピーネさんが口を開いた。


「ピーネお義姉ちゃんって呼んでいいよ」

「えっ?」

「ライラ君!!」

「はい!」


 菩薩のような笑顔になったピーネさん。

 その後ろから鬼気迫る顔でケルネさんが迫ってきた。


「その時の状況! もっと詳しく教えて!!」

「え、あの」

「あーもう! どうしよう本番までの時間あんまり無いのに! けどこんな素敵エピソード入れない訳にはいかないし、いや、絶対入れる! 想定しているラストと辻褄が合わなくなるから最初から脚本書き直しだけどやってやる!!」

「け、ケルネさん?」

「ライラライラ」 


 頭を抱えて眼が血走り出すケルネさん。

 気になる事ばかりだけど、間にスィーネさんが入ってきた。


「頼れる私が一肌脱ごうじゃないか」

「は、はぁ……?」


 スィーネさんに肩を組まれる。


「とりあえず明日、クーちゃんとデート行ってこい」


 耳元でそう囁かれた。

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