第25話 夜の語らい
「それでは、後は若いお二人でごゆるりと、おほ、おほほほほほほ!」
ゆっくりと部屋の扉が閉じられ、ゲルジッドさんの姿が見えなくなった。
「オマエの飼い主、気持ちわりーな」
「飼い主ではないけど、気持ち悪いとは僕も思った」
閉じられた僕の部屋の扉をクニーガと見つめながら同じ事を呟いた。
ゲルジッドさんはクニーガが来てからずっとあんな感じだ。
「だーちくしょーっ!」
「何してるの!?」
突然叫びながら僕のベッドに飛び込んだクニーガ。
全身を包む黒のローブがふわりと靡いた。
「オッチャンにめっちゃ怒られた!!」
「それさっきも聞いたよ……」
よっぽどショックだったのかもしれない。
僕もファンリネーラに来て、初めてゲルジッドさんに怒られた時は凄くへこんだっけ。
「このベッドふかふかでいいな。オレのと交換しねーか?」
「しないけど」
「ケチくせー!」
僕のベッドでじたばたと暴れるクニーガ。
そんな事してたら、ローブの、シワが……?
「ねぇ、クニーガ。その、ローブ……」
「おう! かっけーだろ!」
ベッドに横になりがら得意気に全身を使ってローブを広げアピール。
そのローブの中の、身体のラインがバッチリと浮かび上がってしまっている。
「な、ななな中に何を」
「あん? 着てねーよ? あちーじゃん、これ」
「どうして!?」
「かっけーけど、寝苦しいんだわこれ」
寝苦しいから、じゃないんだよ!
「そ、そそそそんな事よくないと思う! 凄く!!」
「ああ? かっけーのに文句あんのかよ?」
「カッコいいとかそういうのじゃなくて、その……身体の、ラインが、ですね……」
最後の方はクニーガに届いているか、わからないぐらい小声になってしまった。
意識してしまった以上、恥ずかしくて直視できない。
「身体? 裸じゃねーからいいだろ、別に」
「よくないと僕は思う!!」
裸じゃなければ大丈夫って発想はどこからくるの?
昼にも同じような事を言ってたけど、根本的にクニーガとの価値観が違う気がしてきた。
僕が正しいのか、クニーガが正しいのか。
いや、ここは自分を曲げちゃいけないところだ。
「えらく粘るじゃねーか。ん? ……ははーん。ライラ、オマエひょっとしてダチのオレを見て欲情してんな?」
「よ、よよよ欲情!?」
何を言いだすのこの子は本当に!
僕は! ただ! 一般論を! さあ!
『それでは、後は若いお二人でごゆるりと、おほ、おほほほほほほ!』
……どうして今さっきのゲルジッドさんの言葉を思い出しちゃうかなぁ!?
「気にすんなって! オスなら仕方ないこった。 ま、オマエにやられるオレじゃねーけどな」
「……だから、そういうのじゃ、ないです」
「ほんとかぁ? オスならもっと……やべっ、これオッチャンに怒られた事だった!」
クニーガを直視出来ずそっぽを向いていると、突然慌て出した。
ちょっとだけ視線を向けてみると、僕のベットに引きつった笑顔で立ち上がっていた。
「……ら、ライラさま。ご、ごきげんうるわしゅう、ございます」
「なにそれ」
「オレが聞きてーよ!」
「跳ねないで! ベッド壊れちゃうから!!」
じたばたが可愛く思えるほど激しく暴れ出すクニーガ。
彼女らしくない言動と行動は、ムート家の誰かの入れ知恵だろう。
「落ち着いて! そもそも僕に用事があって来たんだよね!?」
「おう。そういえばそーだったわ」
ようやく正気に戻ってくれたクニーガ。
その感情の緩急が凄いドキドキする。
もちろん悪い意味で。
「これ、迷惑かけたお詫びに持ってけって」
ベッドの横、本棚と一体の小さな机の上に置いた土色の大きなお鍋を持った。
それは他に置き場が無いので僕とクニーガの間、床に直置き。
「あ、ありがとう」
「おう! 食っちまおうぜ!」
こんな大きなお鍋、僕一人で食べきれないし一緒に食べてくれるのはありがたい。
じっと見られながら食べるのも、飛竜のスープの時みたいで落ち着かないし。
「あれ、これって……」
「いただき!」
「え? 手でいくの!? また!?」
「誰も見てねーんだし、気にすんなって」
「僕がいるんだけど……」
「つれねーな。オレとオマエの仲だろ?」
ニヤリとローブを捲り、右手に巻かれた腕輪を見せつけてくるクニーガ。
それを見せられると何も言えなくなる。
「……あーもう! いただきます!!」
「おう! じゃんじゃん食え!」
見覚えのある薄い黄金色のスープに浮くお肉に手を伸ばす。
久しぶりに手で肉をつまむ柔らかさと脂っこさ、床に置かれたものを食べる感覚、何か色々な事を思い出す前に、それを口に押し込んだ。
「……あれ?」
そのお肉を噛んだ瞬間に小さな違和感が生まれた。
柔らかい。
昼に食べた飛竜のお肉はもっと固かった気がする。
これはどちらかといえば、さっき食べた串焼きと同じ。
「鳥肉?」
「うめーだろ?」
「うん。飛竜のスープだと思ってたけどこっちも美味しいよ」
「だろー? なんせオレが作ったんだからな!」
「そうなの!?」
誇らしげにクニーガが肉をつまみながら笑った。
「詫びの品は自分で作れって、オッチャンに言われちまってよー」
「凄いよこれ! ピーネさん達のスープと同じぐらい美味しいよ!」
「へへん! だろ? なんせ肉を切って焼いただけで、後はネーチャン達のスープにぶち込んだだけだからな!!」
「あ、そうなんだ……」
そんな事まで正直に言わなくてもいいと思う。
けど、この正直なところがクニーガの良さだ。
「クニーガはカッコいいね」
「だろー? かっけーこの服をオレが着てんだぜ? そりゃかっけーよ。見る目あんじゃん」
「そういう事じゃないんだけど……」
意図した伝わり方はしていないけど、喜んでくれたならそれでもいい。
だって本当の事をちゃんと説明して褒めるのは恥ずかしいから。
「それなのに聞いてくれよ。オッチャン、もっと女の子らしくしろって怒るんだわ。超こえーの!」
「それはクニーガの事を心配してくれてるからだと思うけど」
「もっと異性と接する時の距離感を考えろーって。意味わかんなくね?」
「全面的にヴァルコさんに同意するよ」
「オマエもオッチャンの味方かよ! ダチのくせに!」
「友達だから危ういんだよ! さっきの事とか!」
「オレに欲情してたやつか?」
「し、してない!」
「誤魔化すなって! オレとオマエの仲じゃねーか! オスが盛っても気にしねーよ?」
「そういうところ!!」
あぁ、何故だろう。
振り回されてばかりだけど、凄く、楽しい。




