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奴隷商人とエルフさま  作者: 遊命月
第2章 幸せな奴隷の1日
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第19話 挑む者

「スィーちゃん、例のものを」

「こちらに」


 一度宙を舞ったトレーが、スィーネさんの手から再びピーネさんの元に返ってきた。

 それを優しく僕らの中心にある長机の上に置いた。

 目の前に現れた何かのスープからは、食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。


「さぁ!」

「召し上がれ!」

「美味いぞ、多分」

「い、いただきます……」


 三姉妹に見られながらの食事はとても緊張する。

 少し震える手でスプーンを持って、口に運ぶ。

 薄い黄金色のスープからは想像できないほど、濃厚な味が口の中に広がった。


「……おいしい」

「本当っ!?」

「やったねピー姉!」

「言質は取ったぞ」


 僕の口からこぼれた言葉に三人はハイタッチして喜んでいる。

 そんな仲睦まじい光景を横目に、スープを口にする。

 スープの中の厚めのお肉は少し固いけど、噛めば噛むほど味が出てくる。

 美味しい。


「あの、これは何のスープですか?」

「ふっふっふ! 気になるよね」

「特別に教えてあげよう!」

「飛竜のスープだ」

「え……?」


 飛竜? 飛竜って言った? これが? このお肉が?

 あの、空を飛ぶ、竜で……飛竜?


「飛竜の骨から出汁を取り」

「飛竜のお肉もしっかり使った」

「ムート開発中の新メニュー。名付けて飛竜ずくめの贅沢スープだ」


 三人の嬉しそうな声が耳に入り、抜けていく。

 もう一度、スープを口に運んだ。


「あれ? ライラくーん?」

「これは、感動のあまり言葉を失っている!」

「つまり私たちの大勝利という事か」

「…………?」


 喉の奥に流し込み口に広がる余韻に浸る。

 そこでようやく、僕をまだ見つめていた三人の視線に気がついた。


「どうライラ君! このスープ美味しい?」

「点数で言ったら何点?」

「遠慮はいらない。正直に話せ」

「はい! 凄い感動しています!」


 口から出てきた素直な言葉。

 感動を胸に、言葉を続ける。


「これが、冒険者たちも食べている飛竜なんですね……!」

「え?」

「ん?」

「お?」


 冒険の味がする。

 冒険者はこういうものを食べているのか……!


「うちに来てくれるお客さまもこういうの食べてるんだろうなぁ……」

「これは……」

「うーん……」

「失敗、だな」


 トリイトさんたちもこういうの食べてるのかな?

 賞金稼ぎになったからもっと凄いものを食べているのかも!


「珍しい食材を使っても珍しいだけ……ありがとライラ君!」

「……え? 何がですか?」

「甘えてたよ私! こうしちゃいられない! 研究だー!!」

「え? え?」


 僕の肩に手を当て、真剣な眼差しを向けてくるピーネさん。

 肩から手を離すと、勢いよく扉を開け飛び出していった。

 フリフリのミニが、ふわりと浮いた。


「完敗かぁ。ありがとねライラ君。付き合ってもらって。ピー姉待ってよぉ」

「え、あの……」


 何がどうなっているのかわからないまま、続いてケルネさんも部屋を出て行った。


「ゆっくり食べてて良いからな。待たれよ姉さんたちー」

「あの、スィーネさん……?」


 流れに乗ってスィーネさんまで部屋を出て行ってしまった。

 残された僕とスープとトレー。

 どういう事だろうか。



「普通に美味しいんだけどなぁ」


 美味しいから残すつもりもなく、飛竜のスープをいただいている。

 それにしても、誰かの家にこんなに長くいたことないから新鮮だなぁ。

 本棚を埋める料理の本。

 冒険の本は見当たらない。

 料理の本は、どんな事を書いているんだろう?


「あぁん? 何でオレの部屋にお前がいんだ?」

「うひゃぁ!?」


 意識外から来た声に驚いて、変な声を上げてしまった。

 慌てて視線を本棚から部屋の扉へと向ける。

 仏頂面の、白い獣人の女の子がそこにいた。


「え!? あ、ごめんなさい!」

「ん? その料理……」


 不機嫌そうな顔つきを見て反射的に僕は謝った。

 彼女は僕が食べていた飛竜のスープを覗いた後、大きな溜め息をついた。


「……ま、赤ネーチャンの部屋は難しい本ばっかだし、黄ネーチャンは服ばっかで、青ネーチャンはそもそもぐっちゃぐちゃだし、そりゃ客入れるならオレの部屋だよなぁ」

「……ここ、君の部屋だったの?」

「あー、気にすんなオレに拒否する権利とか無いし。ネーチャンたちとは別に、オレもオマエに興味あっから」

「……僕に?」


 白く長い後ろ髪をいじりながら、獣人の女の子は僕の向かいに座る。

 この店のフリフリミニな制服を気にせずに、どかっと座るその姿に僕は少しだけ視線を避けた。


「そそ。オレもこの店に買われて一月ぐらいだが、同類見たの初めてなのよ」

「…………え?」


 からからと笑う彼女の言葉が、不意に僕の胸を締め付けた。

 まさか、と。

 彼女の、右目から口の横まで伸びるている刻まれた古傷を見て、考えないようにしていた事が押し寄せる。


「クニーガ・ムート・ギィリング。オマエと同じ、今は幸せな奴隷仲間。よろしく」

「…………っ!」


 銀色の腕輪が二つ、重なり小さく音を立てる。

 ひらひらと右手を振る彼女、クニーガの手首に巻かれていたのは僕と同じ、奴隷の証だった。

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