第6回 お題『映画』
【原文】
感想の ベクトル探って
まず無言
月夜の帰路の
手の温かさ
【現代語訳】
二人で映画を見終えて、映画館を出る。
自分が先に口火を切って感想を言うと、会話がそれをベースに進んでいってしまう。
自分は相手のピュアな感想もとても聞きたい気持ちであるのに。
だから、まずはどういったところから話し出そうか、いろいろとシミュレーションして考え込んで、無言になってしまう。
手を繋いだ帰り道を、静かに月が照らしている。
どんなに感想が違っていても、この手から感じるこの人の温かさだけは変わらない、本物の大切なものであることだ。
【解説】
これは「映画」というお題に対して寄せられた歌である。
映画そのものは歌の中に出てこないが、「映画の歌」が集められているところに並べられていることで、これが映画に関する情景をうたっていることはわかるようになっている。
感想、とあるからには、もう見終わった後なのだろう。パッと「面白かったねー!」という感想が出るのではないところは、少し解釈の分かれる映画であったのだろうか。
そして「手の温かさ」から、手が触れ合っている、もっと言えば手を繋いでいるのではないかと推測される。
「月夜の帰路」なので、夕食でも食べた後映画を見て、共に帰る二人…夫婦だろうか、恋人だろうか。手を繋いでいるのだから単純な友人関係ではあるまい。
そして「感想のベクトルを探る」ということは、もしかしたらまだ相手の好みや思想をあまり把握しきれていないのではないか。
そう考えると、付き合って日の浅い恋人同士が想定される。
その場合、あまりに相手と違った方向性の感想を出して嫌われてしまわないかを案じて探り合ってしまう、という初々しい二人が浮かび上がってくる。
もちろん、夫婦であるなら、相手の感想を尊重し、話し出すのを待つタイプの関係性なのかもしれない。
どちらにせよ、相手の感想のベクトル(方向性)を探りながらも、つないだ手は温かい⋯⋯つまり、お互いに気持ちのベクトルは向き合っている。
そんな二人の、映画デートからの帰り道。
静かで温かな情景が浮かんでくる一首だ。




