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飛脚転生 〜箱根駅伝の5区(山登り)の神、江戸の街道を現代走法で無双する〜  作者: 霧島 陣九郎
第三章 西国動乱『大坂〜萩 三十区間天下最速勝負』編

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第49話:阿武川の断崖と跳躍

【一】断崖の決意と、お蘭のからくり

落ちた明木橋の袂。激しい濁流が響かせる重厚な水音と、対岸へ走り去る霧生の高笑いが、宗吉の耳の奥で激しく渦巻いていた。

「許さねえ……! こんな汚ねえ真似で踏みにじられてたまるかぁぁぁッ!!」

宗吉は血走った眼光で阿武川を見下ろした。頑丈な木造橋は吹き飛び、激しい濁流が渦を巻いている。岸から対岸までの距離はおよそ二丈(約六メートル)。下は激流と鋭い岩盤で、人間が助走をつけて跳び越えることなど不可能な大穴が開いていた。

宗吉は右足と左足の草鞋の側面に指をかけた。そこには、お蘭が精密な歯車と南蛮渡来の特殊樹液を組み合わせて作り上げた、真鍮のツマミ(ダイヤル)が仕込まれている。

出立前、明木宿で千鶴からこの草鞋を託された際のお蘭の言葉が脳裏に蘇る。

『宗吉、この草鞋の側面にある真鍮のツマミは、反発係数を自在に変えるための仕掛けよ。回せば回すほど、地面からの跳ね返し力は爆発的に跳ね上がる。ただし……反発力を上げすぎれば、その衝撃はお前の足首や太ももの筋肉を激しく削ることになる。使いどころを見極めなさい』

「お初が流した血に比べたら……俺の脚の痛みなぞ何ほどでもねえッ!」

宗吉は躊躇うことなく、両足のダイヤルを力任せに一番奥の『最大』までカチカチカチッと回し切った!

ギシッ……と不気味な歯車音が鳴り響き、草鞋の底から足裏へ破格の硬度と反発力が伝わる。


【二】二丈の大跳躍と、死闘の追撃

「お蘭……千鶴……俺に力を貸してくれッ!」

宗吉は大きく引き下がり、助走距離を取った。体幹を真っ直ぐに保ち、全身の体重と速度を右足の踏み込みへ一点集中させる。

バンッ!! と、まるで大砲が弾けたかのような重厚な反発音が山あいに響き渡った。

最大解放された高反発のエネルギーが、宗吉の身体を空へと猛然と跳ね上げる。

「うおぉぉぉああっ!!」

二丈(約六メートル)の絶壁と濁流の空間を、宗吉の身体は風を切り裂いて滑空した。宗吉は朱色のタスキを胸に抱き、対岸の岩場へと力強く躍り着いた。

ドスンッ!

「ガあぁぁぁっ……!」

着地の瞬間、足首の骨が悲鳴を上げ、太ももの筋肉が千切れ飛ぶような凄まじい衝撃が全身を貫いた。しかし宗吉は激痛に白目を剥きそうになりながらも、止まることなく鬼神のごとき眼光で萩城下への街道を爆走し始めた。

「馬鹿な……!? 阿武川を躍り越えただと……!?」

見張っていた黒羽屋の手先が驚愕に目を見開く中、宗吉は煙を吐く草鞋で土煙を巻き上げ、先行する霧生の背中を追って突き進んだ。


【三】限界の爆走と、緊迫の同時ゴール

萩城下の目抜き通り。

茜色に染まる夕空の下、天下最速飛脚レースの最終着到場には、大勢の町人や記録係が固唾をのんで待ち構えていた。

「来ました! 先頭ですッ!」

街道の曲がり角から姿を現したのは、勝利を確信した黒羽屋のエース・霧生だった。誰もが黒羽屋の勝利を疑わなかったその瞬間——

「天下最速は……八坂屋だぁぁぁッ!!」

街道の奥から、大地を突き割るような地響きとともに宗吉が飛び出してきた。阿武川を跳び越えた宗吉が、猛烈な追撃で追いついてきたのだ。

「な……なにぃっ!? 馬鹿な、橋は落としたはずだぞ……!?」

初めて霧生が冷酷な顔を恐怖と狼狽に歪めた。あろうことか、背後に迫る宗吉の両足からは摩擦の熱で薄い煙が立ち上り、一歩踏み込むごとに踏み込みの衝撃で血が滲み出ている。

「なんだあの男は……! 脚が壊れても走る気か……!?」

霧生は己の矜持を振り絞り、血を吐くような凄まじい脚力でスパートをかけた。

残り十メートル。五メートル。

踏み込むたびに脳が揺れ、視界が真っ赤に染まる宗吉。お初の血が染み込んだタスキを握り締め、最後の気力を振り絞って身体を前へ投げ出した。

ドサッ!!

土煙が激しく舞い上がり、二つの影がほぼ同時に着到場の縄目を駆け抜け、そのまま地面へと激しく倒れ込んだ。


【四】判定の沈黙

「はぁ……はぁ……ッ!」

大の字に倒れ込み、激しい息を吐く宗吉。すぐ隣には、同じく肩を上下させて倒れ伏す霧生。

両者の鼻先は、素人目にはどちらが先だったか判別がつかないほど紙一重だった。

「ど、どちらだ……!? 八坂屋か!? 黒羽屋か!?」

「判定は!? 判定はどうなったッ!?」

群衆の怒号のような歓声とどよめきが入り混じり、着到場は騒然となった。記録係たちが血相を変えて判定の協議へと走り出す。

息の詰まるような沈黙と大どよめきが交錯する中、宗吉は土に顔を伏せたまま、血で染まったタスキを握りしめて呟いた。

「勝負の判定は……?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


落とされた明木橋の前で怒りを爆発させた宗吉!

最終着到場へほぼ同時に飛び込み、勝負の行方は紙一重の判定へ……!


果たして勝負を制したのは八坂屋か、黒羽屋か!?

「勝負の判定は……?」


次回第50話、お初との合流で明かされる黒羽屋と紫乃の衝撃の真実! 、そして宗吉と紫乃の運命の対峙!

物語の結末をぜひ見届けてください! 【評価】や【ブックマーク登録】をよろしくお願いいたします!

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