第45話:囚われの千鶴と、深山の暗闘
【一】異変と、緊迫の引き返し
宗吉たちは、宿場の中継所で千鶴の到着を待っていた。
しかし、予定の刻限を過ぎても、千鶴を乗せた早駕籠は姿を現さない。
「おかしい……いくらなんでも遅すぎる。作蔵の手当てを終えてすぐに出たのなら、もう着いていていいはずだ」
宗吉が焦燥を募らせて街道の先を見つめていると、遠くから早駕籠が猛スピードで駆け込んできた。乗っていたのは千鶴ではなく、恐怖に顔をひきつらせた駕籠かきだった。
「た、たいへんだ! 八坂屋の旦那! お千鶴さまが……お千鶴さまが山道で黒い装束の奴らに掠われちまった!」
「なにいっ!?」
宗吉の血の気が一気に引いた。勝小吉がガタリと立ち上がり、刀の柄を強く握りしめる。
「やっぱり黒羽屋の野郎どもの仕業か……! あのゲスどもめ!」
お初がすっと前に出て、地面に残された駕籠かきの証言と街道の足跡を鋭い目で見つめた。
「宗吉殿、勝様。黒疾風のやり口です。備後路の旧道にある廃寺か山小屋へ連れ去られたに違いありません。走者の介抱は宿に任せ、私たちはすぐにお千鶴殿の救出へ向かいましょう!」
「ああ……待ってろよ千鶴! 絶対に助け出す!」
宗吉たちは一刻の猶予もないと判断し、千鶴が掠われた深山へと馬を躍らせて引き返した。
【二】廃寺の危機と、千鶴の気概
一方、人里離れた深山の打ち捨てられた廃寺。
冷たいお堂の床に縛り上げられた千鶴の前で、「黒疾風」の刺客たちが不気味な下衆笑いを浮かべていた。
「へへへ、八坂屋の小娘め。綺麗な顔をしてやがるじゃねえか。当主の成三様からは『痛めつけて宗吉の心を折り砕け』とお言いつけだが……その前に、俺たちでたっぷり可愛がってやろうぜ」
刺客の一人が下品な手つきで千鶴の着物の胸元へ手を伸ばそうとした。
千鶴は恐怖で身体を震わせながらも、凛とした強い眼光で男を睨みつけた。
「無礼者! 私に触るんじゃないわ!」
「ケッ! 強がりやがって。手足を縛られて何ができるってんだ!」
「私は八坂屋の蘭学医です! 命を削って走る飛脚たちを支えるのが私の誇り……あなたたちのような、人の命を道具としか思わない卑劣な悪党に屈すると思うの!?」
「うるせえ! 威勢がいいのも今のうちだ!」
男が力任せに千鶴の肩を押し倒そうとした、その時だった。
【三】突入の響きと、疾風の追撃
バリィッ!!
お堂の古びた扉が重い衝撃音とともに粉々に吹き飛んだ。
「そこまでだ、ドブネズミどもッ!!」
怒号とともに躍り込んできたのは、刀を構えた勝小吉と、手に鉄扇を握りしめたお初、そして息を荒らげた宗吉だった。
「宗吉……! 勝様、お初さん……!」
千鶴の目に涙があふれ出た。
勝小吉がギラリと白刃を抜き放ち、冷酷な笑みを浮かべる。
「おいおい、手弱女一人の尊厳を踏みにじろうたぁいい度胸じゃねえか。この勝小吉の刀が、てめえらの腐った性根ごと叩き斬ってやるぜ!」
「宗吉殿、千鶴殿の縄を! 雑魚は私と勝様で片付けます!」
お初が風のごとく身を躍らせ、刺客たちの懐へと飛び込んだ。
危機一髪のところで駆けつけた宗吉たちと仲間たちが、暗闇の廃寺で一閃する。千鶴を救い出し、黒羽屋の卑劣な企みを粉砕するための死闘が、ここに幕を開けたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
備後路の廃寺に閉じ込められ、乱暴されそうになる危機に陥った千鶴!
しかし、間一髪のところで宗吉、勝小吉、お初の三人が突入し、救出へ向けて立ち上がりました!
次回第46話、千鶴救出と、宗吉との深い絆の再確認!
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