第43話:姫路城下の混迷と、第8区の逆転
【一】第八区の罠と、黒羽屋の逆転
大坂を出発して初日の夕刻。兵庫宿や須磨の海岸線を破り、首位を快走してきた八坂屋のタスキは、第一日目の最終目的地である第八区『姫路城下』へと持ち込まれていた。
「あともう少しで姫路の宿場だ……! このまま一番手で飛び込んでやる!」
第八区を担当する八坂屋の飛脚・作蔵が、城下の石畳を力強く蹴り上げる。
だが、宿場まであと数町という細い路地に入ったその時だった。
前方の曲がり角から、暴走した大八車と荷がガラガラと音を立てて崩れ落ち、道を完全に塞ぎ取った。
「うわっ……!? 危ねえッ!」
作蔵が急ブレーキをかけた瞬間、物陰から飛び出してきた黒羽屋の手先である荒くれ者たちが、通りすがりの群衆を装って作蔵に取りつき、力任せに押し倒した。
「おいおい邪魔だぜ! どきやがれ!」
「くっ、放せ! 卑劣な真似を……!」
足を掴まれ地べたに組み伏せられた作蔵。その横を、阿片の劇薬で身体を強張らせた黒羽屋の第八区走者が、血走った目で高笑いを上げながら疾風のごとく抜き去っていった。
「ハハハ! 間抜けめが! 姫路の1位通過は黒羽屋がいただいたぜ!」
首位を奪われ、着差のリードすら一気に逆転される絶体絶命の危機が八坂屋を襲った。
【二】早駕籠の駆けつけと、勝・お初の無双
「作蔵ーッ!!」
そこへ、馬と早駕籠を乗り継いで街道を急行してきた宗吉、千鶴、勝小吉、お初の四人が間一髪で現場へ駆けつけた。
組み伏せられている作蔵の姿を見た宗吉の目が怒りに見開く。
「黒羽屋の奴ら、人混みに紛れて直接妨害しやがったな……!」
「作蔵さんに手を出すなッ!」
真っ先に飛び出したのは勝小吉だった。腰の刀を抜き放つやいなや、一瞬のうちに峰打ちで刺客たちの腕と足を叩き折った。
「ぎゃあああッ!?」
続いてお初が軽やかな身のこなしで風のごとく舞い、残りの刺客の胸元へ鉄扇を叩き込んで一瞬で沈めた。
「作蔵殿、お怪我はありませんか!」
お初に助け起こされた作蔵は、悔し涙を浮かべながら叫んだ。
「す、すまねえ宗吉……! 黒羽屋の野郎に抜き去られちまった……!」
「謝るな作蔵! お前が命がけでここまでタスキを運んでくれたんだ!」
千鶴が素早く駆け寄り、作蔵の擦りむいた膝と足首に手早く薬を塗り込み、特製の滋養水を口に含ませた。
【三】逆転を許した姫路の夜
千鶴の手当てと宗吉たちの支えを受け、作蔵は激痛に耐えながら最後の力を振り絞って姫路の中継所へ飛び込んだ。
「第九区ッ……追ってくれッ!」
「任せとけええっ!」
タスキは無事に第九区へと繋がれたものの、第一日目のゴールである姫路宿の計測結果は、惜しくも黒羽屋に僅差での逆転を許す形となった。
翌朝の二日目スタートは、黒羽屋が先頭で出立し、八坂屋はタイム差の分だけ遅れて追走する「時差発走」を余儀なくされる。
姫路の宿場で手当てを終えた宗吉は、悔しさに拳を握りしめ、力強く言った。
「相手が卑劣な手を使ってきたのは、それだけ俺たちの走りを恐れている証拠だ。明日からの備前・岡山路で、絶対に抜き返してぶっちぎるぞ!」
宗吉の目が再び炎を取り戻した。
……だが同じ頃。姫路本陣の闇の中で、黒羽屋の当主・成三が冷酷な笑みを浮かべていた。
「くくく……甘いな八坂屋。明日の備後路で、本当の地獄を見せてやる……」
成三の暗い眼光の先で、千鶴の命と八坂屋の絆を狙う最悪の罠が、静かに爪を研ぎ澄ましていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第八区・姫路城下での卑劣な妨害により、惜しくも首位を黒羽屋に奪われてしまった八坂屋!
しかし、宗吉たちの激励でチームの絆はより一層固く結ばれました。
次回第44話、二日目での激闘! そして備後路で千鶴に迫る黒疾風の最悪の影!
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