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飛脚転生 〜箱根駅伝の5区(山登り)の神、江戸の街道を現代走法で無双する〜  作者: 霧島 陣九郎
第二章 京の陰謀編

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第24話:木曽路の卑劣な罠と、大津宿に忍び寄る刺客の影

(千鶴の奴……レースが始まる前から、ここまで見越して手配してくれていたのか……!)

碓氷峠の旅籠の一室。宗吉は冷やし手当ての氷水に足を浸しながら、千鶴の圧倒的な先見の明に胸を打たれていた。

手のひらにあるのは、江戸を出る際に千鶴から渡された『公儀御用手形』。

幕府大目付・水野伊豆守景時より千鶴へ予め極秘裏に託されていた公文書である。

「碓氷峠の激坂を走り切って無傷で済むはずがない」と踏んでいた千鶴は、レース開始前、八坂屋ゆかりのこの宿にあらかじめ手配を済ませていたのだ。氷水による手当て、高濃度の補給食、そして宿の親方へ託された公用馬の手引き――。

だが、宗吉が馬を駆って急ぐ理由は、単なる移動のためだけではなかった。

手当てを受けながら、宗吉の脳裏には冷徹な戦略的計算が巡っていた。

(後半戦、ウチの走者たちは完璧につないで首位を独走してるはずだ。そうなれば、追い詰められた嶋屋や隠密の榊どもはどう動く……? まともに走っても勝てねえと分かれば、最後になりふり構わない暴挙に出るに決まってる。狙われるとしたら、京の直前――最終中継所である『大津宿』だ!)

アンカー・辰吉の体調ケアと最終調整。そして、万が一敵の妨害で事故が起きた際、「控え走者」として即座にたすきを引き継ぐための代走体制。何より、仲間を刺客の牙から守るため――。

「千鶴は大津宿にもケアの手配を仕込んで京へ向かってる……。俺は大津でみんなを迎え、何が起きてもたすきを京へ届けるッ!」

補給食が血肉となり、氷水で冷やした脚に再び爆発的な熱が戻ってくる。宗吉は御用手形を懐に押し込むと、勢いよく宿を飛び出した。

「親方、馬は!?」

「おうッ、準備万端だ! 千鶴様の書状を見せたら、伝馬所の役人が一番の駿馬を出してきたぞ!」

宿の前に繋がれた荒々しい息を吐く公用馬。宗吉はその背へ一気に飛び乗ると、手綱を強く引き絞った。

「待ってろよみんな……! 俺たちのたすき、絶対に大津で受け取るッ!」

馬の腹を強く蹴ると、甲高いいななきと共に漆黒の街道へと躍り出た。

力強い蹄の響きが夜の山々にこだまする。時速三十キロを超える疾風のごとき乗馬移動。

宿場ごとに疲れを知らない新鮮な馬へと乗り換え、関所も御用手形一つで一切の足止めなしに突破する。地元の馬方が知る山腹の抜け道を駆け抜ける宗吉は、街道を走り繋ぐ仲間の速度を遥かに上回るスピードで、闇の中を先回りしていく――!

――その頃。

中山道屈指の難所・木曽路では、八坂屋の叩き上げベテラン飛脚・勝蔵かつぞうが、浅葱色のたすきを胸に結んで山坂を力強く踏み破っていた。

「へっ……宗吉の言った通りだ! 登りは歩幅を狭めて細かく足を動かし、下りは体重を前に預ける……! 驚くほど足が前に進むじゃねえか!」

かつて足の故障で飛脚を諦めかけた自分を、現代走法とコンディショニングで救ってくれた宗吉への恩義。七区の連次から首位でたすきを受け取った勝蔵の走りは、まさに鬼神の如き冴えを見せていた。

だが、木曽路の険しい急カーブに差し掛かった、まさにその瞬間――。

「くくく……八坂屋め、崖下へ落ちて消えろ」

暗がりで刺客が不吉にせせら笑う。路面一面にドロドロの油が撒かれ、さらに鋭利な黒い撒き菱が隙間なく敷き詰められていた!

「ぬッ……!? うわッ、油と撒き菱かよッ!?」

踏み込んだ右足が一瞬ズルリと流れ、勝蔵の顔が引きつる! 最高速で突っ込んだ身体がバランスを崩しかけ、死の滑落が頭をよぎった。

(しまっ――)

――ガチッッ!!

滑りかけた足裏に、狂いようのない確かな手応えが戻った。

「なに……!? 滑らん……だと!?」

物陰の刺客が目を見開く。

勝蔵の履く草鞋は、源造親方がミリ単位で削り出した『厚底・滑り止め草鞋』だ。分厚い竹皮の草鞋底が撒き菱の針を完全に弾き返し、特殊な編み目が油を切り裂いて地面をガチリと噛み砕いていた!

さらに、宗吉から叩き込まれた「体の真下に足を落とす」完璧な着地軸が、横滑りの力を一瞬で前への推進力へと変える!

「甘えんだよ、嶋屋ァッ! 俺たち八坂屋の絆と、親方の草鞋を舐めるんじゃねえぞ!!」

一瞬のヒヤリを打破した勝蔵は、足裏の力強い踏み応えを噛み締めながら、雄叫びと共に激坂を蹴り飛ばした。

呆然と立ち尽くす刺客たちを置き去りにし、八坂屋の浅葱色の風が木曽路の闇を圧倒的な速度で駆け抜けていく!

その後も八坂屋の若手飛脚の激走の甲斐があり、首位を完璧に死守したまま、たすきは近江路へ。

チームの想いは、いよいよ最終ゴール手前の大津宿へと繋がれようとしていた。

――しかし。

京の手前、最終中継所である「大津宿」。

たすきを待ち、都へのウイニングランを飾るべく待機していた最終走者アンカー辰吉たつきち

その辰吉が待機する暗い旅籠の背後に、追い詰められてなりふり構わなくなった幕府隠密・榊の手下たちが、ドス黒い殺気と刀の冷ややかな光を孕んで、静かに忍び寄っていた――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


水野様から千鶴へ極秘裏に託されていた「公儀御用手形」!

千鶴の手配と、宗吉自身の「敵の焦りと大津宿での罠の危険性」を見抜く鋭い分析により、宗吉は「継馬移動」で爆速の馬を駆り大津宿へ向かいました!


一方、8区の木曽路ではベテランの勝蔵かつぞうが、嶋屋の「油&撒き菱」の卑劣な罠に一瞬足元をすくわれかけるも……源造親方特製の「厚底・滑り止め草鞋」と軸意識で見事グリップ! 圧倒的な無双で首位をキープし、たすきは9区へ!


しかし……物語はいよいよ最終中継所・大津宿で最大の「谷(試練)」へ!

待機するアンカー・辰吉の背後に、忍び寄る不穏な刺客の影と刃の光――!?


「宗吉の危機管理意識が高すぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下の【ブックマーク登録】や【★★★★★評価】で応援していただくと大変励みになります!


次回、第25話(大津宿の惨劇&宗吉の緊急代走登板へ!)もどうぞお楽しみに!

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