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飛脚転生 〜箱根駅伝の5区(山登り)の神、江戸の街道を現代走法で無双する〜  作者: 霧島 陣九郎
第二章 京の陰謀編

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第22話:夜闇を裂く風、託された浅葱の祈り

「ばかな……あり得ん! 追いつけるわけがないッ!」

背後から迫る圧倒的な気配に、嶋屋の飛脚は金縛りに遭ったかのように戦慄していた。

先ほどまで崖の上で刺客に追い詰められ、無力に跪いていたはずのお初。

それが今、二の腕の傷から血を滲ませながらも、風そのものと化した爆速の足さばきで肉薄している。

「嶋屋ァッ! 宗吉さんが繋いでくれた八坂屋のたすき……ここで抜き去るわッ!!」

お初の叫びが夜闇を突く。

前傾を深く保ち、骨盤の引き上げから生まれる凄まじい推進力。お初は息を呑む嶋屋の飛脚の横を、圧倒的な速度差で一瞬にして突き抜けた。

「なにィッ!?」

置き去りにされた嶋屋の飛脚が絶叫するも、すでにその背中は遠い。

重力を推進力に変える現代下り走法と真田のしなやかさ。二つの融合した疾走が、夜闇の宿場町へと一直線に躍り込んでいく。

前方に広がるのは、終着点――宿の中継所だ。

「おい、来たぞ! 嶋屋だろ!? いや……待ちやがれ、ありゃあ……!」

沿道でかがり火を焚き、飛脚たちの到着を待っていた観衆からどよめきが巻き起こった。

暗がりを切り裂いて特設中継線へ飛び込んできたのは、胸に浅葱色のたすきを固く結び、二の腕に貼り薬を貼ったお初だった。

「八坂屋だァッ! 八坂屋が、一番手で軽井沢へ飛び込んできたぞッ!!」

宿場中に響き渡る大歓声。

中継線で待機していた次の走者――箱根で夜間走行を経験した八坂屋のベテラン飛脚・連次れんじは、ニヤリと力強く笑った。

「お初……! 宗吉の教え通り、土壇場で逆転してくれたな……ッ!」

お初は乱れる息を整える間もなく、胸元から浅葱色のたすきを疾風のごとき動作で解いた。

宗吉が血を流しながら手渡してくれた、想いの詰まった布地。

そこには宗吉の血と汗の匂い、千鶴の薬の香りに加え、過酷な山登りを制した宗吉の『執念の温度』が、いまなお色濃く残っている。

「連次……さん! 宗吉さんが命がけで繋いだ一番……頼んだわ……ッ!」

「任せときな! 宗吉から叩き込まれた後半加速の走りと、冷えを制する走り……この連次が、八坂屋の首位を絶対に守り切ってみせるッ!」

たすきを受け取った連次は、八坂屋のエースたる誇りを胸に前傾姿勢から力強く地を蹴った。

歓声の中、浅葱色の風となった連次は、月光が照らす次なる難所――下諏訪宿へ続く信州路の闇へと爆走を開始した。

「連次さん……行けぇッ……!」

たすきを渡した瞬間、お初を支えていた緊張の糸がプツリと切れた。

二の腕の激痛と全身の疲労が一気に押し寄せ、お初は膝から土の上へと崩れ落ちる。

「――見事だ、お初」

倒れ込むお初を優しく抱き止めたのは、茶屋の店員に扮した重厚な佇まいの男だった。

その無駄のない動作と深みのある眼光に、お初はかすれた声を漏らす。

「……父上……!?」

街道に潜んでいたのは、他でもない信州・真田忍び衆の頭領――お初の父親だった。一族の姫であるお初が八坂屋の走者として覚醒していく様を、親として影からずっと見守り続けていたのだ。

頭領は手際よく竹筒を取り出すと、一族特製の気付け湯をお初の唇に含ませ、傷口を圧迫して手当てを施す。

「忍びの務めとしてではない……我が娘として、我が一族の走者として、誇らしい走りであったぞ」

「……父上……」

父親の温かい掌の感触に、お初はそっと涙を溢れさせた。

遅れて、息も絶え絶えになった嶋屋の飛脚が中継線へ崩れ込む。

「はぁ……はぁ……八坂屋が……先に……そんな……ばかな……」

絶望に顔を歪める嶋屋の飛脚。

だが、お初が安堵の息を吐き、連次が首位で飛び出していったその裏で、暗がりから冷酷な視線を注ぐ影があった。

退散したはずの幕府隠密・榊の手下が、不吉な笑みを浮かべて闇へ溶け込んでいたのだ。

「くくく……浮かれるのもそこまでだ、八坂屋」

手下の視線の先、連次が向かう下諏訪への道は、秋とはいえ標高一千メートルを超える高原地帯。夜が深まるにつれ、身を刺すような強烈な冷気と山風が体力を急激に奪う過酷な難所だ。

「碓氷を越えたとて、次の諏訪街道は身も凍る激冷えの闇……。そこに嶋屋が仕掛けたさらなる暗躍が重なれば、あの男も八坂屋のたすきも、二度と浮かんでは来られん」

月光すら届かぬ暗黒の街道へ、不吉な殺意と罠の気配が静かに忍び寄っていた――。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


嶋屋を鮮やかに抜き去り、宿に飛び込んだお初!

真田忍び衆の頭領(お初の父親)との温かい絆の裏で、舞台は寒冷な信州路・諏訪街道への後半戦へ……。


しかし、連次を待ち受けるのは、秋の信州路の冷気と、嶋屋・榊側の卑劣な暗躍の罠――!

どう立ち向かうのか!?


「お初ちゃん本当にお疲れ様!」「罠に負けるなー!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページ下の【ブックマーク登録】や【★★★★★評価】で応援していただけると大変励みになります!


次回、第23話もどうぞお楽しみに!

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