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飛脚転生 〜箱根駅伝の5区(山登り)の神、江戸の街道を現代走法で無双する〜  作者: 霧島 陣九郎
第二章 京の陰謀編

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第19話:偽りの刃、誠のたすき

「死ね、八坂屋ッ!」

碓氷峠の頂上付近。山道の迂回路を破り満身創痍の俺――宗吉の前に、三人の刺客が立ちふさがっていた。信州の山奥に潜む本物の暗殺集団『真田の忍び』の本隊だ。

冷酷な小太刀が、体力を使い果した俺の首元へ一斉に振り下ろされる。

目と鼻の先には中継所が見えているというのに――!

(くそっ……ここまで来て……!)

「――宗吉さんに手を出すなッ!」

霧を切り裂く叫びとともに、影が頭上から舞い降りた!

鋭い蹴りが刺客の顔面を直撃し、巨体が吹き飛ぶ。6区の走者として待機していたお初だった!

お初は手縄と小刀を自在に操り、神速の動きで刺客の刀を受け流していく。

(速い……! すごい体術だ!)

「出しゃばるなと言ったはずよ!」

お初の手縄が小太刀を叩き落すと、間髪入れぬ掌打が二人目の顎を撃ち抜く。

……だが、この寸分狂わぬ立ち回りこそ、お初と忍び衆があらかじめ示し合わせていた筋書き(狂言)だった。八坂屋の信頼を勝ち取るため、お初が傷を負いながら宗吉を救う自作自演――。

最後の一人が、打ち合わせ通りお初の上着の襟元を斜めに切り裂く。二の腕に浅い傷が走り、破れた衿の隙間から華奢な鎖骨と白い肌が少しだけ覗いた。

「しまっ……! お初ッ!」

芝居だと知る由もない俺は、お初に向かう刃を見るや本能的に割り込んでいた。

「え……!? 宗吉さん……!?」

お初が目を見開いた瞬間、冷たい刃が俺の腕を浅く切り裂く。俺は痛みに歯を食いしばりながら全力を振り絞り、最後の刺客へ体当たりを見舞って崖下へ突き落とした。

山道に静寂が戻る。お初は血を流す俺の腕を見つめ、呆然と立ち尽くしていた。

(私が傷を負う手筈だったのに……なんでこの人が庇って血を流しているのよ……!?)

お初は必死に冷ややかな顔を作ろうとした。

「……勘違いしないでください。八坂屋の走りを邪魔されたから叩き伏せただけです」

震える声で偽りの冷たさを装うお初。だが俺は自分の腕の血など見向きもせず、膝をついたまま歩み寄った。

「無事かお初……! 怪我はなさそうか……?」

「っ……自分の腕から血が出ているじゃないですか……!」

「こんな傷、大したことねえ。俺のことは気にせず行け……! それよりお前だ」

自分の身を削ってまで案じてくれる真っ直ぐな温度。「俺のことは気にせず行け」と背中を押す男の熱に触れ、お初の胸が痛いほどに締め付けられた。

(私、あなたを騙しているのよ……!? なんで自分を投げ打ってまで私を守るのよ……!)

忍びの計算も偽りも打ち砕かれていく。だが次の瞬間、俺の視線がお初の破れた襟元――そこから覗く白い肌へと落ちた。

「っ……!」

一瞬、俺はお初の肌に気づいて息を呑み、慌てて視線を横へと泳がせた。耳のあたりを赤くしながら、胸元から手ぬぐいを取り出し、千鶴の『特製の貼り薬』と浅葱色のたすきを一緒に差し出した。

「……手ぬぐいで血を拭いて、千鶴の貼り薬を貼ってくれ。それと……このたすきで上着の襟元を隠すように結ぶといい。俺の傷は自分で縛る……だからお初、俺のことは気にせず行け! たすきを次の宿場へ繋いでくれッ!」

「……あっ」

宗吉が何に気づいて目を逸らし、自分の怪我を押してまで言っているのかを悟った瞬間、お初の頬がぽっと朱に染まった。慌てて襟元を抑え、気まずそうに薬とたすきを受け取る。

(バカな男……。欺いている私に、命がけで守って……俺のことは気にせず行けだなんて、なんでそこまで真っ直ぐなのよ……)

胸の奥で切ない熱と罪悪感が激しく渦巻く。

(……嘘の傷に、この人は本気で血を流して守ってくれた。なら……この走りだけは、絶対に偽りにしない!)

お初は手ぬぐいで傷を拭うと、千鶴の貼り薬を二の腕に貼りつけた。そして破れた襟元を隠すように、浅葱色のたすきを胸元で綺麗に結び直した。

仲間たちの想いが染み込んだ温かい布地が、お初の肌と心を包み込む。

お初は引き締まった瞳で見つめ返した。

「……ありがとうございます、宗吉さん。私、絶対に一番で次の宿場へ届けてみせます!」

「頼んだぞ……お初!」

たすきを結び直したお初は、手傷も気まずさも吹き飛ばす圧巻の脚力で、信州路へ爆走を開始した!

風を切るお初の横顔には、密偵の計算などなく、確かな情熱と八坂屋の走者としての誇りが宿っていた。

「いけぇぇぇッ、お初――ッ!」

俺は膝をつき、自分の腕の傷を手ぬぐいで縛りながら、霧の彼方へ消えていく浅葱色の風を見送るのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

自作自演の芝居の最中、自分の身を投げ打ってお初を庇い血を流した宗吉。「俺のことは気にせず行け!」という宗吉の熱い一言に、お初は「この走りだけは偽りにしない」と浅葱色のたすきを胸に信州路へ飛び出します……!

「面白い!」「宗吉熱すぎる!」「お初ガンバレ!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【ブックマーク登録】と【★★★★★評価】で応援していただけると大変励みになります!次回もお楽しみに!

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