ぐみの実の訓練場 ─7─
逃げ惑う訓練場の兵士達。中には、一般庶民も混ざっている。
蓮は居合わせたアリスと共に、武器を手にすると、大小様々な魔物達を、退治した。甲冑姿の兵士達も、慌てずに、対処している。
しかし、きりが無い。
斬っても斬っても、魔物達は、魔方陣から、沸いてくる。
これは、終わりが見えないな。
瞬時に判断した蓮が、とんっと、舞台に上がると、光り輝く『陣』に、鉄剣を、振り翳した。
バキンと、鈍い音を立てて、魔方陣が、木っ端微塵に、砕け散った。
溢れ出ていた、獣の姿に扮した魔物達は、ある程度、駆逐したが、やはりと言うか、死傷者は出た。
ここの地下訓練場に、派遣された、回復術士の、咲宮円が、鮮やかに対応すると、蘇生は無理だが、怪我人は、治していった。
不穏な、空気。
血の匂い。
動乱と焦燥感。
くそっ! どうなっているんだ!!
外に、出られないぞ!
階段を上がり、一階に逃れようとする者達が、見えない、『悪意』ある『結界』に、阻まれている。
道理で。
この騒ぎの中、オーナーの真のぞむが、来られない筈だ。
そもそも、この、ぐみの実のマンション(宿泊施設でもある)住んでいる者もいるが、に、『二重結界』が、施されている。
蓮が、舞台の奥に居た、人物に、視線を向けた。
灰色の着物に、茶色の帯。
メロンイエローの瞳をした青年が、静けさを、保っている。
「思えば、ちょくちょく、この場所で、お見かけしてましたね? 改めまして、私は、春日蓮です。貴方は?」
「……何だ。とっくに、面が、割れていたのか。目敏いね。いや、流石と言うべきか。……紺たからだよ。宜しくね」
柳色の長い髪に、鮭色の肌。
冷めた口振りのたからは、どこか、ゆとりがある。……この状況を、楽しんでいる。何とも、悪趣味だ。
「君の近くに居るのが、早瀬アリスだよね。お噂はかねがね。君達は、あの院の子供だもの、ね」
充分な含みを持って言われ、蓮が、あからさまに、不機嫌になった。
「うるさいな。なら、知ってて、手出しをするんですか? は。暇人ですね」
苛立つ蓮に、たからは、一切、反応はしない。ひたすらに、無表情だ。
「その辺の石ころを蹴ったくらいで、怒るなんて、はっ、慈悲深くていらっしゃる。そもそも、私の目的は、『皆殺し』だから」
たからが、手を翳すと、縦横無尽に、灰色の魔方陣が出現し、獣の唸り声が、そこかしこで、聞こえた。
させるかと、蓮が、眼にも止まらぬ速さで、空中に飛び散る『陣』を、ジグザグ走行で、粉砕した。
くるっと、空で回ると、もう片方の『棍棒』で、魔物を、蹂躙した。
アリスも、続いている。
追随したアリスが、鉄剣で、動物の形をした、魔物達も、斬り捨てた。その速さは、数分を切っている。達人だ。
「へぇ……。あくまで、邪魔をするんだ?」
拍手喝采のたからは、唇を、優雅に、ゆるめている。
「たくっ。君達が、強いのは、認めるよ。でも、蓮の方は、体力切れ、……かな?」
疑問符をたびたび、口にしてきた、たからが、呼吸の荒くなってきた蓮を、本当に、心配している。
「可哀相に……。まだ訓練して間も無いのに、たくさんの魔物を相手にするのは、至難の業、だよね。そうしてる間にも、みんな、死んじゃうよ?」
バキッと、噛み砕かれる音が響く。
続く断末魔。
たからは、魔物達を、遊び感覚に、ほいほい、空中に壁に地面にと、出している。灰色の魔方陣は、際限無く、生まれている。
人の数は減り続け、死者の数が、増えてきた。
……今が非常に、ヤバイ状態である事は、疲労困憊の蓮にも、分かっていた。
近寄ってきた、円の力を借りて、体力を回復させると、蓮が、俊敏に地を蹴って、陣を叩き割り、無数に湧き出た魔物達の、頭を、潰した。
キッと、足音を、舞台袖のたからの真横で止めて、その首元に、鉄剣を、押し当てた。
瞬間、たからは、諦めた風に、両手を挙げた。……まだまだ、油断は出来なかった。
たからから、『戦意』は、消えていない。




