表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/30

美術館と清掃員-7-


夕暮れの赤がとてもまぶしい。

足の折れた渡柳華わたりやなぎはなが、重たいまぶたを少し開いた。


ほっぺたも片方、れている。


窓辺まどべに、今は居ない、宮須みやすアンナの気配を感じて、華が、ドキリとした。


薄い桃色のふわふわの長髪。

無邪気な金の瞳に、白い肌。


アンナははびっくりするぐらいに、華奢きゃしゃで、笑顔の愛らしい、少女だった。


アンナに名前を呼ばれただけで、華の心臓は、いちいち、ね上がった程だ。


好きだ。

……好きだった。


首筋に当てられた、刃物に、華は顔色一つ変えず、視線だけ、彼と合わせた。


「お前は、誰だ? ……ですか? と、言うべきかな」


病室の中には、看護師も医師もいない。

突如とつじょあらわれた彼が、気絶でも、させたのか。


……血の匂いはしないから、手荒な事は、起こしていない様だ。


「渡柳 華。君はそもそも、かの者の『奴隷』として、出荷される、筈だった。だが、それを邪魔した人間がいる。……宮須 アンナだよ」


ベッドの端に座った彼が、クスリとあざけた。


「もっとも、死んだら、意味は無いけどね」


アンナを侮辱ぶじょくする彼を、ちのめしてやりたい! 


だが、今の華には、無理だった。

唇や指先を動かすのが、せいぜい、だ。


「よって、君は、『るべき』場所へ、行くべきだ。喜んで良いよ? 無力な君を、連れてってあげる」


赤ピンクの眼をした、彼は、いとも容易たやすく、残酷な言葉を、言い切った。


「はっ、絶対、嫌だね! オレにも尊厳そんげんがある。見ず知らずの赤の他人に、身をゆだねてなるものか!!」


かたいベッドを激しく、きしませると、華が、たけだと々しく、怒号どごうした。


強がりはせとばかりに、彼が、やいばを、華に振り落とした。


ドンッと、猛烈もうれつな勢いで、彼に、突進したのは、虚空こくうから出現した、白い狼だった。


「……院長のけものが、守ってくれたの、か?」


どうにか、腰を上げた華が、彼に飛び掛かる、白い狼を、じっと見た。


墨色の短い髪を、左右に揺らすと、彼が、真っ黒い刀を取り出した。


まがまがしい気配を感じる。


灰色の煙が、彼から立ち上がり、病室に一気に、立ちめた。


げぼっと、華が、大量の血を吐いた。


毒。

毒だ。……これ。


微笑みをたたえる彼は、地に落ちた、白い狼の頭を、容赦ようしゃ無く、踏み付けた。


刀に毒を仕込んでいたのか。

ヤバイ。

本格的に、……意識が。


こんなところで、人生が、終わるのか。

強者に好きな様に、扱われて。


眼を閉じたら、アンナに会える?


……そんなの、情けないにも、程がある。


華が、アンナからたくされた、いくつかの薬の内、一つを、口にした。


アンナは、きっと、死ぬまであんじていたよな。


『仲間』を。


ほんのいっとき、解毒剤と痛み止めの効果で、華が、ベッドから落ちると、いつくばって必死に、白い狼をかばった。


何度も彼から蹴られても、華は、ひるまない。


白い狼が、息もえに、華と、眼を合わせた。


「……契約? お前と、か?」


頭に浮かぶ、いや、聞こえて来る『声』に、華は、なしくずし的に、おうじた。


瞬間。否。刹那。


目まぐるしい風が、彼を包み込み、壁に、激しく、打ち付けさせた。


壁は幾つも砕け、彼が、口から血を流し、肩を押さえている。


白い狼は、銀に変化し、銀狼ぎんろうになった。進化した事で、毒を、打ち消している。


「はぁ、銀狼だと! 何で二体目の『聖獣』が、したんだよ!!」


態勢を立て直し、襲い掛かってきた、彼を、銀狼が、鋭い大きな爪で、返りちにした。


突風が、巻き起こると、彼を渦に巻き込み、窓の外へ、放出した。


木っ端微塵の窓ガラス。破片が、内に、外に、散乱さんらんしている。


「……あはは。凄いね、君。ん? 名を付けて欲しいって? ……そうだね。君は、『かな』だ。渡柳 奏。どうかな?」


床に尻もちを付けたまま、満身創痍まんしんそういの華に、銀狼が、近寄ると、小さく、ひと鳴きした。


何時の間にか、白い狼の姿に、戻っている。


病室の空気が、み渡ると同時に、病室に、蓮が、入ってきた。


白い狼を目にした蓮は、

『もう一度、会える』の、彼女の言葉を、

ふと、思い返した。


気絶した華に、寄り添うと、蓮が、眠りから覚めた看護師達を、何度か、呼んだ。


深い眠りの中、華は、白い狼、銀狼の中に、以前、助けた『少女』の姿を、重ね合わせた。


少女は確か、平賀歌ひらがうたと、名乗ってくれた。


何故なぜだか、少女の面影が、チラついて、華は、物悲しくなり、涙した。


華の知らないところで、もう一人。

罪無き少女は、命を、落としていた。


宮須 アンナに、続いて。


悪意の『毒』に、飲み込まれたのだ。

すべも無く。


だけど、二人目の少女は、ある『目的』を果たした。

 

恩人の側に、ずっと居る。


歌は、『奏』として、願いを叶えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ