第51話 逆転
「残念ですがここまでですね」
アルベルトは無防備に俺に近づいてくる。きっと止めを刺すつもりなのだろう。俺は最後の力を振り絞って両腕で斧を振りかぶる。その大きさはキャンプで使い慣れた愛用の斧と同じくらいに縮めたので、肉体強化の解けた俺でも持ち上げられた。
「思った以上でした。健闘を称えさせていただきます。十分に観客にはあなたという側近を従えたオベリスク様の偉大さはアピールできました。後は私に任せてもうあきらめてください。先ほどはああ言いましたが、私が後であなたを蘇生させていただきます」
アルベルトは俺の耳元でそうささやいた。
「必殺技って知ってますか?」
俺はアルベルトにそう返した。
「カタストロフィア~ックス!!!」
渾身の力を込めて俺はそう叫びながら斧をアルベルトに向かって振り下げた。薪割だけは得意なのだ。しかし斧はアルベルトに物理的な傷を負わせることなく、その刃先は地面に突き刺さった。色々な意味で会場はシーンと静まり返っている。
物理的には体に傷はつけられなかったはずなのに、アルベルトの体は白く輝き始めた。
「驚いた!これは呪いの一種ですね。攻撃力も何も関係ない。相手との魔力差をダメージに変換するんですか……確かにこれは必殺技だ……」
* * * * *
気が付くと俺はベッドの上に横たわっていた。枕元にはオベリスクが座っている。その後ろにはヘジテとナーガもいて心配そうに俺の事を見ている。
「あ、蘇生してくれたのかな?」
「違いますよ。相打ちです」
三人とは逆側から声がした。そこにはアルベルトが立っていた。
「てっきりオベリスク様が転生されたのかと思い、ならばマーダー様に協力してそのお考えを諫めるつもりでした。オベリスク様がお帰りになられて安心しましたが、もとより魔王にはなられたくない事は存じておりました。……それでも私はオベリスク様に魔王になって頂きたかった。それなのにあのようなお顔を見せられては……オベリスク様を魔王という役職に縛るのはいけないなと思い至ってしまったのです。だから本気で戦わせて頂きました。しかしまさか相打ちになるとは思ってもみませんでしたよ」
「それはありがたい話だな。しかし相打ちなんて前代未聞だからこの後どうするんだろうな? ラファエルは経験は浅いがやる気は十分だしバランス感覚に優れている。これからはああいうやつが魔王をした方がいいと思うんだけどな」
オベリスクが言った。
「そうですね。私とケンロー殿は相打ちという事で今回の魔王決定戦は棄権という事でも道理は通るかと思います。マーダー様には申し訳ありませんが……」
「マーダーのヤツにも少し人族の文化の良さなんかを見せてやった方がいいんだろうな。優れているものが支配するなんて事では、どうにもつまらない。大体何をもって優劣を決めるんだ」
オベリスクが言った。
「それでオベリスクはこれからどうするんだい? もう魔王にはならなくて済んだんだろう?」
俺はオベリスクに聞く。
「そりゃーあそこに帰ってキャンプの再開だろう。まだカレーとかいうやつも食べていないしな。もう少しテントの数も増やしてラファエルやマーダーも招待しよう。もちろんアルベルトもだぞ。なぁヘジテも弟子が育っているなら、もうここはいいだろう? 城の事なんか弟子に任せてテントを作ってくれよ」
「丁度引退を考えていたところなので、ありがたいお誘いですな。まぁ儂の腕をもってすればテントを量産するなどたやすい事でしょう。構造の方は大体頭に入っております。さてそのテントにはなんと名付けるか……」
「ナーガも当然一緒に帰るよね?」
俺は聞いてみた。
「私はもともとあのあたりが住処なんですよ。どちらかというと今が連れ出さてるみたいな感じで……」
「自分からついてきておいてよく言うよ」
オベリスクは笑った。
「まぁまずは今晩は乾杯じゃのう。生憎とここではビールは飲めんがな……」
ヘジテが言った。オベリスクもナーガも笑っている。
「あ、一つオベリスクに聞きたかったんだけどさ、君はキャンプってどういう意味だと思っているのかな?」
「変なことを聞くな。……キャンプというのは気の置けない仲間が集まってワイワイ楽しくやる事だろう? 他にもなんかあるのか?」
「……いや、合ってるよ」
これは当分ソロキャンプはお預けのようだ。
※そうですキャンプとは『気の置けない仲間が集まってワイワイ楽しくやる事』という定義に私も賛成です。ソロキャンプはどうだって? それは仲間が自然だってだけの事です(ワイワイは心の中で)。
多分これがこの物語の最大のテーマです。




