第49話 裏切り
四人の中からオベリスクひとりが王の前に進み出る。頭を下げることはしない。
「魔王よ今戻ったぞ」
「うむオベリスクよ。随分と遅かったではないか、シンラが転生してしまったことはもう聞いていると思うが、マーダーとラファエルは既に帰り着いて、お前の到着を心待ちにしていたぞ、もう数日遅ければあの二人で決定戦を争ってもらおうと思っていたところだ。着いた草々で申し訳ないが、明日にでも決定戦を行ってもらうぞ。もう儂はこの体のあちこちにガタがきていてな……一日でも早く引退して転生したいのだ」
「まぁ余が帰ってきたらもう勝負は決まったようなものだろう。何と言ってもアルベルトが戦ってくれるのだからな。他の二人の準備が整っているなら、別に今からすぐに決着をつけてもいいのではないか?」
「随分と遅れて帰ってきて、なかなかの言いようだね」
広間の前の方の出入り口から、一人の魔族の少年が現れてそう言った。オベリスクはその少年の方を見て慌てるでもなくこう言った。
「なんだマーダー、お主アルベルトに勝てるような配下でも育て上げたのか? あ、まだ挨拶してなかったな。久しぶりだなマーダー。色々と話したいこともあるから、さっさと決定戦なんて終わらせようぞ」
マーダーは少し顔を赤らめる。
「なれ合いは嫌いだ。聞いて驚けよ、今回俺の為に戦ってくれるのは彼だ!」
マーダーがそういうと、先ほど彼の入ってきた入り口から、アルベルトが現れた。
オベリスクはそれを見て驚く。
「なんだと!? まさかアルベルト、お前マーダーに寝返ったのか!!」
オベリスクの言葉にはアルベルトは何も答えない。
「……まぁ良い。しかし、であればどうして昨日言わなかったんだ!?」
ようやくそこでアルベルトは口を開く。
「昨日は大変ごちそうになりました。正確にはオベリスク様はまだ魔王城には帰還されていませんでしたので、決定戦の内容にかかわることは申し上げられませんでした」
「……お前自分のしていることが分かっているのか? また戦争が始まるんだぞ! お前あんなに無益な殺生は嫌だって言ってたじゃないか!!」
アルベルトはその問いにはまた何も答えなかった。
後ろの方にいた俺とヘジテ、ナーガはひそひそと話す。
「どういう事なんだよこれ?」
「儂にもさっぱりわからん。アルベルト殿は完全にオベリスク様ラブなはずなのに、どういう風の吹き回しなんじゃろう? あれじゃないか? ケンロー殿がオベリスク様と親しそうにしているから嫉妬しているんじゃないのか?」
ダメだ。この爺さんの頭の中は中学生だった。
「しかし、こうなると誰がアルベルト殿と戦うんでしょうか? まさか私ですか? 竜族は魔王争いには関わってはいけないんですよ」
「まぁオベリスク様は人望も厚くて人気もあるから、誰かしら手を挙げるじゃろう。しかしアルベルト殿より強いものなど、どこにもおらんだろう?」
「ヘジテさんずっと自信満々だったじゃないですか? こういうのっていい所見せるチャンスなんじゃないんですか?」
「何を言っておる。お主はアルベルト殿を知らないからそんな事をいっておるのだ。儂が勝てるわけがなかろう。儂はこう見えて年寄りなんだぞ」
こう見えてって、どう見ても年寄りではあるが、よほどあのアルベルトとかいう魔族は強いらしい。ずっと魔王城にいるヘジテがそういうのだから間違いないだろう。
「後ろ、ごちゃごちゃうるさいぞ!! アルベルト相手なら誰が出ても同じだ。ケンロー!! お主余の為に死んでくれ! 大丈夫、このところ結構蘇生魔法の方も力が上がってきている」
死ぬ前提で指名するのはやめて欲しい。しかし昨日からそこのアルベルトにカチンと来ているのも事実だ。負けたら負けたでオベリスクは魔王にならなくて済むわけだし……いや、戦争で大勢の血が流れれば彼女は悲しむに決まっている。ここは負けるわけにはいかない。
「オベリスク様、本当にその様な浮浪者風情に国と世界の命運をかけられてもよろしいのですか?」
アルベルトがまた更にカチンとくることを言っている。
「なめるなよアルベルト、このケンローの職業はな、……キャンパーなのだ!!」
「キャンパー?」
アルベルトが変な顔をして聞き返す。
「キャンパーとはキャンプをするものなのだ、そうだなケンロー」
オベリスクが訳の分からないフリを入れてきた。確かにキャンパーの意味は間違っていないが、職業ではないし、そんな戦士や魔導士のようにいわれても困ってしまう。あ、もしかすると決定戦というから勝手に、力と力のぶつかり合いだと思い込んでいたが、ひょっとすると料理対決とかなのかもしれない。漫画ではそういうパターンもある。
「それで対決するといっても、どのように勝敗は決めるんでしょうか?」
誰にともなく聞く感じで俺はそう言った。
「そんなの力と力のガチンコ勝負に決まってるだろうが!!」
そうオベリスクが叫んだ。
「今やっても明日やっても同じだ。魔王よ今から闘技場を借りるぞ。それでいいかアルベルト」
「私はいつでも構いませんよ。というかこんな浮浪者と戦ってどうするというんでしょうか? 死んでもきちんとご自分で蘇生させるなり、捨てるなりしてくださいよ。オベリスク様」
やはりこの男にはカチンとくる。しかしなめていてくれればそれだけ勝機に繋がるという事はあるかもしれない。
「参ったのう、一応候補同士の対決は、息のかかった側近の実力を披露する場でもあるから、観客も入れなければいけないのだが今すぐとなると……まぁよい、すぐに城内で手すきのものを闘技場に集めよ」
魔王の言葉に広間にいた魔族は散っていった。
※キャンパーというのは職業ではなく、サーファーやスキーヤーと同じくキャンプをするひとですよね。じゃあキャンプをしていない時は何と呼ぶのか……やっぱりキャンパーだと思います^^。




