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第48話 晩餐

 宿に戻ると早速暖炉で焚火を始めた。燃やしている薪とは別に、木材を組み合わせて立ち上げて上に網を乗せた。


 無事に魔王城に生還した記念に食べようと思っていたビフテキを焼く。煙は上部の煙突に吸い込まれていくが、肉の焼ける旨そうな匂いは部屋中に充満した。寝室が別でよかった。


 もうあと何回オベリスクと食事を共にできるのかは分からない。出し惜しみは無しだ。残り少なくなってきた粉末醤油系調味料を取り出して肉の上に振りかける。肉を焼きながらビールを注いで配る。


 アルベルトにはシェラカップに注いでやった。いけ好かない奴だが、オベリスクの側近だというし、客人なのだからもてなさければならない。アルベルトは注がれたシェラカップに立ち上る炭酸の泡をじっと見ている。


「これは発泡酒ですか?」


 そうして乾杯もしてないのに一口飲んだ。


「苦いなこれは……だが悪くはない」


「ダメだぞアルベルト、みんなで飲むときはまず乾杯をするのだ」


 そう言ってオベリスクは俺やヘジテ、ナーガを誘い合わせて無理やりアルベルトのシェラカップにビールの入った容器をぶつけ合わせる。


「今日は何に乾杯ですかのう?」

 ヘジテが言う。


「そんなの無事の帰還とアルベルトとの再会に決まっているだろう。あ、それ言ってから乾杯だったか」

 そう言ってオベリスクは笑った。アルベルトはその様子をじっと見ている。


「よし牛肉が焼けたから配るよ」


 俺はわざわざ収納して持ってきた、皿代わりの木の板の上に焼けたビフテキを取り分けて皆に配った。皿が足りない分はメスティンを使った。すでに全員箸は使いこなせるようになっている。折り畳みフォークはアルベルトに手渡した。


 そうしてみんなで一斉に肉にかぶりつくかと思えば、全員がアルベルトが食べる様子を見ている。


「これは牛の肉を焼いて、何やら面妖なものを振りかけたようだが……」


 二度と失敗はしない。アルベルトの皿にのせた肉は、事前に一口大に切り分けておいた。彼はそのひと切れをフォークで刺して口へと運んだ。数度噛んでからそれを飲み込む。


「……うまい! これはうまいですぞオベリスク様!!」


 ほかの皆はそうだろうそうだろうという顔でアルベルトを見た後、満足したように自分の分の肉にかぶりつき、一口食べてはビールを飲んだ。あっという間に最初に焼いた肉は平らげてしまった。しかしそこはそつなく、俺はみんなが肉を食べている間に一夜干しの魚を焼いていた。


 肉を食べ終わったアルベルトは焼けていく魚もじっと見ている。一夜干しで残った水分は、油と混ざって時たま炎の中にしたたり落ちる。ジューッという音と共に、今度もまたおいしそうな匂いが広がる。俺は健康のことも考えて生野菜も少しずつ皆に配った。もちろんその後上からマヨネーズをかけていく。


 アルベルトはなんともよくわからない表情を浮かべながら、野菜も食べる。そうして次は焼けた魚も食べていく。


「……なるほど、なかなかお帰りにならないと思っていたら、こういう事でしたか……これは人族の文化? 或いは異世界の文化なのですか?」


「ああ、これはキャンプっていうんだ」


 オベリスクが得意げに言った。しかしこれはキャンプではない。彼女の中でキャンプの意味はちょっと違うものになっていることを、俺はその時初めて知った。


 食事会はそれから二時間くらい続いた。残念ながら樽入りのビールは空になってしまった。次に買い出しに行くときは樽であっても何本か買っておいたほうが良さそうだ。


 そこから先はワインを飲んだ。ワインはこの町でも調達できるらしい……もっとも俺はここでは文無しだから、魔石と交換するかヘジテかナーガに買ってもらうしかないのだが……。


 宴もたけなわと行ったところでアルベルトが言った。


「オベリスク様、明日は魔王城にはいらっしゃるんですよね」


「ああ、ここまで来たんだから、もう面倒くさいとか言って逃げないよ。魔族にも人にもあまり死んで欲しくないしな。面倒だけど、マーダーに全部押し付けておいて口だけ出すなんてできないから仕方ない。決定戦はよろしく頼むぞアルベルト」


 アルベルトは優しく微笑むだけで、それには何も答えなかった。


 翌日宿泊施設を後にして、四人で魔王城へと向かった。丘に登ってみた時はすぐそこという感じであったが、歩いていけば門まで行くのに二時間近くかかった。オベリスクは顔を出しているので、門は当然顔パスだった。というか人間の城のように兵士が門番をしているというわけでもない。なんとなく門のあたりにいる魔族がその出入りを見ているという感じである。


 遥か長い時を、転生を繰り返しながら共に過ごしてきたという魔族は、確かにすべてが親戚同士のようなものなのかもしれない。すれ違うものすべてに挨拶をしながら、案内役も携えずに我々は魔王のいる間へと到着した。


 大広間の正面には大きな椅子が置かれ、そこに魔王が座していた。


 雰囲気は予想を裏切らないものであったが、少しイメージと違ったのは魔王の大きさだ。何か勝手に巨大なものだと思い込んでいたのだが、例えばオベリスクが魔王になって成長したとして、キングオークのように大きくなるわけもない。もしそんなことになれば、ベッドや浴槽のみならず、町も城もすべての使い勝手が悪くなる。


 前にオベリスクは色々なサイズは結局人間のサイズが基準になっていると言っていたが、確かにそのようだった。


※粉末醤油系調味料は最初に誰が作ったんですかね? あれは恐ろしいです。 あとコンソメもすごいです。このふたつで他の調味料が不足してしまった場合もなんとかなります。

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