第47話 観光
全員が風呂に入って身ぎれいになったところで、まだ夜には幾分の時間があってすることが無くなった。
「折角初めて来た魔族の町だから、ちょっと観光してきてもいいかな?」
俺がそういうと、三人は一斉に俺の方を見た。
「観光というと見て回るという事ですよね。この町にはそのような場所はありましたかね?」
ナーガがヘジテの方を見ていった。
「武器屋や道具屋に行けば少しは楽しめるかのう? 但しケンロー殿は魔力を一切持っていないので、ここでは一文無しという事になりますぞ。わずかにアルティメットドライブが出す魔力をまとっておるが、そんな貧乏くさいものが現れても店の方は嫌な顔をするだけでしょうな」
ヘジテがそう言った。えらい言われようだなと思ったが、確かに魔力が貨幣代わりのこの町では、俺は乞食か浮浪者のような存在なのかもしれない。
「ここまでくればあれだろう、高いところに行けば魔王城が見えるんじゃないか? 観光名所というのはそういうものではないのか?」
オベリスクが言った。
「なるほど、丘の上にある空き地からなら魔王城が見られるでしょうな。確かにあそこの眺めはいい。わざわざ風景を見たいなんて変わった魔族もいないだろうから、誰かに見られる心配も少ないじゃろう」
ヘジテが言った。
かくして四人で、晩飯前にヘジテの案内で散歩をすることになった。人の姿のないその空き地は小高いところにあって、確かに眺めが良かった。そんなに離れていないところに城らしきものも見える。
「ケンローあれが魔王城だよ。なかなか立派なもんだろう?」
それは俺がイメージしていたものより遥かに巨大だった。ゲームやサブカルのイメージで魔王城と言えば、中世の城をおどろおどろしくしたような、薄気味悪い佇まいかと思っていたが、全然そんなことは無かった。理路整然と塔状の建物が重なり合って立ち並び、重厚な外壁に貼られた石材は、傾きかけた太陽の光を受けて鈍く輝いていた。
「明日あそこに行くんだよね。……うん、少し楽しみかもしれないな」
「まぁ食事とかは期待するなよ。あと風当たりは強いだろうから、余からあまり離れないようにな」
そう言ってオベリスクは笑った。風あたりが強いというのはどういうことなのかなと一瞬思ったが、人間でも王族だろうが浮浪者を城に連れ帰れば、そりゃ歓迎はされないだろうなと直ぐに納得した。
四人で魔王城を眺めていると、魔王城の方から何かが飛んでくるのが見えた。それは段々とこちらに近づいてくる。背中にはコウモリのような羽が生えていて、それを羽ばたかせて飛んでいるのだ。
「あれ? もう来てたのか」
その飛んでくるものを見てオベリスクが言った。飛んできたのは一人の魔族だった。人間の形をしていても、頭に角が生えて背中に羽が生えているのだから、俺でもすぐにそう思った。その魔族は丘の上に降り立つと、こちらの方に歩み寄り、オベリスクの前でひざまずき、こうべを垂れてこう言った。
「オベリスク様、おかえりなさいませ」
「うむ、既に来ているとは思わなかったぞ。少しばかり待たせてしまったようだな」
「いえ、ヘジテがナーガに連れ去られたとお聞きしまして、もしやと思い馳せ参じた次第です。薄く広く感知結界を張っておいて良かったです」
それを聞いてナーガが驚いている。そうしてヘジテに耳打ちする。
「連れ去られたってどういうことですか?」
「いきなり休みを取らせろとか言いにくいではないか」
ヘジテは小さい声でそう答えた。
「あまりにお帰りが遅いようなので、私はてっきりまた転生されたものだとばかり思っておりました」
「ああ、シンラのやつはまた転生したそうだな。余が帰らねばマーダーが魔王になりそうだと聞きつけて、慌てて戻ってきたのだ。あいつが魔王になると、すぐに人族と争いを始めるからな……ああ、そうだ紹介しておこう、ここにいるのが試練の最初の地の結界内で知り合ったケンローだ。異世界からの転移者だ」
オベリスクの言葉に、その魔族の男は初めて俺の方を見た。
「ケンロー、この者が話していた側近のアルベルトだ」
オベリスクは魔族の男をそう紹介した。
「……なぜ浮浪者と一緒にいるのかと思えば転移者でしたか。他者の協力を得ることは出来ない試練ですが、転移者ならば問題ないという事ですか……しかしこのように魔力のないものに利用価値があったとも思えない。……お前まさかオベリスク様に変なことはしてないだろうな」
詳しい事情は分からないものの、なんとなくその物言いにはカチンと来てしまった。
「変なことというのはどういう事をいうんでしょうか? 何分人間なので魔族の流儀は分かりかねますが」
ヘジテとナーガが俺の方を見てあわわという顔をしている。
「ほう、人族風情がよく吠える」
そう言ってアルベルトは、俺の事を冷ややかな視線で睨んだ。
「なんだなんだ、仲良くせぬか。そうだアルベルト、今から晩飯だけど、良かったら一緒に食べていかないか?」
「それはまぁ、オベリスク様のお誘いでしたらお断りするわけにも行きませんが‥‥…」
「ほら、すぐそこだから行った行った」
そう言ってオベリスクはアルベルトの背中を押した。先ほど生えていたはずの翼はもうどこにも見当たらなかった、服が破れていないのはとても不思議だった。
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