第46話 魔族の町
草原を抜けるのにはそれから二日ほどかかり、その次の二日は山越えをして、その後一日はまた森の中を歩いていた。
しかし最初にいた森と違うのは、馬車や人が通れるように、森の中であっても道状に草や木々の生えていない部分がある事だった。
「しかし見事に魔王城に近づくまで村や町は通らなかったな。よくもまぁあんな僻地を選んだもんだ。今の魔王も大したもんだな」
「今の魔王もオベリスクは知り合いなのかな?」
「まぁな、持ち回りみたいなもんだって言っただろう。転生のタイミングはズレるから肉体年齢は全然違うけど、基本的にはみんな知り合いだ。主の世界で言えば親戚みたいなもんなんだろうな」
「その現魔王は、マーダーみたいな強硬派についてはどう思っているんだろう?」
俺はオベリスクに聞く。
「うむ。基本的にはそれぞれの考えを尊重するという感じだな。魔王候補にあげるのだから、多様な考え方があっていいという事なのだろう」
「そろそろ見えてきましたぞ」
ヘジテがそう言った。道の向こうには建物がいくつか立っているのが見える、どうも小さな町のようだ。
「最後の最後でやっと一つだけ町を通れたな。ずっと風呂に入っていないのでみな臭くてかなわん」
「私はあまり汗もかきませんから、臭くはないはずですよ」
ナーガがオベリスクの発言に文句を言っている。
「ここは基本的には魔族の街だから獣人族やデミヒューマンがいるくらいで、人族はいないし滅多に訪れることも無い。だから主らのような食べ物や文化には期待するなよ」
そう言ったあとオベリスクは布で顔を隠した。
「ん? どうしたの?」
「私やヘジテはいいですが、オベリスク様は有名人ですからね。お顔を出したらちょっとした騒ぎになるかもしれません。ケンローも一応顔を隠した方がいいかもしれませんよ。この辺りでは人族はかなり珍しいですから」
そう言ってナーガは顔を隠すための布を出してくれた。俺はそれで顔をグルグル巻きにする。
「ああ、まとっている魔力がゼロっていうのも悪目立ちするから、ブレスレットで出力は1でいいから、連続動作にしておいた方が良いだろうな」
ヘジテが言った。
町の中は前に行った人間の町ともそう大差が無いように見えた。ただ歩いているのは当然魔族やデミヒューマンだ。しかしずっとオベリスクやナーガ、特に最近はヘジテとも一緒にいるので全く違和感がない。言語伝達のスキルのせいもあるのだろうが、あちこちで聞こえてくる〝人々 〟の声も聞きなれたもののように感じてしまう。
「まずは宿をとろう。魔王城には明日行くとして、流石に風呂ぐらいは入ってきれいにしておきたいからな。但し問題は晩飯だな。基本的に魔族は魔力のあるところでなら食べなくても生きていけるしな。食事は酒と同じで趣向品だ。今更生肉もなんだし、ここにはビールもないし……」
オベリスクがぶーたれている。
「なら一棟貸の宿泊施設はどうですかな? この町にはそういうところがありますぞ。そこなら風呂もあってベッドもある。キッチンは無いと思いますが、暖炉があれば肉ぐらいは焼けるじゃろうて」
ヘジテがそう提案した。
「でもこんな季節に煙突から煙が上がっていたら不審がられるんじゃないか?」
「儂はドワーフですよ。泊ったついでにちょっとした鍛冶仕事をするのに火も使う。でかい暖炉のある宿泊施設ってのもあるんですよ」
ヘジテの案内で一行は少し町はずれにある宿泊所に行った。ヘジテの言った通りそこは一棟貸で、敷地内には小さな家のようなものがいくつも建っていた。一番町に詳しく顔も効くヘジテが受付に行って手続きをしている。
「なぁオベリスク、魔族の間でもやっぱり支払いには金銭が使われるのか?」
「人族とは違うから、お金のようなものは存在しないぞ。対価は魔力そのものか魔石で支払う。物々交換というのもある」
オベリスクが答えた。
「それって不便じゃないか?」
「そうでもないぞ、金なんてものは実体が無いだろう? それ自身は何の役にも立ちはしない。その点魔力も魔石も実際に使えて役に立つからな」
なるほど確かにそれも一理あるなと思った。
宿泊棟を聞いてヘジテが戻ってきた。四人でそこまで移動する。建物にはリビングと呼ぶべき大きな広間と、ベッドが二つ置いてある小部屋が二つあった。加えて風呂などの水回りももちろんついている。
「人間が泊るホテルと殆ど変わらないんだね」
ベッドルームを見て俺はオベリスクにそう言った。
「うむ、一棟貸じゃなくても宿とは大概こういうものだぞ。魔族は様々な形状をしているからな。全てに合わせて建物や施設を整備するのは難しい。結果基準になるのは人族ぐらいの大きさになってしまうのだ。デミヒューマンも大体似たサイズだな。デミヒューマンに近くてもオークなどはでかすぎて、このベッドでは収まらんだろう」
とにかくまずは浴槽にお湯を貯めて全員風呂に入ることになった。浴室はそんなに大きくはないので、入浴は一人ずつだ。
暖炉は壁際ではなく広間の中央に大きく円形でしつらえてあった。煙はその上部に設置された円錐形のフードから、上に上がって排気口から外に出るようになっている。暖炉を囲む形で椅子も置いてある。これは前の世界であってもなかなかしゃれた作りだと思う。
俺は早速そこで焚火を始めようとしたが、今火を焚くと部屋が暑くなるので、晩飯時まで我慢しろとナーガに言われた。言われてみれば確かにその通りだ。ここはあくまで室内である。
※私や仲間はやりませんが、バンガロー泊というキャンプ手法もありますよね。最近は照明器具だけでなくトイレや風呂がついたりしているものもあるようですが、それってコテージですよね? ちょっとキャンプとは違うような気がします。




