第44話 野営
テントでは久々に、オベリスクと二人並んで横になった。まわりには感知魔法を張ったとのことで、外敵が来ればすぐにわかるとのことだった。小用などでテント外に出るときはあまりテントから離れないようにとの注意を受けた。
今日はなんだかんだ言ってオベリスクは戦い通しだったので疲れていたのだろう。横になると直ぐに寝息を立て始めた。俺の方はいつぞやと同じで、まだ少しだけ寝るには惜しいような気がして、音の出ないようにインナーテントの入り口のシッパーをあけて。テントから首を出して外を眺めた。
草の間から見える草原には丸い月が浮かんでいる。時たま風に流された雲がその前を通り過ぎていく。
日中も多分聞こえてはいたのだろうが、意識には上がってこなかった虫の声もよく聞こえる。魔王城にはあと五日ぐらいで到着するだろうとオベリスクは言っていた。そうなると次は魔王を決める戦いがあって、それに勝てばオベリスクは次期魔王になってしまうのだろう。
いや、現魔王が引退するまでにはまだしばらく時間があるのかもしれないが、にしても国……もしかすると世界の要職についてしまえば、キャンプをしながらのんびりするなどという事は出来なくなるかもしれない。
そうなれば俺はあのテント場で一人でずっと過ごすことになるのだろうか? ナーガは定期的に買い出しに付き合ってくれるのかもしれないが、随分と寂しくなる。
いや、結界どころか森も抜けた今、あの最初のテント場に戻る事には意味があるのだろうか? 町に移り住むという手もあるのかもしれない。そのうえでたまに気分転換にキャンプに行く……前の世界にいた時と同じだ。
そもそもなぜ自分はこの世界に転移してきたのだろうか? 前の世界とこの世界はどうして似ていて共通の言葉も存在しているのだろうか?
考え出すと次から次に疑問がわいてくる。しかしまた月と満天の星空を眺める。すると細かいことはどうでもよくなる。これは前にいた世界でもこちらでも同じだ。こうやって星を眺めて、飽きたら眠ってそうしてまた太陽が昇って朝が来る。それ以上でもそれ以下でもない。
そこから先は明日の朝は何を食べようか? そんなことを考えながら、テントの入り口のジッパーを音を立てないようにそっと閉じて俺は眠りについた。
何かしらの気配を感じて夜中に目を覚ました。寝ぼけ眼で隣を見ると、オベリスクが上半身を起こしていた。
「主も気がついたか。どうも外側の感知魔法に何かが反応した」
オベリスクの話では仕掛けている感知魔法には二つあって、一つは極めて強力なもので、結界も兼ねている。この中には動物の類や弱い魔物は入って来れない。しかしオベリスクの現在の体では、これを広大な範囲に張ることは出来ないので、それはテントの周辺にだけ張っている。代わりにごく弱い感知網を広範囲にも張っているとのことだった。
その外側のものが何かを感知したという事だ。それは微弱なだけに相手が相当強い魔力を帯びていなければ感知できないとのことで、鳥や虫でもなければ魔物であってもかなりの強敵という事になる。
「内側の結界は解除して外に出るぞ!」
そう言ってオベリスクは勢いよく出入り口のジッパーを開くと外に出た。そうして感知した方角なのだろう、一方向をじっと凝視する。
「これは相当やばい相手かもしれないな」
そう言って、ヘジテとナーガの寝ているタープの方へと移動した。俺もその後に続く。そこには地面に座るヘジテの姿があった。
「起きていたか」
そう声をかけたオベリスクに
「そりゃそうじゃろう。結界も張ってない草原のど真ん中で野宿をするんだから交代で見張りをするのは当然じゃ。感知結界を張ったら手助けしたことになりかねんしな。オベリスク様は薄いならがらも張っておられたのでしょう? 何かひっかかりましたかな?」
とヘジテは答えた。
「あっちだ」
オベリスクはそう言って一方向を指さした。騒ぎに気が付いてナーガも起きてきた。
「これはキマイラですね。もしそうなら今のオベリスク様に倒すのは難しいでしょう。私たちは手助けできませんし、逃げられるのであればあとで合流する場所を決めておきましょう」
「キマイラか……あのレベルの魔物ならまぁ普通は逃げの一手だろうな。しかしキマイラなら話は別だ」
「逃げるんですかな?」
ヘジテが聞く。
「あやつは他の魔物と違って動物に近く、倒しても風化することなく肉体がこの世にとどまるからな。その肉は実に美味だと聞いたことがある。命をかけるかいもあるだろう」
「キマイラって強いんですか?」
俺はナーガに向かってそう聞いた。
「まぁキングオークと比較してもいけませんが、パワー以外はすべて上でしょうね。特に私と一緒で火を噴きますから、こんなところで戦ったら一面焼け野原になっちゃうでしょうね。戦いの心配よりもテントや装備品の撤収を急いだほうがいいですよ」
そう話しているうちにオベリスクは、キマイラが来るであろう方向に向かって歩き出している。
「装備の撤収はナーガに頼んでもいいかな? それぐらいなら手助けにはならないでしょう?」
俺はナーガにそう言った。
「私にはテントの畳み方とかは分かりませんので、丸ごと収納することになりますがそれでよろしいですか? 万が一壊れても責任はとれませんよ」
「その時はヘジテがなんとかしてくれるよね」
俺は今度はヘジテの方に向かってそう言った。彼は大きくうなずいている。俺は昼間にヘジテが改造してくれた斧を右手に抱えてオベリスクの後を追う。ブレスレットのダイヤル出力は1で、時間は連続にした。肉体強化のおかげで先を行くオベリスクにはすぐに追いついた。
「明日の朝飯に、あいつはちょうどいいと思わないか?」
オベリスクはこちらを振り返りもせずにそう言った。
「キマイラって尻尾は蛇だよね。そこ以外なら確かに旨そうな気はする」
※とにかくキャンプに行って何に感動するかと言えば星空です。ド近眼の私ですらものすごい数の星が見えますし、天の川というヤツも認識できます。




